第4話 防具より武器
――森林都市【ニヴァンメシティ】――
森林に囲まれた都市にして二番目の街【ニヴァンメシティ】に辿り着いた。
【イーチノイチ】の比べ、少し高いビルやら立派な建物が伺えたが、都会と言うにはまだまだ物足りない。
「SFとファンタジーの融合……結構よくできねるが、何だか気持ち悪いな」
遠目から見たら近代的な街に見えたが、街の随所では、ファンタジーらしい中世西洋の文明も見られるために、異物感を感じずにはいられない。
……こういったゲームの世界観を、きめ細かく知ろうとする人々もいるらしいが、ヘヴェーブは自分が納得する範囲内で考察するまでで精一杯だ。
「そろそろ武器作りに取り掛かりたいが……ブヨブヨで作れる武器なんてたかが知れてるだろ……」
ここまで彼が倒したのはプリンと【ドスプリン】のみ。あんなぷよぷよの素材で作れる武器があるとは思えない。
一度武具屋に足を運び、品揃えを見てから今後の方針を決める……これでいこう、とヘヴェーブはある程度の計画を立ててから歩きだす。
「よう冒険者、イカした髪だな」
素朴な風貌の男に、気さくに話しかけられる。プレイヤーかNPCか、判別は容易。頭頂部にプレイヤーネームがなければ、全てNPCだ。
”解析”という機能を使えば、プレイヤーの場合はステータスを、NPCの場合はそれの情報を閲覧できると聞いたため、この人で試してみることにした。
――
タツロウ・クサカベ
年齢
《45歳》
体重
《55Kg》
身長
《165cm》
スリーサイズ
《B.90 W.80 H.79》
会社勤めの男性。冒険者に憧れていた過去を持つ。
――
見てから、ヘヴェーブは一瞬でウィンドウを閉じた。
(誰が好き好んでオッサンのスリーサイズなんて見るんだよ、バカタレが!!)
と、文句を垂れたものの実際には世界観の作り込みに感心していた。
「なんだ兄ちゃん、照れてるのか?」
反応ももはや普通の人間と見分けがつかない。判別方法がわかっていなかったら、どっちがどっちか見分けられないだろう。
「ありがとよ。ところでオッサン、武具屋って何処にあるか分かるか?」
「武具屋か? えぇとな、あそこの突き当たりを曲がったらすぐだ」
「ふむふむ。助かったぜ」
道を尋ねても、普通の人間と何変わらぬ反応――ヘヴェーブは遂に怖くなってきた。
ある程度、フルダイブ型ゲームのNPCのAIは精巧に作られてはいるが、このゲームに関しては度を超えすぎている。
恐怖を覚えつつ、示された道を辿って武具屋に到着。
自動ドアに招かれれば、今度は厳つい店主が出迎えてくれる。
「いらっしゃい」
(うおっ……でけぇな、スリーサイズいくつだろう――って、いけねぇ)
早くも運営のバカタレ機能に毒されるところであった彼は、気を紛らす意も込めて、製作カタログを眺めた。
――
スチールブレード
値段 2000イートゥー
硬化木材剣
値段 1500イートゥー
アサルトソード
値段 2500イートゥー
――
「アサルトソード……プリンの素材と、見たこともねぇが鉱石だけで作れる割には、アイアンソードの二倍位の性能だ」
多少値は張るが『プリンのプリン体』とおそらくは新エリアの鉱石であろう『シミラルプラ鉱石』で作れる武器。
攻撃力が十も上乗せされる上に、耐久力も申し分ない。
「店主サン、この『シミラルプラ鉱石』っての何処で採れるか分かる?」
「そいつか? 森を抜けた先にある【煤振りの黒原】って場所で採れる鉱石だな。兄ちゃんレベルなら、もうちょっと待ってから向かったほうが――」
「マジッ!? ありがとよ!! 店主サン!!」
