第11話 屋台営業2

 子供たちにおでんを配り終わると、いっこは、よしくんに話します。

 「いっこの屋台は、お客さんが少ないんだけどね。 お得意さんがいるの」

いっこは、緑が丘駅の並びにある保育園を指さしました。

 「たまにね、 園児のためにおでんを買いに来てくれるの。 保母さんたちが」

いっこは、まるで、自分が園児のように嬉しそうにしています。

よしくんは、いっこが可愛い人だとつくづく思います。

すると、

 「いっこ、 今日は、ハロウィンのおかげで屋台に活気があるわね」

スナック奈美のママが、おでんを買いに来てくれました。

 「いらっしゃい! ようこそ、おでん屋台いっこへ!」

いっこが、奈美さんママの真似をします。

 「よしくんもお手伝いしてくれて、いよっ! ご両人っ! というところかしら!」

奈美さんもルンルン気分で楽しそうに言います。

奈美さんは、ロマンちゃんがおでんを食べたいと言うので買いに来ました。

 「こういう事があるから、屋台は続けられるの」

いっこは、何時になく嬉しそうにしています。

そして、よしくんは、いっこがおでん屋台に生き甲斐を感じていることを知りました。


 いつもは夕方からの営業なのに、今日は、午後から開店した屋台でした。

終電前に営業を終了し、暗くて寂しいサンロードを屋台は帰ります。

よしくんは、屋台を引きながら、屋台の後ろのいっこに言います。

 「いっこ、 来週の土曜日も手伝いに来たいんだけど…」

いっこは、屋台を押しながら答えます。

 「よしくん、 ありがとう」

よしくんは、屋台を引きながら考えます。

屋台の移動は、けっこうな労働で、もう、いっこ一人では、本当に無理だ。

具材の仕入れだって、軽自動車で明石の市場に買いに行くのも女性高齢者ドライバーにはきつい。

しばらく、屋台を引いていると、スナック奈美の電光看板が見えてきました。

店の前を通る時にカラオケの音が聞こえました。

土曜日だけの手伝いでは無くて、毎日手伝うようにするか、もう、屋台を辞めてもらうしかない。

そのとき、おでん屋自体を辞めるのが良いのかもしれない。

でも、屋台がいっこのライフスタイルだとしたら、屋台を取り上げるのは良くないし…

とにかく、よしくんは、しばらくの間、いっこのおでん屋台を手伝うことにしました。

結論を急がなくても、心に余裕を持って、

そうです。

明日は、明日の風が吹く…

何時か、いっこが、笑いながら言っていた言葉を思い出しました。

よしくんは、頑張って屋台といっこを引いていこうと思いました。

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