3

 その夜、真澄はいつものように自分の部屋で寝ていた。真澄は部屋の隣に静けさを感じる。隣では夜遅くまで照之のパソコンの音が聞こえたのに、今ではもうしなくなった。夜になると、物足りなさを感じる。いるはずの照之がいないと、こんなにも寂しく思えるんだろうか?


 夜も更けた頃、真澄は激しい光で目を覚ます。こんな時間に誰だろう。尚之か真理恵だろうか? 真澄は辺りを見渡した。だが、そこには尚之も真理恵もいない。


「兄ちゃん・・・」


 照之の声だ。もう死んだのに、どうして声がするんだろう。


「ん・・・」


 真澄は眠たい目をこすりながら横を見る。そこには照之がいる。幽霊となった照之だろうか?


「兄ちゃん!」

「照之・・・」


 真澄は驚いた。どうして照之は目の前に現れたんだろうか? 真澄に会いに来たんだろうか?


「突然死んじゃってごめんね」


 照之は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。真澄や尚之、真理恵を残して自ら命を絶ってしまった。許してくれるだろうか? とても不安だ。


 真澄は思った。どうしてここに現れたんだろうか?


「つらかったんだろうな。その気持ち、よくわかるよ。で、どうしたの?」

「俺、Vtuberになろうと思ってた事、知ってるか?」


 真澄はうなずいた。生前はまったく知らなかった。だが、のちに照之のパソコンを開いて、照之がVtuberになろうとしていたのを知った。


「うん。パソコンのぞいたら、やろうとしてたって。お前が死んだ後、モデリングができたって通知が来てたんだ」


 モデリングが届いたのを知って、照之は驚いた。生前、モデリングができるのを待っていたのに。モデリングができれば、いよいよVtuberになれたのに。それを待たずしてパワハラという現実に負けてしまった。無念極まりない。


「本当か?」

「うん。自殺したと伝えたら、残念がってた」


 真澄は、テルこと照之が自殺したのを知った時の事を思い出した。せっかくできたのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「そうなんだ・・・。TOMOさんに申し訳なかったね」


 照之は、TOMOの事を考えた。照之も申し訳ない気持ちでいっぱいだ。もし、目の前にいるなら、謝りたいな。


「うん・・・。せっかくできたのに・・・。かわいかったのに」


 と、照之は何かいい事を思いついたかのような表情をした。


「あっ、そうだお兄ちゃん。僕の代わりにVtuberになってよ」


 真澄は驚いた。照之の代わりに、自分がVtuberになるなんて。


「えっ・・・。全く興味がないけど」


 真澄は戸惑っている。自分はVtuberになろうと思った事はないし、興味すらない。本当にできるんだろうか?


「ネットの向こうにいるみんなの前でゲームしたり、雑談したりするんだよ。そんなに難しくないよ」

「そう、かな?」


 真澄は考えている。みんなと交流できそうな場所だな。だったら、面白そうだな。


「やってみてよ。僕の後を継いで」


 真澄は少し考えた。かわいい弟の照之の願いは断れない。だが、本当にできるか不安だ。


「・・・、いい方向に考えておくよ・・・」


 真澄は考えた末、しばらく考える事にした。近いうちに、いい方向に考えよう。


「ありがとう」


 そして、辺りが光に包まれ、照之は消えていった。あまりのまぶしさに、真澄は目をふさいだ。


 真澄は目を開けた。もう朝だ。今さっきのは夢だったんだろうか? 全くわからない。


「はっ・・・、夢か・・・」


 ふと、真澄は朝の空を見上げた。あの空の向こうに、照之はいるんだろうか? 見えないけれど、きっといるだろう。


「照之・・・」

「真澄ー、ごはんよー」


 真理恵の声がした。どうやら朝ごはんができたようだ。


「はーい!」


 真澄は部屋を出て、1階に向かった。だが、一緒に降りてくるはずの照之がいない。ここでも真澄は物足りなさを感じる。


 真澄は1階にやって来た。だが、様子がおかしい、2人はそれに気づいている。きっと、照之がいない物足りなさを感じているんだろう。


「どうしたの?」

「何でもないよ」


 だが、真澄は何も言おうとしない。だが、2人は気づいている。本当は物足りないと感じているんだ。


「ふーん・・・」


 真澄は朝食を食べ始めた。自分の隣には、照之がいたのに、そこには椅子があるだけで、朝食が置かれていない。ここでも物足りなさを感じる。


「今日からまた仕事だね。照之の分も、頑張ってね」

「うん!」


 それを聞いて、真澄は背筋が立った。2人の子供は、真澄だけになった。やがて尚之が退職したら、この家を支えていくのは真澄1人だけになるだろう。将来のために、頑張らないと。


「ごちそうさま!」


 真澄はリビングのテレビでニュースを見ていた。ニュースでは、照之の自殺の事で社長が追及されている。自殺する前は普通の社長だったのに、こんなに騒がれているとは。社長は下を向いている。よほど非難を浴びているんだろうな。


「会社の事、やってるね」

「うん」


 見ているうちに、真澄は照之の事を思い浮かべた。照之はもう戻ってこない。あの時止められたら、今でも生きていたかもしれないのに。


「自殺は防げなかったのかな?」

「そうだね。だけどもう過ぎた事。受け入れないと」


 真理恵は真澄の肩を叩いた。そう言っているけど、なかなか受け入れられないよ。隣が寂しいよ。


「うーん・・・」


 と、リビングにいた尚之は立ち上がった。これから仕事に向かうようだ。


「行ってくるよ」

「行ってらっしゃーい」


 尚之は仕事に向かった。真澄はもう少ししたら出勤だ。その様子を見て、真澄は思った。照之はもっと早く出勤した。これだけ早く出勤すると、精神的にもダメージが大きかったのでは? 全く寝る時間がないし、残業ばかりでは、自由な時間が取れずに、精神的にも追いやられたのでは?


「はぁ・・・」

「どうしたんだい?」


 真理恵は真澄の様子が気になった。何を考えているんだろう。


「何でもないよ」


 真理恵は空を見上げた。だが、遠い空にいるはずの照之は見えない。


「今日からまた仕事だね」

「ああ」


 今日からまた仕事だ。照之の分も仕事を頑張らないと。そう思うと、力が入る。真澄は拳を握り締めた。


「頑張ってね」


 真澄は立ち上がった。そろそろ歯を磨いて、支度をしないと。また今日からいつもの日々が始まる。

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