6.犯人は一人だが…
「去年、新規で雇ったランドリー・メイド達五人と掃除メイド三人を解雇してからドレスの盗難までは、屋敷内での変事は起こっておりません」
エルムフット家の家政婦長クララが言った。
台無しになった成人祝いの夜会は後日仕切り直しをすることになり、散会した後帰宅したエルムフット家では、話し合いが行われていた。
主人のヘンリーと妻のサマンサと長男のジュリアスとエリーズ、そして家令と家政婦長と執事とエリーズの侍女が集まった。
「おそらく、エリーズお嬢様の小物を損なったのは、新参のランドリー・メイド達の中の誰か、または全員でしょう。あの五人の調査をすることをおすすめします」
家政婦長は主張した。
「お嬢様の部屋の花瓶や植木を倒したり、教材を損なった者は新参の掃除メイド達の誰かでしょう。そして…」
家政婦長は続ける。
「その三人の中の誰かがまたは全員が、マリーズ様がお嬢様に何を贈られたのかを把握して盗んだか、外部の者と接触していたのではないでしょうか」
「外部の者?」
ヘンリーが眉間に皺を刻んで問う。
「はい。盗んだのはメイドだとしてもすぐに外部へ出さなければ、取り調べで出てきたはずです。メイドが盗んで何らかの方法で外部へ出したか、外部の者を手引きして盗ませたのだと思います。外部の者、男でなければ、あの引き出しを破壊できません」
「男の使用人にやらせるというのは考えられないのか?」
ヘンリーが問う。
今度は家令が首を振る。
「我が屋敷では男の使用人をこの十年、新しく雇用しておりません。お嬢様に万一のことがないように、若い使用人は雇い入れていないのです。若い警備はいますが、屋敷の中には入れません」
執事が後を続ける。
「屋敷で変事が起こったのは、あのロサリンド・ダンスベルが放校処分になってから、新参のメイド達を解雇するまでです。それに」
執事が続ける。
「この屋敷の使用人は、エリーズお嬢様を害するような者はいないはずです」
「それは私も信じたい」
ヘンリーが苦り切って言う。
「わたくし達はずっと、エリーズお嬢様を見守ってきたのですもの。髪一筋でも害するものは許せません」
侍女も言う。
「では先月のドレスの盗難はどうなのでしょう?」
サマンサが問う。
「おそらく、勘違いしたのでしょう」
家令が言う。
「あのドレスはマデリーン様がお嬢様に贈ったものです。お嬢様にお届け物があったら、外部で見張っている者がいて報告していたのでしょう。そしてマリーズ様が贈ったと勘違いしたのでしょう」
「そして外部の者が侵入して、ドレスを盗んだのです」
執事が言う。
「根拠はあるのか?」
執事が答えた。
「実はドレスがなくなった後、屋敷中を調べたのですが、普段と変わったところはひとつしかありませんでした」
「それは?」
ヘンリーが問う。
「衣装室に続く着替えの間の暖炉です。暖炉の前に灰と石炭屑が散らばっていました。わずかですが。ちょうどそろそろ暖炉の使用が終わる時期だったので、三日前に煙突掃除をさせて暖炉を念入りに掃除させたばかりだったのです。確認はわたくしがいたしました」
執事の言葉に家令が唸る。
「賊は煙突から侵入してドレスを盗んだと?」
「そうとしか考えられません。警備兵にはそれを伝え、煙突掃除組合を調べさせています」
「それであの部屋の暖炉を、また焚き始めたのですね」
家政婦長が腑に落ちたという顔をした。
「はい。また賊が侵入しないように安全策を講じました」
「色々と合点がいきました」
サマンサが言った。
「成人の夜会のドレスはマリーズからのプレゼントですが、あなたは固く、当日に届けてくださるようにお願いしていましたね」
執事に言う。
「はい。当日ならば盗む暇がないと考えたのです」
「わたくしが心配しているのは、エヴァーグリーン家のことです。エリーズ様はエヴァーグリーン家の中で、マリーズ様から贈られたリボンを盗まれています」
「エヴァーグリーン家の中にも、ロサリンドの手の者がいるというわけですね。マリアンナ様に早速ご注進いたしますわ」
サマンサが言う。
「ダンスベル家は成金の資産家だからな…娘にもたっぷり小遣いをやっているのだろう。それを使って街のならずものを雇ったと言う訳だ。フラワー・フェアでなくしたコームはスリでも雇ったのだろう」
エルムフット家では警備を増員した。
ロサリンド・ダンスベルはクーリッジ監獄にいるとは言え、街のならずものと繋がっていることは間違いない。
調査が終わるまで、エリーズは母のサマンサと寝台をともにし、交代で部屋の中に三人の不寝番のメイドを置き、部屋のドアの前にはフットマンが不寝番を務め、屋敷の外は増員した警備が厳しく見回ることになった。
三日後、王宮から呼び出しが来た。
あらかたの調査が済んだので、経緯の説明と報告をしたいと言うのだ。
エルムフット家からは、解雇したメイド達と煙突掃除組合の情報を王宮に提供しており、エヴァーグリーン家では使用人を厳しく詮議した結果わかったことがあると言う。
エリーズは両親に連れられて、王宮へ急いだ。
王宮にはエヴァーグリーン家の者も揃っていた。
マリーズは不安げなエリーズに寄り添った。
マリーズの母のマリアンナは怒っていた。サマンサに
「我が家の不行き届き者がわかりました。今日、引っ立ててきましたからね」
と息巻いた。
そこへ国王と王妃が入室してきた。
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