第15話 南海トラフ地震2
よしくんは、いっこの腕を掴むと、
「いっこ! もう、忘れろ!」
よしくんは、屋台を足で蹴り飛ばし、地割れの中に落とします。
いっこは、落ちていく屋台を見て泣き叫びます。
地面に開いた真っ黒な大きな口は、いっこの屋台を飲み込んでしまいました。
よしくんは、いっこの肩を抱き寄せると。
「もう、忘れるんだよ。 いっこ…」
よしくんは、いっこを更に抱き寄せます。
「いっこ、もう、屋台営業はやめよう。 これからは、違う営業方法を一緒に考えよう」
いっこは、よしくんを見つめ頷きます。
よしくんは、いっこを強く抱きしめます。
すると、奈美ママとロマンちゃんが防災頭巾を被って、よしくんといっこに駆け寄って来ました。
「遂に、来たわねっ! 南海トラフ地震!」
奈美さんは、恐怖に顔を引きつらせています。
いつもの濃いお化粧は、しているものの右目の付けまつ毛がずれています。
「ママーッ、 ロマン、 もう足が動かないよ」
どうやら、ロマンちゃんは、腰が抜けてしまったようです。
ロマンちゃんは、いつもの笑顔が消えて震えています。
と、その時、
パッ、パーンッ!
突然、耳をつんざくようなクラクションの音です。
振り返ると大きなジープが停まっています。
「おでんのお礼やでぇ、みんな乗れ!」
いつかの、角刈りのお兄さんです。
右手でハンドルを持ち、左腕を大きく振って合図しています。
ゴルフ場の広域避難場所までジープに乗せて行ってくれるとのことです。
ゴーッ、ゴゴゴッ、ガガガガ、ガーッ
雌岡山と雄岡山の間から隆起した新しい山がみるみるうちに切り立った大きな山となっていきます。
まるで、アイガー北壁のようにそびえ立つ岩の壁です。
命名するなら、『雌雄岡山』とでも言うのでしょうか?
いっことよしくんは、この山を見上げます。
奈美ママとロマンちゃん、角刈りのお兄さんも見上げます。
「…お客さん、お客さん。新開地駅です。この電車は、車庫に入りますので、降りてください…」
よしくんは、駅員さんに肩を揺らされ、目覚めました。
よしくんは、大地震の興奮が覚めない中で、列車とホームの段差につまずきそうになりながら、ふらふらとホームに出ました。
「夢だったのか…、でも、南海トラフ地震は必ずやって来る… いっこを守るためにも屋台の将来を決めなくてはいけない…」
よしくんは、地震が夢であったことに、ほっとしましたが、いっこの事が心配で仕方なくなってしまいました。
明日は、残業を早く切り上げて、いっこのおでん屋台に行くことにしました。
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