第3話
今回の探索は報酬にあてがえる素材が一つもなかったため、全員がただ働きになった。
それに対して申し訳なさそうにしていたもぶいち君だが、そこはやはり俺の人徳の成せる技。
寛大な心で許してあげたいと思い「良い教訓になったから報酬はいいよ」と断りをいれた。
そしたらなんてことだ。
次からもサポーターとして雇ってもいいかと言われた。しかも報酬は日当2万。
底辺探索者の俺からしたらかなり美味しすぎてその場で笑みが溢れそうになってしまった。
しかしだ、俺はいつまでもサポーターでいるつもりなんてないし、さっきの変な感覚がもし、俺の想像しているものなら……この誘いは断った方が自分のためだった。
だからとりあえずその話はまた今度にして、今日はまだやることがある。
「急げ急げ急げぇええええ!?」
あの2人の走る速度があまりにも遅くてD塔を出るのに30分もかかってしまった。
それにさっきの話でも少し引き止められたから…あと15分ほどで俺のアイテムが全部ロストする。イラつきすぎて危うく俺のこめかみから血が吹き出そうだった。
(純真な俺が人を騙したんだぞ!アイテムゲットできなきゃ任務に失敗した詐欺師じゃねぇか!ウハウハで帰ることによって俺の傷ついた心は回復するんだ!タダ働きになってたまるかァ!
ただのクズ通りまぁっっす!)
クズでもなんでもいい。
俺には生活がかかってるんだ。
ぱぴーとまみー、妹15人と姉20人を養わなきゃいけないから!あと猫100匹と犬50匹も追加!
「うぉぉぉどいてくれぇぇ!」
お宝まで一直線に走らなきゃまじで消えてしまう。
「な、、なに!?」
「なんであんな急いでんだ?」
「…なんか…ちょっと速い?」
「確かにな?レベルいくつなんだろう」
「15ぐらいあるんじゃないか?」
(金金金金金金金金金金金金金金っ!)
外野の声はやまとに一切届くことはなく、目的地だけを脳はナビっていた。
(あと…少し…っ!)
端末を取り出して時間を確認したいが、もしそれでロストしたら?
おそらく携帯会社に殴り込みに行ってしまうため端末を取り出すことはしない。
そしてその10秒ぐらいでできる無駄な行動をしなかったから10秒早く間に合ってくれないかな?などと考えたがそれを狂気にぶん殴らせて大人しくさせる。
今必要なのは速く足を動かすこと。
(たしか敏捷って欄あったろ!今こそ活躍の時だ!俺をマッハで前に飛ばせ敏捷!)
「うぉぉぉぉ!」
「うぉぉぉぉ!」
「………うぉぉぉぉぉ!」
「うぉぉぉぉ恋敵ィィィ!」
「うぉぉぉ…ってだれ!?」
(……誰だこいつ!??!)
え?何?
ごめんだけど何?
え?誰?
どなた?
なんで俺と並走してんの?
意味のわからない展開に足以外のものが全て止まる感覚に襲われる中、そいつは口を開いた。
「くぉぉぉらぁァっ!アタシの彼氏取ろうとしてんじゃねぇ!」
ちょっとまて。
一回落ち着こう。
彼氏?
確かになんかちょっと前に誰か走ってるけど。
え?俺があいつを追ってるって勘違いしてんの……?
ぶちっ
この急いでる中、邪魔者がいることにやまとはキレた。
「俺が男のケツ追いかけるわけねぇだろぉがよぉ!」
「え…そういう趣味があったから本能で追いかけてんじゃないの!?」
「ただのヤベェやつじゃんかよ!ふざけんな!邪魔すんじゃねぇ!」
今日の報酬は100%過去一の稼ぎになる。
俺の見積もりでは夢の10万円を超える。
それがあとちょっとのところまで来たのだ。
こんな意味のわからん女に邪魔されてパーになるとか死んでも死にきれない。
やまとは気合いで今出せる限界の速度を超えて走った。
「ッ!油断させて奪う気ね!そうはさせないわ!」
すると女もすぐさま追いついて、尚且つド至近距離から呪いを飛ばして来た。
「アタシの彼に何か用?まずは彼女であるアタシを通そうよ?なんで追いかけてるの?今はアタシとデート中で今日は付き合って1日記念日なの。明日は2日目記念日ね。今日はD塔でお互いの愛を確かめ合うために魔物の群れに2人で向かっててね?アタシがピンチならきっと彼は助けてくれると思うの。だけどちょっと彼お腹が痛いみたいで今はトイレに全力疾走中よ。だけどトイレといえば…♡ もうお互いの裸を見れるなんて…明日は結婚ね♡……あれ?まさかあなたも彼の裸を見るために…。いい?彼の存在は全てアタシのものなの。それ以外は追いかけることも匂いを嗅ぐのも触るのもだめ。今こうして10m後ろを走ってるだけであなたは有罪。だって彼の吸った息をあなたも吸ってるもの。それは全部あたしが吸わなきゃいけないものなの。わかる?なんでわかってくれないの?なんでまだ走ってるの?なんで追いかけるの?話聞いてた?言ったよね。だめだって。有罪だって。足切られても仕方ないよ?恋に障害はつきものって言うけど、アタシ達の愛に障害が入り込む余地は一ミリたりともないわ。そうして紡がれていく愛…子どもは何人欲しいかな。アタシは愛の結晶だから100人は欲しいかな。きっときっと楽しい家庭になると思うの。ねぇ?あなたもそう思うんなら速くどっかに行きなさい?」
「……………」
俺は今、どんな顔をしてこいつの顔を見ているのだろう。たぶん正常な顔はしていない。
