第5話 スナック奈美
よしくんは、いつものように、緑が丘駅の自動改札を出て、いっこの屋台に向かいます。
でも、今日は、屋台の丸椅子には座りません。
「いっこ、 今から奈美さんの店に行くから。 そのあと、寄るね」
そう言うと、よしくんは、右手を上げます。
いっこは、笑顔で、
「よしくん、 行ってらっしゃい、 気を付けて」
と言って、小さく手を振りました。
黄昏時、よしくんは、サンロード名店街に向かって街路樹のある道路を歩きます。
新型コロナ以降いっそう閑散としてしまったサンロード名店街が予想出来ます。
そして、考えます。
…いっこは、なぜ、一人でおでん屋台をやっているのだろうか?
それも、お客さんの全然来ない、おでん屋台なのに…
サンロードのシャッターの降りた名店街は、夜になれば人通りも少なく寂しいのですが、『スナック奈美』の電光看板が見えて来ました。
よしくんは、お店に入ります。
カラン、 カラーン。
「いらっしゃーい。 ようこそ、スナック奈美へ!」
ママの奈美さんが笑顔で、よしくんを迎えます。
「こんばんは。 奈美さん、 ロマンちゃん」
よしくんも挨拶します。
ロマンちゃんも、お店に出ています。
「よしくん、 こっちへどうぞ」
奈美さんは、そう言って、テーブル席によしくんを案内します。
よしくんは、
「奈美さん、カウンターのお客さんは、いいの?」
と、心配します。
「大丈夫よ、ロマンが対応してるから。 ロマンは、学生時代に落研でね。落語とか小話でお客さんにサービス出来るのよ」
よしくんが、関心してカウンターのロマンちゃんを見ていると、奈美さんの話しが始まりました。
「いっこと私はね、 いっこがこの名店街のおでん屋でお店を出していた頃からの知り合いなの」
よしくんは、黙ってママ、奈美さんの話しを聞きます。
「昨日、いっこが、よしくんに対してかなりの思いがあると思ったのよ。 それでね、 ここは、一つ、いっことよしくんの縁結びをしようかと思いました!」
と、奈美さんが言うと、よしくんは、
「えっ? ああ、どうも、ありがとうございます」
と、どぎまぎしています。
奈美さんは、続けます。
「それでね。 よしくんも気になると思うんだけど、なぜ、いっこは、一人でおでん屋台をやっているのか? ということ」
よしくんは、いっこのお店があったことを知りました。
「しかも、 お客さんの来ない、あの、おでん屋台を続けるのか? ということ」
カラン、 カラーン。
そのとき、また、一人、お客さんが来店しました。
「あら~、どうも、こんばんは~。 ようこそ、スナック奈美へ!」
奈美さんは、ハイ・テンションでお客さんを迎えます。
そして、奈美さんは、姿勢を正すと、再び、よしくんと対面し、話しを続けます。
カウンターからは、ロマンちゃんの小話と、二人のお客さんの笑い声が聞こえてきます。
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