2. あいつ急に早口に
「レン、突撃後は左右に振れて弾幕を散らしてください。再突撃は余裕があればで十分です、脚を止めず回避に専念を。ルーシィは銃器の再装填を狙って防壁を破壊してください。派手に砂塵が上がれば、レンの次段突撃を支援できます。タイミングはこちらで。三、二、一……今。ありがとうございます。伏兵が集まっていますが、気にせず次の防壁へ向かってください。こちらで対処します」
『了解!』
『はいはーいっ』
遠く、ド派手な破砕音が銃撃をかき散らす中、耳元の小さな魔法陣から、レンとルーシィの元気な返事が風に乗って届きます。私は手元の魔法陣、中空に描かれた地図へ目を落とし、
「ベルは曲射よりも直線を優先して狙撃してください。派手に木々をぶち抜いて構わないです。速度もですが、こちらにも注意を引いて判断を迷わせます。斥候は二人一組の片方だけを先に無力化していってください。まず足を止めさせ、可能であれば救護に手を割かせます」
「了解した」
隣、弓を引き絞るベルから、次々と放たれる矢は烈風を纏って木々の列を貫いていきます。
「カリン、そちらの状況は?」
『狙撃陣地三番を制圧しました。動きの速い斥候が二組、対処します』
「お願いします。二組の位置を共有してください。念のためですが」
『アリシア様、循環路二番に入るっす! 左、防壁六の一から落とします』
「少し手こずってください。右、六の二を引きつけます。突破後は防壁七へと見せかけて、六の二を後方から制圧しましょう。ルーシィ、レンを囮にしつつ防壁七を破壊してください。突破したら前進、八はレンと役割を交代してください。やや薄めなので行けるはずです」
『りょーかいっ! ……ねえアリシア様。誰もツッコまないから聞くけど、実戦経験は?』
「え? いやいや、ありませんよこんな平和な国で。精々、お父様やユリウスと盤上戦をするくらい……。あっ、別に城を抜け出すついでに警備の配置を覚えたりとかしてませんよ!?」
『どーりで捕まらないわけだー……。七番突破、次行くよー』
「ああはい、お願いします。ベルと私は循環路二番手前まで……あら? カリン、ルーシィから四時方向、敵部隊の配置はありましたか?」
『いえ、私が確認した限りでは無かったかと。開けた斜面です。伏兵は置けません』
「……ベル、こちらから一時方向、山肌と森林の境界線辺りに何かありませんか?」
「僅かだが、草や枝を掻き分ける音がする。動物のような気もする」
「伏兵と見ましょう。魔法の使い手かもしれません。曲射で探りを入れてください、閃光弾を使って構いません。観測時は音の遮断を忘れずに」
「了解した。……着弾。五人分の声。当たりだ、制圧する。……なぜ分かった?」
「なんとなく、ですかねえ……? 違和感、といいますか」
「魔法の行使を、なんとなく感じ取ったと……?」
『私の失態です。申し訳ございません』
「いえいえ、カリンの偵察が正確なので、こちらもイレギュラーの対処に専念できます。レンとルーシィは……、ああ、もう一番拠点前ですね」
『一旦待つって話だったけど、何か様子が変だよー。混乱してる感じ?』
『さっきのが魔法の使い手だとすると、偵察に出た前線司令だったかもしれないっすね』
『アリシア様。二番拠点も同じようです』
「同時に攻めましょうか。ベル、爆撃で門をこじ開けられますか?」
「了解。……破壊した。斥候、狙撃点の控えが一斉に向かっている」
「狙撃兵を無力化したら私たちも向かいましょう。まずは一番を落とします」
『二番拠点、注意を引きます』
「ありがとうございます。レン、ルーシィ、一番制圧後は工程を省略し、二番を奇襲してください。カリンと連携し、まとめて蹴散らしましょう」
『『『了解』』』
矢のごとし、でしょうか。
二人がこじ開け一人が支え、もう一人が先手後手の対処に駆ける。電撃、遊撃とは正に此れ。何となくこの働いている感じというか、現場にいる感じもとても気分がノリますね。男心ゆえか女心ゆえかは分かりませんが。
しかし、配下が優秀ですと楽ができて良いですねえ。などと抜かすお飾り姫こと私は現在、ベルの背中に引っ付いて矢筒を尻に敷き、絶賛森の中を疾走中です。支えがあると小さく丸まり易いんですね。とほほ。
「貴女がこの戦術の要だ。矢じり一本掠らせはしない」
「お世辞は結構ですよベル。あ、九時方向、何か居る気がします。炙り出しを」
「コレで自覚が無いのがどうかしている……」
首を傾げますが、何でもないと言うのだから無いのでしょう。遠く弾ける光の後に、駆けるベルの連射が潜んでいた兵を無力化していきます。カリンからは二番拠点の動きがさらに鈍くなったとの報告が。敵の指揮官は働き者揃いのようです。
「この布陣と練度に士気の高さ、やはり時間を掛けて組織されたものですね。一体誰が何のために……、ああ、そうです。確か最近ここを出入りしていたのは――」
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