第10話 010

 僕たち3人はアルトを先頭に洞窟を無言のまま歩み続けていた。そしてこの沈黙を破ったのは先頭を歩いているアルトだった。


「リョウタは面白いだろ?武器1つ持たずにダンジョンに入るなんて命知らず俺は聞いたこと無いぞ。」

「普通はバックパッカーといえど武器くらいは持ってそうなものですのにね?持っている荷物もお兄様のものだけでの様でしたし。」


 この兄妹の会話は、無言で歩いていく僕を挟んで行われている。洞窟の向こう側に明かりを見つけたようで「おっ明かりだ。」と、アルトの進みが早くなる、アルトが見つけた光の源は部屋になっていて僕たち3人は部屋の入り口で顔を出し中を窺った。部屋は長方形で奥には碑石と1体の骸骨が見えた。どうやらここがダンジョンの最深部のようだ。


「ここが終着点の様ですね。」

「だな。ってかさ、最後もスケルトンかよ、もう少し張り合いのある魔物が出てほしいな。」


 そういいながら動き出すアルトをユイが止めた。


「お兄様、お待ちください。」

「うん?罠か?」

「いえ、ここはリョウタさんに任せてみませんか?」


 ユイは腰の剣を抜き僕に差し出した。そして僕をまっすぐに見つめ言った。


「どうぞ。」

「・・・はぁ?」


 だが僕も、どうぞと目の前に差し出された剣を思わず握ってしまった。それを見たアルトは、ユイの案に乗っかった様だ。


「それ面白いな!ここは勇気のダンジョンだ。その勇気が今試されるわけだな。がんばれよ。」


 僕は背中を押されそのままダンジョンの中へと押し出されてしまった。思わぬ提案で出番が回ってきた僕は剣を構え骸骨に近寄っていく。


「構えが変ですね。それにガチガチですよ。」

「お~い、力抜けー。剣をめがけて振れば、相手の武器を無くせるからそのあとは、おもいっきり叩け。」


 骸骨方を向いたまま僕は頷いた。そしてゆっくりと部屋の中間まで進むと骸骨もこちらに気が付いた様で骨と骨があたるような音を鳴らしながら走ってきた。軽くいや完全にホラーだ・・・。恐怖に駆られ僕は剣をぶんぶん振ることしかできなかった。


「あっ。これはダメですね。」

「待てよ。天下無双リョウタ流かもしれないだろ?」


 兄妹が何か言っているなか、それはもう必死に剣を振った。だが剣を振ろうが骸骨は近寄ってくる。そして十分な距離まで詰め寄った奴は僕の体をめがけて剣を振る。その結果、運よく僕のぶんぶん剣と骸骨の剣が交差したのだ。

 『キン』と大きな金属のぶつかる音がした剣が宙を舞った。だが、困ったことに手を離れ空中を舞った剣は、僕の剣の方なのだ。あぁ、何もいいことがなかった人生だった・・・人生2度目の走馬灯だろうか?体は動かずに嬉しそうに顎を揺らす骸骨が剣を大きく振りかぶったのがスローで見えた。

 その瞬間だユイが駆け出し、はじかれた剣を拾うと骸骨を1撃で粉砕したのだ。バラバラになった骸骨は成仏したのか様に消えていった。カッコよさにドキッとしてしまうほどだった。


「大丈夫でしたか?」


 ユイは剣を収め。僕に駆け寄る。僕はただうなずいた。全てが終わった部屋にアルトはゆっくり入ってきた。そして微妙なフォローしてくれた。


「いやー強敵だったな。こんな強いスケルトンが碑石を守ってるなんて思わなかった。」

「・・・」

「お兄様、今のは本当に危なかったのですよ。」

「そうだな、ユイが居てくれてよかったよ。だがお前がいなかったらこんな事にはならなかっただろうな。」

「「・・・」」


 ユイはアルトの反撃に顔を赤らめて黙ってしまった。これにはちょっと自業自得かと思えた。普通に考えて僕のような素人が戦いに参加すればこうなることはわかっていただろう。アルトは溜息を突きながらバックの横から松明を取り僕に渡した。


「とりあえず素振りでもしてみたらどうだ?」


 冒険者になって初めての実践は惨敗に終わってしまった。僕はこの時に思った。もしアルトについてこなければ僕はきっとその辺ですぐに死んでしまっていたのだろうと・・・。

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