3. やおい穴
「ユー君は全然、王様としても、お姫様としてもやっていけると思うよ」
「それは、褒め言葉ですか?」
「褒めてるに決まってるじゃん」
姉様は両手を広げ、肩をすくめます。
「アイツら、四皇の連中見たでしょ? ユー君、アリシア姫のためにあんな必死になっちゃって。今日の騒ぎっぷりったらなかったねー。私じゃ、ユリウス王子のためじゃ絶対にああはならないよ?」
「それは、でも。僕に力が無いからで」
「本当に、それだけだと思ってる?」
姉様は皮肉めかして口の端を吊り上げます。うぐ、と怯んでしまったのは完全に僕の失態でしょう。気付いていると、認めたようなものです。
自分が、どれだけ民に慕われているのか、ということを。
「私はね。力が無いことを含めてこその、アリシア・メル・ハーノイマンだと思ってる」
姉様は続けます。肘を上げた右手を、自らの胸に置き。
僕の心の内を、明かすように。
「魔法貴族として、王として民を守り、導くことはできない。それでも、弱いからこそ、互いに頼り頼られる、そんな王であれる。コレは絶対に、ユー君にしかできないこと」
だからね? と姉様は首を傾げます。
「もしあなたが、あなたの道を見出したのならば。迷わずそれを貫きなさい。無力であれど、無能ではない我が弟、ユリウス・ノア・ハーノイマン。
その時あなたが選ぶ姿が、アリシアであれユリウスであれ、私はその背を押しましょう」
無力であること。
王の資格を持ち得ないこと。
この国で起きつつある、小さな変化のこと。
僕の中でわだかまっていた、多くのことが、ただその一言に溶けて行くようで。
「はい。その時は、必ず」
小さな決意を抱く、きっかけをくれたのでした。
僕の言葉を聞き届け、姉様は満足気に頷いてみせます。
「……もしユー君がお母さんになりたいって言っても、お姉ちゃん応援するからね?」
「良い笑顔で変なこと言わないでください! 言いませんよなれませんよ!」
「ええ? でも鬼の国に妊娠してる男の人の絵たくさんあったよ? こう、細い絵巻に、男でも赤ちゃん作れる『穴』があるとかなんとか……」
「ありませんよ僕の身体にそんな場所は!
「妄想の具現化みたいなユー君がそういうこと言う……」
うぐう、頭おかしいくせに痛いところ突きますこの姉は! そういえばアリシア姫のイメージは僕の理想像でした。何も反論できません!
あれ? ということは、理想の姫であるなら子は成せて当然なのでは? むしろそうあるべきなのでは? 僕は姫の責務として、この想像も具現化しなければならないのでは? ふと思い当たったヤバめの思考に脳が破壊されそうに、狂気でグルグルし始めた視界の中、姉様はとても穏やかな笑みを浮かべます。
「でもまあお姉ちゃん的には、こんなに可愛いユー君が、夜な夜なこっそりおちんちんゴシゴシして女の子下着ぐしょぐしょにしてるかと思うと、そっちの方が、その、控えめに言って、排卵するよね……」
「してませんよそんなこと! 思いついた傍から変なことぶちまけないでください!」
「ええっ!? ストレス発散にもしないの!? わ、私なんて夜な夜なベッドに愛剣ぶっ刺して柄使ってこう……っ!」
「わああああ説明しないでください嫌です聞きたくありません見たくありません腰振らないでください動きがエグい! というか王剣の柄って姉様ガバガバになりますよ!?」
「あ、姉の下の口に向かってガバと申すか弟よ! 奥の奥が突き上げられる感覚がたまらなく、そもそもユー君の可愛いのじゃ人並みの穴でもユルユルじゃないの!?」
「処女でその感覚はヤバいですってえええええっ! というか言ってはいけないこと言いましたね姉様戦争ですか王室内抗争ですか!? やってやりますよウチの近衛は国内でも指折りですからね!? 勝って姉様のまな板でヒラメの三枚おろしです!」
「あーあーあーユー君言ってはいけないこと言ったマジで言った! いーよ私一人でこの国の連中全員相手にできるから後悔するなよ!? 勝ったら私のおろし金でユー君の可愛い可愛い山芋ゴリゴリに磨り下ろしてやる!」
聞くに堪えない暴言の応酬。
仮にもやんごとなき王族の双子。
これもまた、ハーノイマン王室の日常でした。
ひとしきり騒いで肩で息をする姫姿の弟と王子姿の姉。荒い息を吐いて睨み合い、ふと笑いが込み上げて吹き出しました。カラカラとお互いに笑い合って、僕は口元に手を当てて上品に、姉様はお腹を抱えて、お互いにお互いのフリがつい出てしまうのはご愛敬。
「まあ、うん。とにかくそういうことでね。『姉様』」
「はい。ありがとうございます。『ユリウス』」
認識変更。
僕はまた私に、アリシアになって、弟のユリウスに頭を下げます。そんな様子に、ユリウスは仕方がないというように苦笑して、
「でも、気を付けてくださいね? 姉様、ちょっと抜けてるところがありますし」
それに、と。
「あんまりうかうかしてると、本当に攫ってしまいますからね?」
ほんの少し不穏な――多分本気だろうなあ、という言葉を、残していきました。
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