第12話
その声は幾重にも重なるような重さがある。
エレベーターで死んでいるはずだった?
どういうわけだが、私は
命を落としているはずだったということか。
時空が歪むことにより、私はラグを解消した。
自分の鼓動の音が響いている。
徐々に速度が上がり、息が荒くなっていく。
「どうして、私は乗らなかった未来だとして、
車に乗っていたんですか」
その言葉を息を切らすように問うた。
「彼女が入院することになって、
急いでこの道を君が通るのだ」
彼は淡々とそれをいう。
「どうして彼女は入院することに?」
隙間を埋めることなく私は彼に問いかける。
「彼女が妊娠していたからだ」
私はその言葉に口を咎める。
「あんたの歩まなかった
未来に命が宿っていた」
私は彼にいきり立つようにいう。
「あんたらの目的は一体なんなんだよ」
彼は言葉に重みを込めて言った。
「 」
その言葉は耳が反響したように
掻き消されてしまった。
私はぐわんぐわんと渦に取り込まれたような
自らの景色を見てその場に倒れ込んだ。
ドンドンドン、とノックがする。
再び、ドンドンドンと音が聞こえるのだ。
なんだ?何事だ?
私は薄目でその景色を見て驚いた。
ホテル。
ここは、久山と訪れた上品なホテルだ。
ドンドンドン、
と叩いているのは久山であろう。
私はその身体を起こし、久山の方へ向かった。
その扉を開くと、背広姿の久山がいた。
イヤフォンで何かを聴いている。
「なんだ、どうしたんだ。待ってたぞ」
私はすいません、と彼に言った。
「今、ようやく弦楽四重奏が入ってきたところだったのに」
私は何のことですかと彼に問う。
「ビートルズのイエスタデイを
聴いてたんだよ」
私はさっぱりだった。
何を言っているのか分からなかった。
「エレベーター、なんかトラブルあったらしいから。階段で行こう」
その言葉の意味がようやく分かった。
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