第2話 出会いの音

「ココが軽音部の部室だよ。まずは今日いるみんなに、蒼太君のことを紹介するね」


 鈴木さんに案内され、僕は今、第二音楽室に立っている。

 ドアの向こうから聞こえるギターやドラム、ベースの音に、これから先の不安と期待がないまぜになり、手が少し震えた。

 自分を落ち着かせるように深呼吸して、ドアを開ける。


 ドアを開けた瞬間、部室の中の音がピタリと止まり、視線が一斉にこちらへ集まった。

 緊張が一気に押し寄せ、思わず視線を落とす。

 そこに響いた舌打ちの音が、胸を締めつける。


(や、やっぱり、僕なんかじゃ……)


 僕の入部を歓迎されていない空気を感じて、足がすくむ。

 逃げ出したい、そう思ったその瞬間だった。


「おー、新入りっすか?」


 場の空気を変えてくれたのは、少しチャラそうな見た目の男子だった。

 茶髪に軽く巻いた髪、軽やかな表情で僕に手を差し出してくる。


「俺、夏目光っす! ベースやってます! よろしくっす!」


 その明るさに少し救われた気がして、僕はおずおずと手を握り返す。


「よ、よろしく」


 挨拶を交わした瞬間、部屋の奥から低く「よろしく」と声が聞こえた。

 そこには長い黒髪でどこか冷たげな印象を持つ、無表情な女子が座っていた。

 僕の目が彼女に留まると、鈴木さんが説明してくれる。


「あの人は望月咲良もちづきさくらさん。ドラム担当で、絶対音感を持っています!」


 名前を聞いて、彼女が微かに頷いた。それだけなのに、彼女の存在感は自然と際立って見える。


「よろしくお願いします……」


 そして、壁にもたれかかって僕をじっと見ている男子が一人。

 短髪で鋭い目つきの彼は、僕を見据えたまま口を開かないが、鈴木さんが少し困ったように笑いながら彼を紹介してくれた。


「彼は西島怜にしじまれいくん。蒼太君と同じギター担当で、部を支えてくれる頼りになる人だよ」


 西島君は無表情で「ふん、よろしくな」とだけ呟くと、すぐに視線を逸らした。

 でも、その一言が意外にも温かく感じられて、少しホッとする。


「それから……」


 一通りメンバーの説明が終わると、鈴木さんが僕に提案する。


「さ、蒼太君、まずはちょっとだけみんなの音を聞いてみようよ。せっかくだし、何か弾いてみる?」


 鈴木さんが嬉しそうに言って、僕を促してくれる。

 少し緊張したけれど、この部室での時間が楽しいものになればいいなと、心のどこかで思い始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

last band~君が奏でる音楽~ ネコを愛する中学生(略してネコ愛) @nekonitukaesigeboku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画