第3話
煌びやかなエレベーターはゆっくりと
下降していく。
「明日の昼飯どうするか」
と久山が言い、気が早いですよと言う。
「やっぱり原産品とか、
お高いもの食べたいね」
「食べることしか考えてないですね」
そんな会話を続けていると。
一瞬停電したかのように暗くなった。
同時にエレベーターもがたがたと揺れる。
「なんだ、停電か?」
と久山は腕を組んで言う。
私は、らしくないことを言った。
「エレベーターでって怖いですね」
「そんな、一瞬電気切れただけだよ」
私はあることを思い出した。
何かで見たとされる、エレベーターが
落下し終えるタイミングにジャンプを
すること。
それで本当に被害は少なくなるのか?
それで軽減できるのかと言うことを。
「そんな、できやしないと思うけど」
再び、エレベーターが点滅する。
かたかたかたかたかた、
と何かの音が聞こえてきた。
何か部品が取れていっているような、
嫌な予感がしていた。
「それ、ではないよな」
落下事故のことを指す。
「それ、ではないことを願いましょう」
速度は今までのものではなかった。
立っていることが困難なほど。
「落ちてますよね落ちてますよね」
と慌てた声で手摺を掴むが、
重力に逆らううえ、
身体が持ってかれそうになる。
「ジャンプ、ジャンプ、ジャンプ」
と言いながら久山は手摺を掴みながら
ぎこちなく飛び上がる。
「僕今数えてるんですよ」
何を、と必死な声で言う。
「自分、せっかちでお風呂も嫌いで、
子供の時から入ったなかったんですけど、
入る練習として湯船で数を数えていたら
日に日に風呂が好きになれました」
「今の今何言ってるの君は」
速度は限界値を超した。
「もう無理だよ」と久山が言う。
「手を離したらこれは」必死な声を出す。
精神を統一して、20、21、22と数えた。
俺は仕事が早い、なんでもできる、
なんでこんなことを思ってしまうのだろうか。
切り裂くようなその音は記憶までもを
消してしまうほど力強かった。
目が覚める、と23秒後に思った。
「あ、織本さんお目覚めですか?」
看護婦の顔は少し伺うような顔をしている。
「あ、はい」と声を出した。
「私、先生に知らせてくるわ」
と看護婦はいつの間にか存在を消していた。
何かが変だ。私の身体で何が起きている?
何もかもが遅れている。
おそらく今も遅れている。
「先生が来ましたよ」
スクラブを着用した彼は言った。
「織本さん、本当に良かった。
今おそらくものすごく混乱していると思う。
この症状には名前がなくて、
私たちも困惑している」
その情報を23秒後に私は知ることになる。
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