7.協力者と処分
国王と王妃が入室し、一同は臣下の礼をとった。二人は上座に座ると、国王が言った。
「楽にして座るといい」
一同は着席した。
「まずは私から調査の結果を報告しよう」
国王直々の報告とは。一同に緊張が走った。
「ロサリンド・ダンスベルは、クラリッサ・アーウェンそのものだった。その件は後で話すが、ある部分にはとても狡猾で小賢しい。そして恋に、自分が恋だと思っているものに狂っている」
難しい顔で国王が切り出した。
「ロサリンド・ダンスベルは、去年エルムフット家で雇い入れたメイド全員を買収していた」
エルムフット家の者は「やはり」と思った。
「それからエヴァーグリーン家のメイドの一人も。エヴァーグリーン家の協力に感謝する」
王がマリアンナの方を向いて言った。
「クラリッサ・アーウェンを思い出して頭痛がした。お得意の『引き裂かれた恋人』とやらを持ち出して、マリーズ・エヴァーグリーンがエリーズ・エルムフットに贈ったものを報告させていたのだ。ロサリンド・ダンスベルに同情した何人かは、エリーズの物を損なっていたと告白した」
一同は静かに傾聴した。
「そしてロサリンド・ダンスベルは街の子供のスリ集団、煙突掃除組合に所属している一部の子供達が結成したエイコン団というスリ集団に金を払い、盗みを行わせていたのだ。名前からわかるように世間のことをよく知らない子供達だ。義賊なったつもりでやっていたらしい」
エイコン、どんぐり。
本当に子供なのね、とエリーズは思った。
「子供にとってみたら、依頼のあったもの以外の宝石やドレスよりも、今日もらえて遣える小金の方がはるかに魅力的だった、というよりそれが全てだったのだ。だからほかに被害が及ばなかったのは幸いだった」
国王は眉間に深い皺を刻んでつづけた。
「そこがロサリンド・ダンスベルの、クラリッサ・アーウェンのいやらしいところだ。クラリッサ・アーウェンは金の力に全幅の信頼を置いていて、金さえ渡せば思い通りになると考えていた。特に自分より下の者は、金を与えればいいなりになると思っている娘だった。ロサリンド・ダンスベルも同じだ」
「『私は貧しいものに施しをしてやったのよ。私のお金で何人も助かったの』などと嘯いていました」
国王の言葉を受けて、王妃が補足する。
「エイコン団がやったことは、ロケットとヘアピンとドレスの盗難、飾り櫛のスリ行為だ」
国王は首を振りながら話を続けた。
「エイコン団はわずか七歳から十二歳の十五人の集団だった。本来ならば孤児院か貧民院で世話すべき子供達だ。しかしろくでもない親達がついていて、子供の稼ぎをあてにしていたのだ。私は罰としてエイコン団の子供達を親から引き離し、マクスウェル修道院が経営する孤児院に収容した」
そしてエルムフット家の方を向いた。
「エリーズ、エイコン団の処分はこれで許してくれまいか」
「もちろんでございます。国王陛下」
エリーズは即座に答えた。
「子供達はそこで養育と教育を行って、更生させます。マクスウェル修道院が責任もって教育を行います」
王妃も言う。
「さて、ロサリンド・ダンスベルの処分だが…」
少し間を置く。
「ミル・エランド女学校では自ら盗みを繰り返し、最後にはエリーズへの暴行で放校処分になっていると報告を受けた。なぜその時に届け出なかったのかね?」
ヘンリー・エルムフットが答える。
「ダンスベル男爵を通して、盗品は全部返還されましたし、高価な物はなかったのです。十四歳という年齢でもありましたし、ダンスベル男爵が責任を持って躾けると約束したので、事を公にしなかったのです。地方の領地の祖母のもとで謹慎させるということでしたし」
「なるほど」
国王は難しい顔をする。
「ロサリンド・ダンスベルの祖母は彼女に甘く、望むままに王都に家を用意して暮らさせていたのだよ」
一同は驚き呆れた。
「ダンスベル男爵も大概甘いですわ。不祥事を起こした娘を、成人の夜会に出席させるなんて。しかも、自分が用意したものではないドレスや装飾品を、『祖母にもらった』という嘘を信じて身に着けさせたのですもの」
王妃は憤慨していた。
「尤も、それらを身に着けて出れば、盗みが露見するとは全く考えていないところが…本当にクラリッサ・アーウェンそのもので、ぞっとしました」
身震いせんばかりだ。
「ロサリンド・ダンスベルの処分は…」
国王が切り出す。
「ロサリンド・ダンスベルは、もうほとんど正気ではない。前世のクラリッサ・アーウェンになっている」
「悪魔憑きというのは聞きますが、彼女は『前世憑き』とでもいうのでしょうか」
王妃がため息をつく。
「今ではぶつぶつと『レオンハルト王子様と結ばれるためには』とか『来世ではきっと』とか『邪魔をするものは許さない』とか口走っている。ダンスベル男爵の要望通りに領地や修道院へ送ったとしても、彼女はおかしなところで知恵が回る。あの日のように抜け出して、レオンハルト王子か恋敵を殺そうとするだろう」
国王はマリーズとエリーズを見て言った。
「君達のことだよ。クラリッサ・アーウェンの、ロサリンド・ダンスベルのレオンハルト王子はマリーズ、恋敵はエリーズにすり替わっている。だから…」
ぐっと力を入れて続ける。
「クーリッジ監獄の幽閉塔に封じることにした」
「彼女は生涯、狂気の中で光の射さない部屋で過ごすことになります」
王妃も沈痛な面持ちだ。
「聞いて欲しい。きっかけは私の若気の至りだったのだ」
国王は語りだした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます