第2話 例えるなら、俺つえーな異世界転生
ある程度の下調べをして、タクミは『スーサイド・アルカディア』――通称『スーアル』を購入した。
このゲームの設定としてはこうだ。
主人公――つまり、プレイヤー達はSFとファンタジーが融合したような世界で、『冒険者』という人々の危険を脅かす『モンスター』を狩る者として、各地を旅する……といったストーリーなのだという。
「SFか。この手のゲームでは結構珍しいんじゃないか?」
そう呟きつつ、ヘッドギアを装着した。
ヘッドギアにより閉ざされた視界は、やがて青白いホログラムによって覆われ始めて、このゲームを作った企業のロゴが表示され、『Welcome to Suicide・Arcadia』と歓迎された。
『ようこそ冒険者』
『まずはあなたの事について教えてください』
そうして始まったのはキャラメイク。
ロールプレイング――役になりきるゲームでは、キャラメイクしなければ始まらない。
「えーと、性別、男。顔のパーツ……結構あるな……」
フルダイブゲームにありがちな、あまりに詳細なキャラメイクを淡々と熟していく。
そうして出来上がったのは……現実の彼とはかけ離れた姿だった。
まず髪は赤色で、髪型はアフロ。
顔面は普通だが目の下から伸びるどこかの民族のようなペイントと、目元を覆うグラサンが台無しにしている。
「なかなかカッコいいじゃあねぇか。次は……お待ちかねの役職設定だな!」
彼はツッコミ待ちでも、変態な格好までもが趣味な訳では無い。これを本気でカッコいいと思っているだけなのだ。許してあげてほしい。
このゲームには『冒険者』と一口にいっても、様々な役職が存在する。
役職によって扱える武器やスキル、レベルアップ時におけるステータスの上がり幅も違う。
後から変えられないため、非常に重要な要素だ。
「このゲームそういえば、この間やった『モンス4G』の開発スタッフが多いんだったっけ」
ふと思い出したアフロの変態は、ホロウィンドウをスクロールし、数多くある役職のうち『
「使える武器、両手剣。まぁ、向こうで言うビッグソードみたいなものだろ。それで……ステータスは『攻撃と素早さが上がりやすいが、防御と特殊防御が上がりにくい』か……」
攻撃に当たらないことを前提とした役職……ということだろう。
アフロの変態はにぃっ、と笑いこれから待ち受けるであろう快楽に身を震わせた。
最高の想像ができたところで、役職は
『冒険者『ヘヴェーブ』、貴方にライセンスカードと武具を支給します』
『これにて冒険者登録は終了です』
『良き旅を』
青白い空間が崩れていき、次第に世界の形を次々と構築していく。
――はじまりの街 【イーチノイチ】――
ものの数秒で構築された、はじまりの街。
そこは謳い文句である『SFとファンタジーの融合した世界観』によく合った、周りは広大な自然を有していながらも、その中心にぽつんとできた鉄やらが用いられた住宅地で構成された街だった。
とにもかくにも、ヘヴェーブは動作確認を行う。
飛べる、走れる、よじ登れる。
意外と自由度が高く、ヘヴェーブは感心していた。
「うわっ……変態だ」
通りかかるNPCがそう呟く。
ヘヴェーブは彼を睨みつけながらも、またも感心する。
「あれが定型文なわけないよな。てことは、俺を見て瞬時にあのセリフを作ったってこと? さぞかし高性能なAIなんだろーな……」
悪口に気づいていないのか、気にしていないのか、動作確認の済んだ彼は歩き始めた。
歩きつつ、彼は自身のステータスを確認する。
――
ヘヴェーブ Lv.1
体力 100
攻撃 10
特攻 10
防御 10
特防 10
素早さ 10
武器:アイアンソード
――
「ステータス、はじめは一律なのか? レベルアップと共にだんだん偏りが見られてくるタイプだな」
その一言で、彼は走り出した。
ろくに探索もせずはじまりの街をものの数秒で抜け出した彼は、一目散に敵目掛けて駆けてゆくのだった。
◇
――【霧隠の森林】――
アイアンソードを振るい、ぷるぷるとしたスライム状のモンスター プリンを撃破する。
弾け飛んだ滴はアイテム『プリンのプリン体』としてドロップし、倒した張本人であるヘヴェーブには経験値が入り、彼のレベルがアップした。
