第12話 縁結びの屋台1

 いつものように、緑が丘駅の自動改札を出ると、木枯らしがよしくんに吹付けます。

 「こんばんは。 寒いね。 いっこ」

よしくんが、端の丸椅子に座ると、

 「おかえりなさい。 今夜は、ロールキャベツいかが?」

と、いっこが、熱燗をコップに注ぎます。

チロリから注がれたお酒が、溢れてコップの下の受け皿に溜まります。

よしくんは、置いてあるコップに口を持って行き一口飲みます。

続いて、コップを持ち上げると受け皿のお酒をコップに戻します。

 「あーっ、 しみるなぁ」

よしくんは、すごく喜んで、

 「いいねぇ。 ロールキャベツ、大好きなんだ」

いっこは、ロールキャベツをお皿に取ります。

よしくんが、ふと、屋台の屋根裏を見ると、何か白い紙が貼ってありました。

 「ああ、 これ?」

いっこが、指でさして言います。

 「うん、 お守り?」

と、よしくんが聞くと、

 「これは、 神出神社のお守りなの」

と、いっこは、にこにこしています。

 「この緑が丘駅の西に、雌岡山と雄岡山があって夫婦の山なんだけど、雌岡山には神出神社があって縁結びの神様の山なの」

そして、よしくんが言います。

 「その神出神社のお守りかぁ」

いっこは、

 「いっこの屋台とお客さんとの縁結びを、お願いしているの」

と、よしくんを見つめて言いました。

よしくんも、いっこを見つめ返します。

そのとき、

ゴーッ、ゴゴゴゴ、ゴーッ

不気味な地響きの音が聞こえて来ました。

そして、屋台が揺れました。

赤い提灯が、激しく左右に揺れ動きます。

よしくんは、屋台を両手で抑えて叫びます。

 「地震だっ! いっこ、 屋台から離れて!」

地面から突き上げるような揺れが来ました。

いっこは、阪神淡路地震を思い出し恐怖を感じました。

よしくんは、南海トラフ地震の前触れを感じました。

しばらくして、揺れはおさまりました。

 「強い揺れだったけど、おさまったみたいだ…」

いっこは、よしくんに駆け寄りました。

 「いっこ、 怖いよ…」

緑が丘駅のホームからアナウンスが聞こえて来ました。

 「ただいまの地震により、粟生線全線で不通となっております。 なお、復旧は…」

ホームで電車を待っていた数人のお客は、改札から出てタクシーに乗り込んで行きます。

いっこは、

 「よしくん、今夜は、いっこの所に泊まって欲しい。 いっこ、怖い…」

と、泣き出しそうです。

よしくんは、

 「うん、そうさせてもらうよ。 営業終了だね。 屋台の撤収、手伝うよ」

いっこは、ガスボンベの栓を閉じます。

よしくんは、発電機のスイッチを切りました。

発電機のエンジン音が消えるとともに、いっこの屋台も暗くなり、闇に包まれました。


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