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 真澄とTOMOは帰り道を歩いていた。だが、TOMOはそわそわしている。相当周りが怖いようだ。誰もTOMOの事は知らないような目で見ていて、あんまりじっと見ていないようだ。だが、TOMOにはそれさえ怖いようだ。よほどの対人恐怖症で、恥ずかしがりやなんだな。もう何年も外に出てないと、こうなるんだな。そんな人々の事を時々、ドキュメンタリーで見たが、まさかTOMOがこんな人だったとは。


 しばらく歩いているが、別れるのが嫌なようだ。もっといたいようだ。


「どうしたの?」

「もうちょっといようかなって」


 TOMOは少し恥ずかしそうだ。だが、真澄の事はちょっとは好きになったようだ。


「ふーん。じゃあ、飲んでいかない?」

「うん。いいけど」


 2人は、近くにある真澄の行きつけの居酒屋に行く事にした。TOMOは居酒屋に行った事がない。酒はごくまれに母と缶チューハイを飲むぐらいだ。


 2人は居酒屋の前にやって来た。その居酒屋は少し古ぼけた場所で、少し小さい。TOMOは引き返そうと思ったが、真澄に誘われたのだから、断れない。


 真澄は店の入り口の引き戸を開けた。その店は、10席ぐらいのカウンターと3つのテーブル席だけだ。


「いらっしゃいませ」

「2人です」


 真澄はVサインを出して、2人である事を示した。


「こちらへどうぞ」


 2人はカウンター席に案内された。カウンター席の向こうには厨房があり、店員が焼き鳥を焼いている。2人はカウンター席に座った。


「本日はご来店、ありがとうございます。お飲み物はどうなさいますか?」

「生中で」

「レモンサワーで」


 TOMOはレモンサワーぐらいしか飲んだことはない。誘われたけど、今日はレモンサワーしか飲もうと思っていない。


「かしこまりました」


 真澄は戸惑っている。もっと飲んでいそうに思えるけど、そんなに飲まないんだな。


「あんまり飲まないんだよね」

「うん」


 真澄は気になった。けっこうな期間、引きこもっているんだな。寂しくなかったのかな?誰かと遊びたいと思った事はあるのかな? モデリングを担当した人に会いたいと思った事はあるんだろうか?


「家に引きこもってるの?」

「うん。現実が怖くて」


 TOMOはいじめられて以来、現実が怖いと思い、家に引きこもるようになった。そして、その影響を全く受けないインターネットの世界にのめりこむようになった。それ以来10年以上、家を全く出た事がない。それどころか、お茶を飲む時や、たまに母と飲む時以外、自分の部屋を出ない。


「大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ。今日、ここに出るのも怖かったぐらいだもん」


 TOMOは今でも外に出るのが怖いと思っていた。だが、自分のモデリングをしたVtuberがデビューする事なく亡くなった、そして、その兄が遺志を受け継いでVtuberになったのを知って、その人に会いたいと思ったようだ。


「そんなに怖いんだ。でも、現実はそんなに怖くないよ」


 だが、真澄は怖いと思っていない。現実はいい場所だと思っている。いろんな人と直に触れあえるし、自分が成長できるから。


「本当?」

「本当だよ。楽しいよ」


 だが、TOMOは下を向いている。よほど現実が怖いようだ。


「うーん・・・」

「ずっとずっと閉じこもっていたら、楽しくないよ」


 真澄はTOMOの肩を叩いた。TOMOを励まそうとしているようだ。


「それでも・・・」


 と、そこに店員がやって来た。注文していた生中とレモンサワーができたようだ。


「お待たせしました。生中とレモンサワーです」

「ありがとうございます」


 2人はグラスを持ち、乾杯の準備をした。今日、出会えた事に感謝して、乾杯をしよう。


「とりあえず、カンパーイ!」

「カンパーイ!」


 2人はお酒を飲んだ。とてもおいしい。だが、TOMOはすぐに気分が良くなった。すぐに酔ってしまったようだ。


「おつまみはどうしますか?」

「ねぎま塩とレバーたれで」

「私は砂肝塩とハツ塩で」

「かしこまりました」


 2人が注文したおつまみを伝えると、店員は厨房の奥に行った。材料を取りに行ったようだ。


「飲むのは好き?」

「好きじゃないけど、嫌いじゃない。普通」


 TOMOはどちらかというと、あんまり飲まないようだ。いつも家に引きこもっていて、あんまりストレスを感じないからかもしれない。


「ふーん・・・。こっちは好きだな。TOMOさんも、絵描きやゲーム以外に楽しい事、色々見つけたほうがいいよ」


 真澄は心配していた。もっとたくさん、いい事を見つけて、成長してほしい。そうでないと、ダメな人間になってしまうだろうから。


「本当?」

「うん。もっと外に出て、しっかりと仕事を持って」


 真澄は励ましている。だが、TOMOは下を向いている。仕事をする事すら、怖いと思っているようだ。真澄はため息をついた。


「たびたびお母さんに言われてるんだけどね、現実が怖くて」


 TOMOは母に注意されている。もっと外に出て、仕事に就いて、自立しなさいと言われている。だが、なかなかその気になれない。やろうとすると反抗して、母に迷惑をかけている。母もすでにあきらめていて、TOMOのやりたい放題になっている。


「そうなんだ。頑張って、生き方を探してよ」

「うーん・・・」


 突然、真澄はTOMOにビンタを与えた。TOMOは驚いた。まさか、ビンタをされるとは。


「現実から逃げてんじゃないの!」


 その一言で、TOMOは気合が入った。そこまで言われたら、やるしかない。こんな経歴だけど、雇ってくれる会社があるだろう。これからは考えてみよう。


「・・・、ちょっと考えさせて・・・」

「わかった」


 TOMOは決意した。これからは自分で自分の居場所を探そう。そうすれば、もっと成長できるかもしれない。

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