第14話 南海トラフ地震1

 地震によりトラブルが発生し、よしくんは、派遣先の仕事が忙しくなってしまいました。

残業も毎日続き、派遣先に泊まり込みで仕事をします。

そして、土曜日も休日出勤となり、いっこの屋台の手伝いが全く出来ません。

ある夕暮れ、着替えを取りに新開地に向かうとき、電車の中から緑が丘駅のロータリーにいっこのおでん屋台が見えました。

 「こんばんは。 いっこ元気にしてるみたいだね」

よしくんは、笑顔を作っていっこに言います。

 「よしくん、会えないから、いっこ寂しかったよ…」

いっこは、泣きそうです。

 「いっこの手伝い出来ないし、いっこ一人で大変だから、ずうっと、いっこの事が心配で…」

よしくんも辛そうです。

 「いっこは、もう何年も屋台の仕事続けて来たから大丈夫だよ。いっこは、よしくんが心配」

いっこは、自分の事より、よしくんの心配をしているようです。

 「いっこ、もう、そろそろ、屋台は引退して、お店でおでんを売ったらどうかなぁ。 もちろん、一緒に」

そう言って、よしくんは、自分を指さします。

 「ありがとう、よしくん、でも、いっこは、この屋台が好きなの、続けたいの…」

いっこは、心底、この屋台を愛しているのです。

そして、おでん屋台の陰には、亡くなったいっこの旦那さんが見え隠れするようです。

よしくんは、自分の都合だけでいっこの事を考えてはいけないと思いました。

しかし、よしくんには、いっこが必要なのです。

よしくんは、今、生きているんです。

それを、いっこにも伝えたいとよしくんは、考えます。

ウーッ、ウーッ、ウーッ

近くの、火の見やぐらのサイレンが鳴り出しました。

ゴーッ、ゴゴゴッ、ガタッ、ガタガタガタッ

物凄い揺れです。

いっこもよしくんも立っていられないくらいの揺れです。

地面が波打つように見えます。

続いて、防災無線が聞こえて来ます。

 「こちらは、三木、市役所です。 ただいま、最大震度、強の、非常に、強い、揺れを、観測、しています。 安全、確保に、心がけ、身の、安全を」

途中で拡声器の音声が途絶えました。

駅前の信号機も消えて、振り子のように激しく揺れています。

よしくんは、いっこに駆け寄りいっこの頭に手を置いて、いっこを守ります。

 「遂に、南海トラフ地震が発生してしまったんだ…」

よしくんは、怖さよりも恐ろしさを感じました。

ガガガガ、ガーッ

すると、目の前の地面に亀裂が走り、みるみるうちに地面が真っ黒な大きな口を広げます。

 「あーっ! 屋台が! 屋台がー!」

いっこが、よしくんの手を振りほどいて、地割れに吸い込まれようとしている屋台にすがり付こうとします。

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