第10話

ようやく状況把握ができた私は、

彼に言い返すべく立ち上がった。

「さあ来てもらいますよ」

「俺はあんたの言うとおりにしない」

彼は形相を変えてこちらへ近づいてくる。

「タイムラグ人間が、舐めやがって」

背後に意識を入れていなかったせいか、

後ろから背広を着た人間が2人、

私を羽交い締めにする。

それに気づいたのはやはり23秒後、

気づけば彼女との距離も離れてしまった。

やめろ、はなせ、

その声も遠く、私はワンボックスカーに

隔離されてしまった。

何が目的だ?と問いかける頃には車は走り出す。

気が付けば手足の自由を封じられていた。

両端には先程の男がいる。

思ったよりも屈強である。

前方に座る男が先程の男、喜代野だ。

「あんたの力なんぞ必要ないのさ」

喜代野がぼそっと問いかける。

私は何かできることを探す。

ぼやけたその何かを模索する。

球体だ、球体を探せ。

球体を、球体を探せ。

強く目を瞑った。






もう一つの景色が浮かび上がる。

昼下がりに町を歩く、一人で町を歩く。

青いボールが突然横から飛んできた。

弾力感のある、ふわふわのボールだ。

私の頭に軽くヒットした。

そしてまた歩く。

歩いて歩いていく。

しばらくするとボールに当たったと騒ぎだす。

ボールは、ボールはどこへ。

そんな風にあたふたすると、私は気がついた。

私の両手には青いボールがあった。

この通りと街道を挟んだ公園で

6人ほどの子供が遊んでいる。

「お兄さん返して」

とひとりの男の子が目の前にいる。

私はようやくそのことに気づき、

再びあたふたする。

続々と子供たちが不思議な形相で

こちらへ向かってくる。その数は五人ほど。

私のことを12の目が伺っている。

ボールを取り上げようとする。

ぽんぽんと一人の男の子は

私の腕から取ろうとする。

するとどうだ、しばらくして子供達の目は、

彼らがいたはずの公園に向かっていた。

私はやっと、ようやく気がついたのだ。

大きなトラックがフェンスを越え、

公園で横転している。

いくつもの煙がその場を支配している。

私はようやくそのことに気がついた。

私は23秒後に気がついた。

飲酒運転をしたトラック運転手が

その拍子に操作を怠ったのだという。

運転手も無事助かり、

歩行者や近くにいた人も被害がなかった。





車は急停止をした。

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