第3話 営業許可

 夕方、よしくんは、緑が丘駅の自動改札を出るとロータリー片隅の屋台を目指します。

もう、だいぶ日が短くなってきました。

辺りは、暗いので赤い提灯と屋台の裸電球が際立ちます。

 「いっこ、 こんばんは」

よしくんは、端の丸椅子に腰掛けます。

もちろん、よしくんの他にお客さんは、いません。

 「よしくん、 おかえりなさい」

いっこが、笑顔で迎えます。

早速、いっこは、菜箸でお皿におでんを取ります。

 「よしくん、 今夜は、トマトが入っているの。 野菜も摂らなくちゃね」

よしくんは、

 「へーぇ、 おでんのトマト初めてだよ。 美味しそうだね」

いっこは、更に銀杏を取ります。

 「幸せになる銀杏だよ。 黄色って幸せ風でしょ?」

よしくんの前におでんを置きます。

 「よしくん、 お腹空いてない? おにぎりあるよ」

いっこは、よしくんのために、おにぎりを作って用意してくれていたのです。

よしくんは、凄く幸せを感じました。

 「いっこ、 ありがとう。 食べたい。 幸せだよ」

二人は、笑顔で見つめ合いました。


 すると、角刈り頭のお兄さんが、やって来ました。

お兄さんは、屋台の暖簾越しに、大きな声で言います。

 「ようっ、 おでん、 この鍋に入れてくれへんか?」

そう言って、お兄さんは、片手鍋をいっこに差し出しました。

いっこは、諦めたように鍋を受け取ると、その鍋に次々におでんを入れていきます。

よしくんは、お兄さんが、普通の人では無いと思い、少し怖くなりました。

この場所は、緑が丘駅から借りているようですが、お兄さんは、緑が丘駅の駅員さんでも無さそうです。

お兄さんは、おでんを食べているよしくんを見ながら、薄笑いをして、

 「どうや? お客は来るんか?」

と、いっこに聞きますが、いっこは何も答えません。

そして、お兄さんは、鍋をいっこから渡されると、代金も払わないで周囲をきょろきょろと見て去って行きました。

よしくんが、いっこに小さな声で言います。

 「今のお兄さんは?」

いっこは、悲しい顔でよしくんに言います。

 「この辺を管理してくれている人なの。 仕方ないのね…」

いっこは、申し訳無さそうによしくんに言いました。

でも、いっこは、食品衛生責任者の資格を持ち、自治体から許可ももらっています。

屋台を停めるこの場所は、緑が丘駅長と警察署にも、ちゃんと許可を取っていました。

いっこには、何の落ち度もありません。

よしくんは、少しビビりましたが、可愛いくて優しい、いっこの逞しさを尊敬しました。

その後、そのお兄さんは、屋台に来ることはありませんでした。

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