第8話
無性に耳鳴りがする。
強く耳を突き通すような
耳鳴りは止むことを知らない。
目覚めた瞬間からそんな気がしていた。
私はベッドで起き上がり、
枕元のデジタル時計を見る。
気がつけば季節がかわるがわる、冬になった。
何かの虫の知らせだろうか、
異様なほどの耳鳴りが私を襲う。
疲れてしまうほどその音は尖っていて、
頭を抱える。
私は半年後退院することができた。
妻と共に外に出る場合のみ、
出歩くことが可能になった。
横断歩道の信号だ。
やはり信号が一番危険なのである。
「おきた、おはよう」
リビングで寝ていたであろう妻が
こちらへ問いかけ、23秒後に気づく。
私はおはよう、と返した。
「今日の調子は」
ようやく言葉が返ってきた。「いつも通り」
「そっか。公園まで行く?」
私はその後に軽く頷いた。
家から徒歩圏内で行ける大きな公園だ。
私は妻の後に続き、歩き出した。
枯れ木の茂る冬の少し寂しい風景だ。
私たちは手前のベンチに腰をかける。
「今日、記念日」
私は23秒後に思い出す。
そういえば、と。
「この公園で告白してくれたね」
私はその時間の後に恥ずかしさを覚えた。
「この一年でだいぶ変わっちゃったな」
と彼女は空を見上げる。
私は彼女にいつもありがとう、と告げた。
「私は今のあなたの方が好き。
昔よりもずっと親切で紳士な気がするの」
私は遅れて笑う。
「事故より前は、ちょっと、粋がってた」
思えば例年、忙しくしていたせいか、
こういった時間は作ることができなかった。
「私、今幸せだよ」
彼女が私にいう。
「だから、苦しくてもそばにいてね」
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