4. 王国最強の馬鹿共(鎧と魔女)
「ウオオオオオオオオオオ――ッ!」
「今度は何ですかああああ――ッ!」
雄叫びと共にホール二階の窓を突き破り巨大な何かが会場へ飛び込んできました! 何奴!? とカリン始めセイルとトマスが咄嗟に身構え魔法の準備を始めます。さすが王国最強の名は伊達ではない反応速度です。褒めている場合ではないのですが。
フロアの床を砕き割り、大重量と共に着地したのは鈍色に輝く鋼の巨大な全身鎧。大柄なトマスよりもさらに二回りは大きく見えるその巨体。成人男性が二人半は入るのではないかという見上げるほどの威容です。その鎧の内から、くぐもった声が届き、
「ヒメサマ、オクレタ。ゴメン」
「ト、トルニトス……?」
トルニトス・ゴルトラオロン。四皇貴族が一つ、
ハーノイマン王国最強の一角を担う『
「え、ええと、トルニトス? 一応訊きますけど、どうして窓から……?」
「ヒメサマ、マモル。ジャマモノ、イッパイ。――タクサン、ツブシタ」
「潰してしまったのですか!?」
埋めるより酷いことになってます! ああ、よく見たら甲冑のあちらこちらに生々しい返り血が! トルニトスの足元にもボロ雑巾と化した男性が二人転がってます! いえ、虫の息ですがまだ呼吸があります! 誰か、この中にお医者様は! ……誰もいませんでした。あ、カリンが壁際に引き摺ってきて治療を試みています。さすがですね。
その傍ら、やれやれと肩をすくめるセイルと、呆れたように頭を掻くトマスが居ます。あら、コレはさすがに良識に反する行ないでしょうか。私はもう基準が分からなくなってまいりましたが、仮にも四皇に席を並べる者として苦言を述べるのですね!?
「おいおいトニー。潰した後は埋めろっていつも言ってるだろ?」
「そうだぞトルニトス。綺麗に始末しないと街が汚れるだろう」
そっちじゃないですよーう? 誰も整理整頓清掃の甘さを問うてはおりませんよーう? というか極めて今さらながら大丈夫ですかこの王家、この四皇。こんなにお脳がアレな集まりでしたでしょうか。
「ウウ、ゴメン。セイ、トマ」
トルニトスは申し訳なさそうに大きな鎧で縮こまってます。ちょっと可愛いかもと思うのは現実逃避ですかねコレ。あ、視界の端で潰されたお二人がカリンの処置で息を吹き返しました。元気に自分の足で立って帰っていきます。あら何やら小声でお互いに話して……いえあの、作戦がどうのとかではなくてですね? まず喧嘩売る相手が悪すぎるのではないかと、
「おーっほほほほほほほほ――ッ!」
「いやあああああ鉄砲水が――ッ!」
高らかな笑い声と共に天井をぶち抜いて滝が流れ込んできました! さすがに打ち止めだろうと思ってもまだ驚かせてくれますねなんて優秀な家臣たちでしょうか! 咄嗟の現実逃避も虚しく会場の物品が滝に押し流されていきます。ホールを真っ直ぐ貫き大扉へ向けて、ああ、転がっていた候補者たちと先ほどのお二人が飲まれました。あーもうめちゃくちゃですね。
セイルとトマスはそれぞれの魔法で水を防ぎ、カリンは私を庇いつつその後ろへ隠れます。トルニトスはこの激流の中でも平然と立っていますね。むしろ心地よさそうです。そういえば、金は水と相性良いのでしたっけ。
会場を跡形もなくずぶ濡れにした水が流れ去った後、大穴の開いた天井から舞い降りる青い長髪の女性が一人。今年で十八歳になる彼女はまさに魔女と言った紺色のドレスに身を包み、三角のとんがり帽子などを被っております。
「驚かせてしまい、失礼いたしましたわ。アリシア様」
「あなたもですか、マリアン……」
マリアン・アクルメリア。四皇貴族が一つ、
ハーノイマン王国最強の一角を担う『
「あのう、正直訊きたくないのですけど、何故空から……」
「他の候補者を溺死させて回っておりまして」
「遂に殺したのですか!?」
はっきり『死』と出たのですが! もう生存の見込みも無しですか!? 絶望する私にマリアンは何故か「フッ……」とニヒルな笑みを浮かべ、
「姫の伴侶などという、叶わぬ夢に溺れた者の末路ですわね……」
「何を上手いこと言っているのですか!?」
私のツッコミを尻目にカリンが流されていった者たちの方を確認していましたが、しばらくすると首を横に振りながら戻ってきました。ダメだったということでしょうか。それとも遠く流されて安否不明ということでしょうか。どちらにせよダメそうです。
「しかし、残ったのは結局、この見飽きた顔ぶれなのですわね」
マリアンは溜め息を吐きながら、周囲を見回します。
その言葉に反応したのはたったの四人。
王家近衛騎士、カリン・ニーデルフィア。
木家が後継、セイル・フォレスブルム。
土家が後継、トマス・ランディール。
金家が後継、トルニトス・ゴルトラオロン。
水家が後継、マリアン・アクルメリアは各々と向き合い、はっきりと言い放ちます。
「――私、この中の誰にも、アリシア様を渡す気はございませんので」
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