ドン引き+衝撃+呪い+恐怖
「お前…いつ息継ぎしてんだこぇーよ。ってか色々…ほんとに色々言いたいけど…!ツッコんでる暇ないから一言だけ!」
「ようやく諦める気になった?」
元々追いかけてるわけじゃないから諦めるとかそういうのじゃねぇ。
「こちとら宝を取りに向かってんだ!断じてお前の彼氏じゃねぇ!だから関わんな!」
やまとの思い切り発した声はかなりの気迫を乗せて女の子に届いた。
そして少しびっくりした表情の後、何かをぶつぶつと口ずさみ……瞳から色が失せた。
「……宝?彼のことか…やっぱり彼をアタシから奪おうと…許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
やまとは一瞬で色々なことを考えた。
まるで思考速度が加速したかのように、一秒という短い時間で多くを整理した。
1、話を聞かないというか理解しようとしないこいつとは関わったらいけない。
2、1日記念日とか明日は結婚とほざいてるこいつとは関わったらいけない。
3、魔物の群れに愛を確かめるためとか言ってデートしに行くこいつとは関わったらいけない。
4、子ども100人産もうとしてるこいつとは関わったらいけない。
5、息の乱れてない姿からこいつの方が強いため関わったらいけない。
俺の素材 > この世の全て
NEW
俺の素材 < この女と関わらないこと
優先順位がすぐさま変わり、やまとは急ブレーキの末、逆方向に猛ダッシュした。
限界突破のさらに限界突破。
空を体で切って全力で逃げる。
(やべぇぇぇええ!!?あいつまじやべぇよぉ!?頭おかしいよぉ!!俺よくあんなバケモンと並走してたな!?)
宝はもういい。生きてるのが奇跡だ。
とにかくまずはD塔を出て家に引き篭もること。
素材は悔しくないと言ったら嘘になる。
あのサイコが現れなければ今頃は俺の背にどっしりと重たい感触が……………
どっしりと重たい。
「なんで…?」
少し目を後ろに向ければ、女性のものであろう髪が目に入った。
「なんでどっか行こうとしてるの?あなたはもうギルティよ?彼を追うことをなんでやめたの?彼に魅力がないと体で表現しちゃってるわけ?そんなに死にたいの?」
「ひょぇ…」
物理的にも精神的にも重たいもんが乗っかっていた。
「すんませぇぇんッ!俺が間違ってましたァ!」
「どこに向かって土下座してるの?アタシに対して謝ってるの?アタシ達のデート邪魔したよね?彼にも謝るべきじゃないの?」
(そんなこと言ったってお前俺の上にいんだからどうやっててめぇの方向いて土下座すんだよ!脳みそのネジ外れてんのか!いや外れてたわ!
ってか彼氏!彼氏どこ行った!何逃げてんだお前!ちゃんとこいつの手綱握っとけ!ちゃんと愛を確かめ合え!ハァァァ……とんだとばっちりだまったく!)
こいつがこっちに来たことで彼氏は今ドフリーだ。
遠くの方でバンザイしてるのが見える。
余程嫌で全身全霊で逃げてたんだよな。
わかる。その気持ち。
俺もトイレしに行きたいもん。
「損害賠償」
「ぇ?」
「アタシ達のデート邪魔して?なおかつ愛に亀裂が生じた。これってもう治ることはないかもしれないよね?どうしてくれるの?彼とあんなに離れちゃって……あぁーぁ…冷めてきちゃう。いくら出して罪を償ってくれるの?」
左様ですか。
物理的に近くにいないと愛にならないんだこいつ。やべぇじゃんガチで。あんなに重たかったのに彼と離れてその矛先俺に向いてんの?
ボンビーかこいつは。
さっきまで俺ウハウハで超天国気分だったのに今は地中に体埋まってるぐらい重たいんですけど。
これからの未来に希望の光ないんですけど。
「…今から入れる保険って…ありますかね?」
「んー、あなた…意外と悪くないわね。愛保険っていうのがあるけど?保険料はいらないからアタシに愛を注いで?」
「手当たり次第の通り魔じゃんかよ!回避のしようがねぇよ!」
「なぁに?アタシに文句でもあるわけ?」
「…はなせぇぇ!友達の大事なパーティがあるんだ!」
「彼氏になって一緒に行きましょう」
「習い事が…!」
「一緒に」
「病弱な妹が…」
「医者を紹介してあげる」
「家の門限!」
「愛の逃避行しましょう♡」
「あっ!俺探知系のスキル持ってんだけど、なんか…二階層にとんでもねぇイケメンの気配がする!?どれくらいとんでもねぇかっていうと世界一の美貌をもつおま…あなたの隣に立てるぐらいのイケメン!絶対お似合いだから!まじで俺嘘つかないから!超幸せな家庭作れそうな感じだから!子供100人作ってくれそうだから!」
てんこもり大サービスだ。
速くどっかに…
「……イケメン…ね?嘘だったら…」
ーーー地獄の底まで追いかけるから
「ひょぇっ…」
そう言い放った彼女は空中を蹴って瞬く間に姿を消した。
「…助かった?たまには嘘ついてみるもんだな…とりあえずもう二度と会わないように願うしかねぇ。会ってもいいように強くなんねぇと…」
やまとは手を2回叩き、空に向かってお辞儀をした。
「外出たら厄払いにでも行くか…」
まだ肩に愛が乗っかってそうだから。
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