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 帰り道の電車の中で、真澄は考えていた。昨日の照之の幽霊の事だ。照之の後を継いでVtuberになっていいんだろうか? それはモデリングを作った人には悪いんだろうか? 認めてくれるんだろうか? とても心配だ。もし認めてくれなかったら、照之に申し訳ない気持ちだ。真澄は迷っていた。


「うーん・・・」

「どうしたんだい?」


 突然、横の男が話しかけた。会社の同僚の山田だ。


「何でもないよ」

「ふーん・・・」


 山田は思った。真澄は何を考えているんだろう。何も言わないようにしよう。




 真澄はいつものように家に帰ってきた。照之がいない寂しさに、少しずつ慣れてきた。明かりはついている。すでに母が帰ってきているようだ。


 真澄は帰宅するとすぐに、2階の照之の部屋に向かった。ここは現在、自分がパソコンをする時の部屋になっている。照之が死んで以降、自分が持っているノートパソコンもここに移動させた。真澄は辺りを見渡した。やはりそこには照之がいない。


 真澄はパソコンを立ち上げた。今日の目的はネットサーフィンの他に、モデリングを担当したTOMOにメールを送る事だった。果たして、照之の遺志を受け継いでVtuberになる事を許してくれるんだろうか? 真澄はドキドキしていた。


 真澄はTOMOに向けてメールを送信した。



 TOMO様、テルの兄です

 昨夜、照之の幽霊が出まして、お兄ちゃん、僕の代わりにVtuberになってよと言われました。

 なので、その子を私にください。

 もしだめなら、諦めますが、どうしますか?



「ふぅ・・・」


 真澄は大きく深呼吸をした。TOMOはどんな反応をするんだろう。とても緊張する。だけど、しっかりと待たないと。


 数分後、メールが届いたという通知が来た。TOMOからかな? 真澄はメールボックスを開いた。TOMOからのメールだった。


「あっ、返ってきた!」


 真澄はメールを開いた。そこにはこう書いてあった。



 テルの兄様、テル様が幽霊として出てきて、代わりになってくれと言われたのですね

 ならば、あなたがVtuberになってもいいですよ!

 きっと、天国でテル様も喜びますよ

 オーナーになってくれて、ありがとうございます!



 どうやら、喜んでくれたようだ。なんといわれるだろうと思ったけど、認めてくれた。これで一安心だ。真澄はほっとした。


「はぁ・・・」


 だが、真澄は気になっている事がある。Vtuberと言われても、何の事かわからない。照之がVtuberになろうとしていた事を知るまで、全く聞いた事がなかった。


「だけど、どうすればいいんだろう」


 とりあえず、照之の遺志を受け継ぎ、Vtuberになったって事をXで報告しないと。真澄はXで、照之の遺志を受け継いでVtuberデビューしたと報告した。



 えー、テルの兄です

 この度、私がテルの遺志を引き継ぎ、Vtuberになる事になりました!

 Vtuberに関して、わからない事ばかりですが、よろしくお願いします!



 それでも真澄は悩んでいた。これからもっと頑張って、友達を増やしていこう。そこからがスタートだ。


「うーん、どうやるんだろうな」


 真澄は、Vtuber活動と言っても、何をすればいいんだろうとXでつぶやいた。ドキドキする。自分が何にもわからない状況だ。それでも、誰かが反応して、アドバイスをしてほしいな。


 しばらく待っていると、誰かが返信してきた。そこには、ゲームをしたり雑談したりと書いてある。


「ゲームしたり、雑談したりなのか」


 真澄は考えた。好きなゲーム、か・・・。何があるんだろう。テレビゲームは就職してからは週末ぐらいしかやらなくなった。照之は毎日のようにやっていたけど。


「好きなゲームか・・・。うーん・・・」


 真澄は自分の部屋に戻り、本棚を見た。棚には本の他に、ゲームソフトがある。みんな、給料で買ったものだ。就職してからの事、その量が多くなった。それまではお小遣いで買っていたのだが、自分で稼げるようになってからは、大量に買うようになっていた。ただ、両親には内緒だ。


「これ、かな?」


 真澄はソフトを隣の部屋に持ってきた。


「よし、明日から頑張ってみるか」


 準備はできた。だが、どうやったらモデリングと動きを合わせるんだろう。今の所、全くわからない状態だ。そこも周りに聞かないと。


「でも、今日はいろいろとやり方を聞いていこう」


 どうやってモデルを動かすんだろう。Xでつぶやいて、みんなにアドバイスをもらう事にした。何もかもわからない俺で申し訳ない気持ちでいっぱいだけど、頑張らないと。きっと照之も天国で応援してるだろうから。


 しばらくすると、返信が届いて、まずVtubestudioを開くそうだ。


「まず、Vtubestudioを開くのか」


 真澄はVtubestudioを開いた。画面には、白雪コン太がいるが、そこにはサンプルとある。おそらく、TOMOが送ったサンプル画像と思われる。それを本物と替える作業からだ。


「このアバターを、っと」


 どうやったら本物を動かすことができるんだろう。最初はなかなかわからなかったものの、フォルダごと指定の場所にコピーする事で入れる事が出来た。次は自分とアバターの動きを合わせる。目、口、笑顔、しかめっ面、眉毛といろいろと動かしていく。


「動いてる! 動いてる! すごーい!」


 真澄は感動していた。アバターが動くと、こんなに嬉しいとは。体験した事のない感動だ。


「次はわんコメとOBSっと」


 次にわんコメとOBSを開いた。これで配信する準備はできた。だが、今日は配信はしない。仕方を覚えるだけで、本番は明日にしよう。


「なるほど、こうやって配信するのか」


 ふと、真澄は照之の事を考えた。こうやって配信しようとしていたんだな。そして、自分の居場所を探していたんだなと思った。


「こんな事やろうとしていたんだな」


 と、真澄は1階に向かった。やり方がわかったところで、少し缶ビールを飲んで一服をしようと思った。


「仕組みがわかったところで、ちょっと飲もう」


 真澄は部屋に戻ってきた。座るとすぐに缶ビールを開け、飲んだ。明日は休みだ。飲んでも大丈夫だ。次に真澄は柿の種をほおばった。


「はぁ・・・。照之、俺、頑張ってるよ」

「おっ、頑張ってるのか」


 突然、照之の声がした。まさか、また来たのかな? 真澄は振り向いた。そこには照之がいる。また来たとは。


「照之!」

「驚いた?」


 照之は笑みを浮かべている。真澄は少し下を出した。


「うん」

「また来てくれたんだね。頑張ってね」

「うん」


 照之に励まされて、真澄は気合が入った。照之のためにも、Vtuber活動を頑張らないと。

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