8. 貴族として

 貴族の血脈に魔力は宿り、魔法の威光をもってこの国を統治しています。


 最たる者たちが彼ら四皇。水土木金を司る筆頭貴族四家。


 その頂点、国の象徴たる我ら王族、火王家ハーノイマン。


 後継一個人が、単独で国を滅ぼせるほどの災害兵器です。


 圧倒的な破壊力を持つ彼らが居て、抑止力となるからこそ。この国および周辺各国では、もう数百年に渡って国家間の戦争が起きていません。それに対して私のような魔力無しが、ちょっとした技術革命を引っ提げて、さて何かできるかと言いますと。


「力不足感は、否めませんねえ。せめて四皇を一人でも確実に制圧し、無力化できるレベルでないと……」

「無茶言うねえアリシア。そんなものが市井で作れたら世界終わっちゃうよ」

「何も威力だけの話じゃないでしょう? 力に頼らず単純に魔法を無力化するような……。自分で言ってて滅茶苦茶ねコレ。実現性はともかくこれもこれで世界の終わりだわ」


 うーん、と言葉を無くす王族一家。お母様の言う通り、実現性はともかく、どちらにせよ大きな問題に繋がりそうです。それだけ王家四皇レベルの魔法は、この世界のパワーバランスに深く根付いてしまっているのですね。


「お、そろそろ決着がつきそうだよ」

「あら、やっぱりカリンが優勢なのね」


 お二人の言葉に目を向ければ、戦場では大樹が渇き萎れ、土巨人の機動は精彩を欠き、大滝の龍は崩れて瘦せ細り、突き立つ鉄塊は多くが砕き折れています。そんな中でも、相変わらず汗一つかかずに走り続けている我が近衛騎士のカリン。


 うーん、さすがと言えばそれまでなんですが、あまりにバケモノじみていますね。


「魔法に対抗できるような技術があったら、アリシアは別の生き方ができたのかな」


 ふとお父様の呟いた言葉が、酷く澄んで響きました。


「どう、なのでしょうね」


 私はカップを手の平に収め、ほう、と息を吐きます。


 次いで視線は、魔法が織り成す人智の極致へと。


「どちらにせよ……魔力の無い私に、王となる資格は無かったかと思います」


 器としても、民への示しとしても、国の象徴たる護り手としても。


 私は結局、男であることを隠し、姫として生きることを選んだのではないでしょうか。


 そんな私の思いを受け取ってか、お父様は小さく笑みを浮かべます。


「これは結果論だけど……。本当に結果論でしかないけど。アリシアは十分に、王として相応しい人間に育ってくれたと思うよ。魔力が無いことを、含めてもね」

「アリシアちゃんはよく頑張ったもの。私なんて、比べ物にならないくらい」


 あまりに恐れ多い、過分な評価です。嬉しいような恥ずかしいような、私はそんな気持ちを持て余して、ただ慣れ親しんだ微笑みを作ります。


 それでも、やっぱり。


 私は自分の資質を、疑わざるを得ないのです。


 だって……。


「――あーあ、さすがに間に合わなかったか」






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