Scene 2

 月一くらいで行われるサークルの全体ミーティングを終えると、夕方だった。

 帰りは、男子のグループと女子のグループに挟まれて、一人で歩いている。

 正直に言って、すごく居心地が悪かった。

 ミナトは前を歩いているグループの女子たちとじゃれていた。


「もうっ、歌姫なんて呼び方、やめてくださいって言ってるじゃないですかー!」


 先輩の肩を叩いているミナトの声が聞こえた。

 周りから“歌姫”と呼ばれるくらい、ミナトは歌が上手だ。

 その歌声に童顔で愛らしいルックスも相まって、サークル内外で男女問わず人気がある。

 おかげで、現在ほぼ独占している状態の俺に、男子達から嫉妬が向けられているワケなのだが。

 気持ちは分かる。俺だって彼らと同じ立場なら、間違いなくソイツを妬むだろう。

 ミナトはそれくらい魅力的なのだ。

 でも、そんな彼女を俺はバンドメンバーとして独占中。優越感はハンパじゃない。


「お疲れ様でーす」


 駅に着いたところで、みんなが散り散りになる。

 駅に入っていく人、もう少し先にある別の路線を目指す人、バス停で立ち止まる人……。ミナトはそれぞれの方向に手を振っている。

 俺はその背中を、まじまじと眺めていた。


「ソウジは、この後どうする?」

「今日はバイトがあるから、ここで」

「了解。それじゃ、また明日ね!」


 最後は二人きりになり、そんな言葉を交わす。


「新曲、楽しみに待ってるよ! 私ソウジの曲好きだから!」


 ミナトがニカッと笑った。

 不意にドキリとさせられ、顔が熱くなっていくのが分かった。

 頭の中では『好き』という言葉が何度も再生されている。

 このままではマズい。

 気づかれないように、胸いっぱいに息を吸って、心を落ち着かせる。


「電車っ! そっ、そろそろ来そうだから……もう行くわ」


 どもりながら、傍を離れる。自然と早足になっていた。

 変に思われなかっただろうか。

 ……大丈夫そうだ。振り返ると、ミナトがこちらに手を振っているのが見える。

 安堵の息を吐いて、手を振り返した。

 危ないところだった。

 せっかくミナトが俺を信頼してバンドを組んでくれているのに、下心を出して嫌われるなんて、笑えないから。

 ただでさえ男子から目の敵にされているのに、ミナトに愛想を尽かされてしまったら、サークルでの居場所がなくなってしまう。

 だから、ミナトを女子として意識しちゃいけない。下心なんて抱いてはいけない。


「ミナトはバンド仲間、ただの『仲間』だ……」


 駅のホームで一人、俺はブツブツと自分にそう言い聞かせ続けた。

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