第6話
こちらです。
と看護師の彼女はある人物を案内した。
それに私はようやく気づく。
妻の美穂である。
彼女は毎日見舞いに来てくれていたようだ。「ねえ、良かった。本当に良かった」
そんな彼女の声を私は
ようやく聞き取ることができたのである。
鵠沼が考案したキャッチボールを
数往復かし終えた後、広場のベンチに腰をかけていた。
その時の出来事だった。
涙を浮かべ、喜びか驚きか、
もしくはそれが混ざり合うかのように
彼女は目の前にいる。
私は23秒遅れた後、
「迷惑をかけてすまない」と言った。
彼女は「何を言ってるのよ」
と私の左肩を叩いた。
当然の如く、遅延する私は叩かれた気がした。
「23秒なんて関係ない。
早くうちに帰ってきて」
と妻は言う。
私はそのブランクを経てああ、と返した。
彼女はとても強がりなので、
帰り際にはその涙は光っていた。
私は安心した表情で再びベンチを立ち上がる。
数分したのち、鵠沼がベンチの隣に腰掛ける。
「来ると思ってました」
鵠沼は缶コーヒーを飲みながら、
「お、成長したね。一歩前進」と言う。
しばらく鵠沼は無言のままなので、
「この病気、いつになったら治りますかね」
と問いかけた。
彼は一息溜めた後、
「もう治らない」ときっぱり言った。
そんな、と私は溢す。
「きっと取り柄になるはずだ。
その力で誰かを救えるかもしれないぞ?」
と眉をくいっと上げ彼は微笑んだ。
しかしながら私は薄々
あることに気がついてしまった。
ぼんやりと映るそれは一体なんだ?
未来というものなのか?
それとも。
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