第4話
私は暫くしたのち、気がついた。
気がつけばもう1人看護師が現れている。
私が白衣のようなものを着ていて、
ベッドに横たわっている。
それが今のリアルであり、
変えようにもない現実世界であると知った。
病名のない病気とは。
私は咄嗟に久山の行方を追う。
あたふたと右左を確認するが
久山であろうものは何もない。
「久山さんは、久山さんは何方に?」
頷きながら追いついてと彼は話す。
それを私は23秒後に知る。
「私、担当医の鵠沼と申します」
私は気づいて会釈をする。
「織本さん、これは現実です。
あなたは今、実際に生きています。
久山さんは、残念ながら亡くなられました」
私は一点だけを見ている。
そしてその事実を受け止める時間が来た。
看護師が私の枕元へ近づいてくる。
そんな、と口に出すと、
「事実を言いますね、織本さん。
あなたはおそらく、数秒遅れた
世界で生きている、何もおかしいことはない」
暫くしてその声が耳に入ってきた。
「そう思うのは無理はない、
簡単に説明すると、ラグのようなものが
発生している。つまり、君はエレベーターが
落下していく23秒の間に、早く、早くと。
普段通りの行いを思い出したのであろうか、
そこで時間のずれが生じてしまったのだろう」
看護師が詳しいですね、と言う。
「こういう研究をしてたんだ、ほんの少し」
再び彼は口を開く。
「不慮の事故だった、
君は生きてるそれだけでいい。
君はおそらく感覚の中で生きている。
今この声も23秒後に聞こえるだろう」
彼はボールペンを胸ポケットから取り出し、
メモ帳にあることを書く。
簡易的に書かれたものだ。
二つ筒のようなものを書いて、
片方の上の方に通常時間。
もう片方の真ん中あたりに織本と書いてある。
メモ帳に繋がれたままのその一枚が
私の視界の目の前にやってくる。
もちろんそのことは23秒後に知ることになる。
「要するにこういうこと、この隙間の時間が、無くなればいい、いや、無くせばいいと私はつくづく思う」
私は、鵠沼氏の言うことを遮るかのように
23秒前の会話をする。
「23秒後、?そんなばかな。
一体どうやって時間の隙間を無くすんですか」
2回ばかし頷いたところで彼は、
「常に、23秒が何が起きるのかを、
ずっと予想するんですよ」
時間が経ち、その情報が耳に入る。
「そんな、それは勘じゃないですか」
首を振るように鵠沼は、
「今のままだと君は、横断歩道でさえ
渡ることができない。
赤信号で歩き出すようなものではないか」
暫くして鵠沼が、
「ゆっくりとやっていきましょうかリハビリ」
と声を上げると、その声はまたしても
23秒後に訪れた。
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