3. 一番何するか分からない
「この布陣と練度に士気の高さ、やはり時間を掛けて組織されたものですね。一体誰が何のために……、ああ、そうです。確か最近ここを出入りしていたのは――」
『一番突破っす!』
『二番、制圧しました』
「結局同時突破になりましたね。レンとルーシィは本拠、三番拠点を強襲。カリンとこちらで露払いをします。ベル、狙撃陣地七番から九番、動かれる前に制圧射撃を。飛んで!」
「しっかり捕まっている」
ベルのうなじにしがみついた瞬間、景色が上から下にすっ飛びます。緑の海を抜け出して高く青の空へ、ふわり包み込まれるつむじ風の中、ベルは五本ずつに巻かれた矢束をつがえ、前後左右と回転しながら三度の爆撃を打ち下ろします。着地姿勢を整える間にカリンの追撃が幾度か続き、ひと際大きな、ルーシィが拠点の門を破砕する音が締め括ります。
盛大な粉塵が舞い上がる中へ、ベルは姿勢を制御しつつ降下します。私は口元を抑えながら背中を降り、正面にレンとルーシィの背中を、隣にベルとカリンを伴って前を見据えます。
「そこまでにしていただきたい。……アリシア様」
「ジェムス・ゲオキル。やはり、あなたでしたか」
徐々に視界が開ける中、銃器を構える青の兵団を伴い、姿を現す初老の男性。撫でつけた白髪交じりの黒髪の下から、変わらぬ鋭い目がこちらを睨みます。
私は臆することなく視線を返しながら、近衛たちへと、
「皆さん。敵、前のレンとルーシィよりも、ベルを気にしています。背後の物見二棟、何かありますね。動きがあれば、こちらの破壊を優先に対処します」
「「「一番警戒されてるのは貴女です」」」
「ええー……?」
後方でふんぞり返って指示してるだけなのですが。そう伝えれば「ここは戦場の最前線です」とのこと。いえいえ、これだけの精鋭が前に居たら最後方も同然ですよ。……何故でしょうか、我らが近衛騎士たちが揃って肩を落とします。
やや士気を落としたようなこちらに、ジェムスは油断の無い視線を向けつつ、
「そう慌てずに。貴女と是非お話がしたく、こうして出て来たに過ぎませぬので」
「穏便に話し合おうというには、随分と物々しい装いですね」
「本来、陣地を捨て撤退するための手勢です。貴女相手には小虫程度の脅威にもなりません」
ゆえに、と。
「その右手に隠し持った、煙幕と閃光弾は、どうか下げていただきたい」
あら、見抜かれていました。むむむ、隣のベルに警戒が集中しても困りますし、ここは素直に地面へ置いておきましょう。……念のため、いつでも蹴り飛ばせる位置に。騎士たちから小さく息が漏れますが、なんとなく呆れの気配を感じるのは何故でしょうね?
見届けたジェムスは腰の後ろ手を解き、左手を身体の横に真っ直ぐ、右手を胸前に添え。
小さく、頭を下げました。
えっ、と思わず息を漏らす私の前で、兵たちが次々と武器を捨てていきます。
「開戦から三十分足らず。我ら戦力の六割を行動不能に、陣地の七割を損失、残る戦力三割は救護に割かれ、一割は既に無条件降伏の準備を進めております。
アリシア様。紛れもなく貴女様の勝利です。これ以上の追撃は、どうぞご容赦を……」
「ええー……?」
「ってかアリシア様気付かなかった? 元々誰も戦意無かったよ」
「この状況で、まだ続ける気なのかと戦慄した」
「俺的にはまだ奥の手でも読んでるのかと思ったっすけどね」
「あの物見棟、恐らく王都侵攻への指揮手段です。破壊されれば革命の大勢も決します」
「や、やっぱりダメですね私! 実戦経験も無くこんな所へノコノコ首突っ込んでは!」
「「「まだそんなこと言ってるのか……?」」」
顔面蒼白のジェムスが地べたに跪き、鬼の国最終奥義『DOGEZA』も辞さない構えでしたので、早々に荒事はお開きとなった次第です。私からすれば、ここまで大暴れして息一つ上がってない近衛たちの方がよほど大概だと思うのですが。
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