18.証言する者達
少し間を置いて裁判官が静かに言った。
「矛盾だらけではないですか。運命の恋人のレオンハルト王太子は現在国王陛下であらせられる。マリーズ・エヴァーグリーン侯爵令息が生まれ変わりであるはずがありません」
椅子に拘束され口枷をされたロサリンド・ダンスベルは、首を振りながら必死に呻いた。
「発言を許します。口枷を外してください」
裁判官が告げる。
ロサリンドは肩で息をしていた。喘ぎながらも言った。
「その、話は、きっと…」
息を整えたロサリンドは続けた。
「きっと、この国ではないのです。私のレオンハルト王子は別の国の人で、誓いの通りに同じこの国に生まれたのです」
ロサリンドはつらつらと都合のいい言い分を主張した。
「ロサリンド・ダンスベル、よく聞きなさい」
裁判官は告げた。
「この国を始め近隣の国々の記録を過去百年にさかのぼって調べましたが、レオンハルトという王子は我がアバークロン王国にしか存在しておりません。またクラリッサ・アーウェンと言う男爵令嬢の記録もこの国のみでした」
「嘘よ!!」
「静かに」
「嘘よ!嘘よ!嘘よ!!」
裁判官の注意も聞かず叫ぶロサリンドに、再び口枷が着けられた。
「類似の事件も、我が国の記録以外ありませんでした」
裁判官は静かにロサリンドを見つめて言う。
「よろしいですか?クラリッサ・アーウェンは三十八年前にレオンハルト王太子を殺そうとし、庇ったアリエノール王女に重傷を負わせたため、その場で斬り殺されたのです」
ロサリンドはぶんぶんと首を振る。
「そしてレオンハルト王子とクラリッサ・アーウェンの間には、特別な関係はありませんでした。全てがクラリッサ・アーウェンの思い込みなのです」
ロサリンドは抵抗をやめて、ぐったりと首を垂れた。
「クラリッサ・アーウェンは王族を弑そうとした罪、重傷を負わせた罪で罪人として記録されています」
ロサリンドの目から涙が流れ始めた。
「いいですか。クラリッサ・アーウェンは三十八年前に死んだのです。今いるあなたはロサリンド・ダンスベルなのです」
言い聞かせるような調子で裁判官が告げる。
「では、ロサリンド・ダンスベルの罪をもう一度言いましょう」
裁判官がロサリンドに言う。
「エリーズ・エルムフット侯爵令嬢の所持品の窃盗。学生時代の窃盗はエルムフット侯爵家の温情で問われません。ここで問われるのは、成人の夜会で身に着けていたものです」
ロサリンドが弱弱しく顔を上げた。
「ルビーのついた銀の飾り櫛、ルビーのヘッドのヘアピンが一ダース、絹のリボン、黒真珠と金細工のロケット・ペンダント、赤のドレスが一着、サテン張りの舞踏靴が一足」
裁判官が告げる間、ロサリンドは涙を流し続けた。かまわずに裁判官は続ける。
「これらをロサリンド・ダンスベルは、エルムフット侯爵家とエヴァーグリーン侯爵家の使用人及びエイコン団を名乗る少年達に盗ませました」
そして出入り口の方を見て言った。
「証人に入廷していただきましょう。まずはエルムフット侯爵家に当時雇用されていたメイド達です」
八人の女性が召喚された。
「右から一人ずつ証言してください。あなた方は何をしましたか?」
エルムフット侯爵家の元メイド達は、震えながら口を開いた。すでに何度も取り調べを受け、ロサリンド・ダンスベルの洗脳とも言える支配は消え去っていた。
「ダンスベル男爵令嬢にお金をもらい言われた通り、エルムフット侯爵令嬢の物を損ないました。破ったり踏みつけたりして、庭の隅に捨てました」
「私もです」
ランドリー・メイドだった五人は同じような内容を証言した。
三人の掃除メイド達は、マリーズ・エヴァーグリーン侯爵令息がエリーズ・エルムフット侯爵令嬢に贈ったものを、やはり金をもらってロサリンド・ダンスベルに報告したこと、花瓶や植木鉢を割ったり本やノートを破ったり汚したりして荒らしたことを告白した。
ロサリンドは彼女達を睨みつけていた。口枷がなかったら、罵っていただろう。
「では次にエヴァーグリーン侯爵家のメイドのスザンナに聞きます」
もう一人の女性が入廷してきた。
「あなたはロサリンド・ダンスベルのために何をしましたか?」
「ダンスベル男爵令嬢にお金をもらって、マリーズ様がエルムフット侯爵令嬢に贈ったものを報告しました。私が行った盗みは一回だけです。マリーズ様が贈った絹のリボンをエルムフット侯爵令嬢の髪から盗み取って、ダンスベル男爵令嬢にお渡ししました。私はどうかしていたのです」
手を揉み絞って涙を流しながら告白した。
「よろしい。では退廷を許します。処分は追って別に言い渡します」
九人は警備に連れられて退廷して言った。
「ロサリンド・ダンスベル、いまの証言を認めますか」
裁判官の問いに、ロサリンドはただ涙を流して首を振り続けた。
「では、元エイコン団の話を聞きましょう。最年長の二人、はいってきなさい」
二人の少年が入廷した。
「あなた達はロサリンド・ダンスベル男爵令嬢のために何をしましたか」
少年達は震えながら言った。
「お金をもらったんです。それで…」
「煙突から入って、色々盗んで渡しました」
「ロサリンド・ダンスベルに言われたものをですね?」
裁判官が尋ねると、少年達は必死に言い募った。
「ダンスベル男爵令嬢のものだと聞かされたんです!」
「ただ取り戻す手伝いだと言われたんです!」
少年達に裁判官は言った。
「もうよろしい。あなた達にも追って沙汰があります」
少年達も警備に連れられて退廷して行った。
「次はロサリンド・ダンスベルが、ローズ・リンと名前を変えて潜伏していた酒場の方々です」
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