第3話 鬼畜じゃないなら、鬼畜にすればいいじゃない
アルテイシアと別れ、レベル三十という目標を定められたヘヴェーブ。
とはいえ、鬼畜ゲーばかりやっていた彼がそこまで満足にプレイできるかどうかは、かなり怪しかった。
「聞いたところによれば……エリア毎にボスがいるんだっけか? ボスくらいは、プリンみたいなサンドバッグではないだろうな」
ぶつぶつ文句を垂れつつ、ヘヴェーブは森を突き進んでいく。
ボス――それは強ければならない物だ。随所随所で挟まれる強敵、それはプレイヤーの成長には必要不可欠な存在。
だが、こんな序盤で出てくるボスが『モンスハンティング4Grade』の克服個体のような強さがあるとは思えない。
あれを味わってしまった彼は、もうあれ並みの理不尽さ、強さでないと満足できなかった。
「あっ……いいこと思いついた」
アフロの変態が、語尾を気色の悪い笑いで濁し、奇天烈な笑みを浮かべる。
この笑みは、望む快楽が間近に迫った時に浮かべる悪魔の微笑みであった。
【霧隠の森林】のかなり奥地まで到達したころ、いかにもな広々とした空間が彼の目の前に現れる。
「するぜ、するぜ。ボスの匂い!!」
ヘヴェーブが武器を構えた瞬間、叢どころか生い茂る木々すらも揺るがして巨大なボスが満を持して登場した。
大地を揺るがし、ぷるるん、と液状の水色の巨体を揺らした巨大なプリン。
――肥大の権化【ドスプリン】――
Lv.7
「そんな事だろうと思ったぜ」
ヘヴェーブは呆れながらも、すぐに笑顔を見せたかと思えば、構えていたアイアンソードの矛先を自らに向け始めた。
赤いホログラムエフェクトが飛散する。
次の瞬間には彼の腹部を、アイアンソードの刀身がぱっくりと切り裂いていた。
対象年齢が低めだから、詳細に描写されてはいないが、リアルだとかなりグロいだろう。
そんな事をした為に、彼の体力は瞬く間に三分の一以下になってしまった。
一発でも喰らえば、彼の防御力であれば即死――という危機的状況を、この男は自ら作り出した。
「鬼畜ゲーじゃあねぇなら、自分から鬼畜ゲーにすればいいんだよ!!」
ヘヴェーブは興奮しながら、瀕死の状態でアイアンソードを構えた。
このゲーム独自の仕様で、瀕死状態になるとやや視界不良になるというものも相まって、大層な縛りプレイだ。
【ドスプリン】は跳躍し、その巨体を地面に叩きつけた。
彼はそれを難なく回避して、水色の巨体がぷるるんと揺れる。
その後隙をついてアイアンソードを振り下ろし、水色に染まったわがままボディを無造作に斬りつけた。
かなりの重量を誇っていそうなアイアンソードを、侍のような太刀捌きで華麗に振るいながら【ドスプリン】を攻撃。
ボディプレスが来たら全神経を集中させて回避した。
「ひゅーっ!! このヒリヒリ感……たまんねぇっ!!」
グラフィック、バトルシステム――『スーサイド・アルカディア』はどれをとっても一級品。
きめ細かく作り込まれたマップ。
レベル制ではあれど、リアルを忠実に再現した上で、それをゲームと上手く混合させ、レベル差を帳消しできる『弱点』システム。
万人受けする神ゲーではあったが、些かか彼が好むゲームとしてはスリルに欠けた。
この男が欲しいのはスリル、緊迫感、圧迫感の三種類。
一発食らったら即死、だが決して勝てないわけではないバトル。
例えるなら、目の前に札束をちらつかされながら針山の先端を歩かされている感覚――。
「最っ高に楽しいぜ!! このゲームに足りないのは、こういうスリル――気持ちよさだ!!」
悪魔のような笑い声を上げ、頬を紅潮させながらアイアンソードを振るう。
その太刀筋に【ドスプリン】は翻弄されながらも、攻撃される事に苛立ちを覚えたのか、あまりに威圧に欠ける咆哮を轟かせる。
「怒り心頭かぁ!?」
体力が削れることによる行動パターンの変化――そういうのはよくあること。
このゲームがそうだとは限らないが。
今までボディプレスしかしてこなかった【ドスプリン】の動きに、案の定変化が見られた。
ぽよん、どしん。ぽよん、どしん。と可愛らしい擬音が似合うが強烈な二連ダイブ。
しかも、狙いが的確で避けるのに一苦労な攻撃だった。
どんな攻撃でも当たれば即死。
その言い逃れのできない事実が、彼の回避する脚を突き動かす。
「そろそろ大手をかけさせていただこうか!」
アイアンソードを両手持ちに切り替え、その矛先が反射するわがままボディへと、刃を見せつけた。
表示されるホロウィンドウ――スキル『サーフェスショット』の発動宣告。
一番初期のスキル『サーフェスショット』。水面を斬るような一撃を与える、とある。
普通に打てば、ちょっと強い通常攻撃のような技だろう。
だが――このゲームでは大抵のエネミーに『ブレイク部位』というものが存在する。
そこは通常部位に比べ肉質が極端に柔らかく、攻撃して破壊することができたならばその瞬間に大ダメージを叩き出せる上、一定期間のチャンスタイム――『ブレイク状態』が発生する。
通常、ブレイク部位を一目で判断することは不可能だ。今までの攻撃で探せた訳でもない。
だが――この【ドスプリン】は、これまで腐る程倒してきたプリン達と形状は全く同じ。
奴らのブレイク部位は――あのくりくりした可愛らしい目と目の間、人で言えばこめかみに当たる部分だった。
スキル発動と同時に、ヘヴェーブは高々と跳躍する。
剣を自らの視線と水平に構え、狙いを的確に定めた。
「お前も一緒だろ? 弱点はよ!!」
満面の笑みからの煽り文句を言い放ち、スキル『サーフェスショット』をぶっ放す。
水平に放たれた、水面をも打ち砕くような強烈な斬撃。
発生した衝撃波に混ざり、【ドスプリン】の飛散した肉片が無造作に飛び散った。
奴の顔面は崩壊していき、次第に顔だけに留まらず、全身が崩れていき最終的には、腐る程持っている『プリンのプリン体』とそっくりの欠片に成り代わってしまった。
「初ボス討伐……縛りプレイはあんま好みじゃねぇんだが。それでも、なかなか俺好みな戦いだったな」
隠せぬ高揚感を胸に抱いたまま、討伐と同時に表示されたホロウィンドウへ目を向けた。
――
Level up!! ヘヴェーブ Lv.8
スキル『コメットブレイク』
『スパークスレイヴ』
を獲得しました!
――
「一気に三レベアップ……へん。こりゃあ、レベル三十なんてあっという間だろ」
ヘヴェーブはそうやって余裕をこいていた。
実際、『スーサイド・アルカディア』はこんな風にボスを倒し、レベルを上げてはより強いボスに挑む――というありきたりな進め方をする万人向けゲームであるためか、彼が望むような理不尽・高難易度な要素は皆無とは言えないが少ない。
だが、彼がそれはあくまで表向きの情報であると知るのは、もう少し先の話である。
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