人の話も聞かず――いや『今の実力じゃ難しい』というニュアンスの言葉を聞いたからこそ、彼は全速力で武具屋を出て、森を抜けるべく疾走するのだった。
◇
――【煤振りの黒原】――
ピッケルは消耗品ではなく、全プレイヤー共通のアイテムとして初期から手にしている。
しんしんと、雪のように黒い灰らしきものが降り注ぐ、モノトーンの大地でピッケル抱えたアフロが走り回っていた。
「これか?」
ヘヴェーブが立ち止まる。その視線の先には、大きく倒壊した木造の小屋と、中から生えてくるように佇む巨大な鉄塊があった。
ヘヴェーブは鉄塊に向けてピッケルを振り下ろす。
刃先が激突すると、鉄塊の欠片が辺りに四散して彼の足元に散らばった。
それらを掻き分けて拾うと、ひときわ白く輝く鉱石があった。
「これだな『シミラルプラ鉱石』……金属にしてはツルツルしてるけど、まさかアイテム表記が嘘つくわけはないだろうからな」
ヘヴェーブはそんな調子で、鉄塊へピッケルを振り下ろしては拾い、振り下ろしては拾いを繰り返し、順調に『シミラルプラ鉱石』を集めていった。
要求数以上集まったところで、街へ帰還しようとしていた彼を待ち受けていたのは、一体のモンスター。
全身素っ裸の、小太りなおじさんを思わせるモンスター――ファンタジーでおなじみのゴブリンだ。
武器は――スパナに似た鉄製のものを携えている。
「さぁ、体力は回復してない! 一撃当たったら即死のバトル、始めようぜ!」
ゴブリンは奇声を発しながら飛びかかってくる。
その突進を刀身で受け止め、奴のガラ空きになった腹部へ蹴りを叩き込む。
地面に伏した奴は、最後の抵抗でスパナをぶん投げてきた。
やけに精度の良いそれに、危うく直撃しそうになるが、首をひょい、と曲げるだけで回避に成功する。
「新スキルのお試しだ!」
ヘヴェーブはぐっ、としゃがみ込んだかと思えばゴブリンの身長を容易に超える跳躍を見せつける。
上空でスキル『コメットブレイク』を発動。
アイアンソードを、さながら降り注ぐ隕石のように振り下ろし、重力に身を任せたまま墜落する。
叩きつけられた刀身は、ゴブリンを真っ二つにし、地面に亀裂を作り出した。
「ほほう、『サーフェイスショット』と比べてクセはあるが、威力はそこそこ……気に入った」
満足感と大量の『シミラルプラ鉱石』を抱えながら、彼は再び【ニヴァンメシティ】へと足を運ぶのだった。
◇
「あいよ、お望みの武器だ」
武具屋にて、ヘヴェーブは高揚感と共に新しい武器を受け取る。
無骨なアイアンソードとは違い、洗練された雰囲気が見受けられる黒い剣 アサルトソード。
「サンキュー、店主サン」
「あんたは不思議な人だな。殆どの冒険者が武器より防具を優先してくるのに」
「そりゃあ……守りだけ固めても、敵を倒せなかったら本末転倒だろ?」
「正論なんだがな……冒険者ってのは、命の危機に晒される職業だ。俺個人の意見では、生存を第一に考えるべきだと思うがな」
店主はそう言った。
この世界における常識――なのだろうが、彼からすればクソ喰らえ! な常識だった。
常識なんかに囚われて、やりたいことができないなんて――彼からすれば、どんなクソゲーをやらされるよりも耐えられない地獄だ。
「有り難いけどな、俺は人様の言うことで自分の生き様捻じ曲げられるのはカンベンだ。心配してくれるのは、十分伝わってくるけどよ」
店主はそれを聞き入れると、呆れたように笑った。
「冒険者ってのは、バカばかりだな。ほら、さっさと行け」
厄介者を追い出すように手を払った彼の顔は、どこか満足そうでもあるのを、ヘヴェーブは見逃さなかった。
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