――
ヘヴェーブ Lv.5
体力 170
攻撃 24
特攻 14
防御 11
特防 12
素早さ 21
武器:アイアンソード
――
かれこれ彼は、ここへ数十分は留まり続けており、プリンを虐殺するだけの別の意味での
「……い」
彼は突然立ち止まり、ボソボソと何かを呟き始める。
レベルは順調――いや、早すぎるぐらいにはアップしており、ゲームの進捗度合いとしては上出来なほどだ。
何が不満なのかと言えば――。
「弱ぁぁぁぁぁぁい!! 敵が弱すぎる!! こんっなプリン体で、この俺が満足できると思ってんのかセイラの野郎!!」
敵が弱すぎること。
まだ序盤のクセして何を言っているんだ、と思われるかもしれない。全くもってそのとおりである。
「あのアマ、はめやがったなぁぁっ!!」
初心者も多いであろうはじまりのマップで、アフロのサングラス男が、現実世界のクレーマーもびっくりなほど支離滅裂なことを叫んでいるのを見たら、初心者たちはログアウト不可避であろう。
「なんか言った?」
そんな最中、彼の耳が捉えたのはドスの効いた女の声。
もしやと思って振り返ってみれば、そこには見飽きたモンスターでもない、プレイヤーが立っていた。
長い金髪の女で、彼を睨みつける瞳は綺麗な翡翠色。
黒いブレザーの上から桃色のロングコートを羽織り、背中には武器である銃が多数マウントされてある。
「なんだお前は――っは!! さては初心者狩りだな!! 待ってました!! どうせレベル九十九くらいで、レベル五の俺をキルしに来たんだろ!? かかってこいよ!!」
血走った目で臨戦体制に入った彼を見て、女プレイヤーは本気のため息を漏らす。
「まて……そのため息の付き方、もしかして」
「やっと気がついた? 私よ。わ・た・し」
金髪の女の仕草に見覚えがあったヘヴェーブは、アイアンソードを格納した。
ゲーム内で実名を出すのはルール違反。だから本名を名乗ることはできないが――目の前にいるプレイヤーは間違いなく、彼をこのゲームに招き入れた『赤井セイラ』本人だ。
よくよく見れば、金髪や痩せ気味な体躯といった現実世界での特徴も一致する。
頭に表示されたプレイヤーネームを見てみると、彼女は『アルテイシア』という名前でプレイしているようだ。
「何叫んでたの?」
「てめぇな!! このゲーム、どこが俺好みの鬼畜ゲーなんだよ!! 雑魚ばっかじゃねぇか!!」
「序盤なんだから当たり前でしょ!? ついに頭イッちゃったの!?」
本気で心配した様子で反論したアルテイシアだったが、それはどうやら予測していた事らしく申し訳無そうに話し出す。
「はぁ……確かに、このゲームは万人受けを狙ってるから、君が好むような高難易度じゃないところが多いよ。そこは謝る……けど全部がそうってわけじゃない」
犬を宥めるよう、彼女は話を進めていく。
「……というと?」
「詳しくは……言えない」
言えない?
ヘヴェーブはその言葉に、異様なまでの突っかかりを覚えた。
いくらフルダイブといっても、たかがゲーム。ゲームの事で、他人に言えないような事なんてあるのだろうか?
ましてや、二人は赤の他人というわけではないのだ。
高校時代、同じ『
「とにかく!! お願いがあるの!! レベルが三十くらいになったら、私のところに来てくれる?」
そういいながら、アルテイシアからフレンド申請が来た。
彼女へ怪訝な表情を向けながらも、彼はおとなしくその申請を受理する。
「何が何だか分からないが……レベル三十だな? そうなれば俺の望むものを出してくれる……そういう認識で構わないか?」
「うん。それでいい。君の望む以上のものかもしれないけど」
アルテイシアが深刻な顔つきで言う。
彼女のゲームとは思えない真剣さには、いささかな思う部分もあるが、この男はとにかく飢える欲求を満たすことで頭がいっぱいだった。
「いいぜ、乗った。約束破ったら、俺はこのゲーム知り合いに高値で売りつけてやる」
「……チョロくて助かるよ」
煽りにも気が付かないほど、ヘヴェーブは興奮していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます