第13話 縁結びの屋台2

 よしくんが屋台を引き、いっこが後ろで屋台を押します。

緑が丘駅からアナウンスが聞こえて来ます。

 「…倒木が線路を塞いだため、新開地方面行の電車は復旧の見通しがたちません…」

いっこが、よしくんに屋台の後ろから話しかけます。

 「倒木は、きっと、雌岡山の麓の立木よ。 神様がよしくんを今夜は帰さないでくれたの」

よしくんは、

 「それは、大胆なことをする神様だね」

と、言って笑いました。

いっこは、

 「神出の神様は、よしくんと、いっこを今夜、縁結びして夫婦にしようと考えているの」

と、小さな声で真剣に言います。

再び、緑が丘駅のアナウンスがあったようです。

 「…倒木除去と安全確認が終わりました。まもなく、全線復旧しますので、今しばらく、お待ち下さい…」

屋台の前のよしくんには、聞こえません。

いっこは、

 「よしくん、 電車は明日の始発まで復旧の見込み無しだってっ」

と、大声で言います。

よしくんは、

 「わかった! 到着まで、もう一踏ん張りっ」

と、屋台を引きながら、いっこに返します。

いっこは、にこにこと楽しそうに屋台を押します。


 屋台を駐車場に駐車し、屋台おでん鍋をしまいました。

よしくんは、お風呂を貰いました。

 「よしくん、着替えは、この前の割烹着洗っておいたのを着てね。 今日着ていた下着は今、洗濯しているから」

と、いっこは、風呂場のよしくんに声をかけます。

 「ありがとう、いっこ」

よしくんは、湯船につかって幸せを感じています。

いっこと、夫婦になったらこんな感じかなぁと思わずにはいられない、よしくんでした。

よしくんが、お風呂から出るとこぢんまりした居間のちゃぶ台には、ビールとコップが用意されていました。

しばらくして、いっこもお風呂から出てきました。

浴衣を着た、いっこは、

 「よしくん、もう1本飲む?」

と、聞きましたが、

 「ありがとう、ご馳走様。もう寝るよ。ねむねむ…」

と、言いました。

いっこは、にこにこして、

 「今日は、疲れたと思うよ、地震もあったし…」

と、言って2階に案内してくれました。

襖一つ隔てて、布団が敷いてあります。

いっこの布団の枕もとには、小さな仏壇が置いてあり、旦那さんの写真は伏せてありました。

いっこと、よしくんは、お互いに言います。

 「おやすみなさい」

よしくんは、自分の布団に横になると直ぐに睡魔が襲ってきました。

とても、心地よい眠りです。

そして、しばらくすると、静かに襖が開きました。

よしくんが、目を開けます。

いっこの部屋は、小さな灯りが点いています。

襖の間からは、立っているいっこが、バックライトに浮かび上がるように見えます。

いっこは、浴衣の帯を解き、浴衣を脱ぎます。

いっこの一糸も纏わない、ふくよかな身体が闇に浮かびます。

よしくんには、いっこが雌岡山の女神のように見えました。


 そして、朝が来ました。

味噌汁の匂いに目を覚ましたよしくんは、1階に降ります。

いっこが、ちゃぶ台に朝食の準備をしていました。

 「おはよう、よしくん」

と、いっこが何事も無かったように言います。

 「おはよう、いっこ」

よしくんも挨拶をします。

昨夜のいっこは、いったい?

不思議です。

よしくんは、昨夜の地震から始まったすべてのことが、雌岡山の神様といっこの仕業のように思いました。

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