第9話 009
教会の地下に広がったダンジョンをさらに奥に進んでいく、こんな洞窟を歩いたことない僕はとっくにどのくらい進んでいるのか、どの方向に進んでいるのか把握できていない。ただ救いなのは今のところ分かれ道ななどはなく、ただひたすらに土の壁に沿って歩いているだけなのだ。
ダンジョンの幅が少し大きくなるとの奥の方からカタカタと音がするのだ。そしてライトの光に当てられて姿を現した・・・骨だ。骸骨が歩いているのだ。どこをどうやって見ても骨だ・・・骨同士がぶつかる音を鳴らしながら洞窟を行ったり来たりダンジョン内を徘徊している様だ。そしてその右手にはボロボロの剣が握られていた。
「おっスケルトンだな。カモがネギしょって来たぞ。見てろよ」
アルトはたいして驚きもせずに肩をぶんぶん回しアルトが骨に近寄っていく、どう考えてもあれがネギはしょっている気はしないけど・・・。
「この見た目だから強そうなように見えるけど、骨しかないからな」
そういって抜いた剣を、骨が持っている剣にぶち当てた。『ガキン』っと鉄がぶつかり合う音がして骨の持っている剣がその手からはじかれる。そして剣を落とした骨にとどめとばかりに剣を叩きつける。アルトに3度ほど叩かれた骨はバラバラになって消えていった。
「うおぉーーーー!やったぜ!俺最強ーー!」
ダンジョンに入り初勝利を収めたアルトは腕を上げ叫んだ。僕もちょっと心が踊ったがその叫びが思わぬ遭遇を呼び込んだのだ。アルトの叫びを聞きつけたのは、背の低くく濃い緑色でしわくちゃの肌をしたゴブリンらしき魔物でその数がなんと6匹だ。
「さすがに多いな・・・」
アルトは手のひらをゴブリン共に向けると炎が巻き起こりゴブリン共を包み込んだ。その魔法は後ろのほうに立つ僕の頬が暖かくなるどの威力だ。
アルトの出した炎でダンジョンにゴブリンの悲鳴が響き渡る。影だけ見ると人間の子供様なので地獄絵図と言ってもいいくらいだ。炎が消えるとゴブリン共は倒れていて、アルトが剣を振り1匹2匹と止めを刺していく。その間に僕はどうしていたかというと、何もできずにただ立っていた。直立不動だ。これはアルトを信頼して戦闘の終了を待っているのではない、何もできなくてただ呆然と立ち尽くしているだけだ。
その時、僕の後ろに殺気を含んだような気配がした。しまった油断したと僕は振り返り両手を突き出す、そうそれはとっさに出たこっちへ来ないでポーズだ。その情けないであろう僕のその手にはハリがあるけど柔らかいなんとも言えない感触を感じた。僕は恐る恐るつぶってしまっていた目を開ける・・・そこに立ったのはゴブリンなどではなく女冒険者でそれをちゃんと認識するまもなく宙を舞って倒れた。
・・・・・
「おい、大丈夫か?起きろ、ここはダンジョンだからな!ふざけてないで起きろって」
僕の体をすごい勢いで揺らすアルトに起こされたようだ、目が覚めると同時に顔面をバットで叩かれたような苦痛を感じ始めた。
「イタタタ!すみません。僕は魔物にやられてしまったようです・・・思い残すことはありますが、もうだめです。アルトだけでも進んでください。」
横から足が見え僕の体を踏みつけれた、そして僕の顔が更なる苦痛に歪む。
「うぐ」
「なんですかこちらの方は、いくら何でも失礼がすぎますね。」
「ユイやめろ。かわいそうだろ。」
アルトが僕を踏みつける足をどかすまで僕は必死にその痛みに耐えることになった。
「お兄様はどちらの味方なのですか?」
・・・・・
この女冒険者の名前はユイだ。アルトの妹で15歳と言うことなので僕より少し下だ、かなり病弱?で学校に行けず兄であるアルトの旅に便乗して付いていくことになったと聞いた。だが王都を出てすぐにアルトにおいて行かれたようで、1人になってしまったとの事だ。
本当はその様な場合は旅を中断し王都に帰る事になっていたが目的地がわかっていたユイは、そのまま旅を続けここで追いついたわけだ。
見た目は、僕とおなじくらいの背丈、少し茶髪のセミロング、かなり華奢で顔は美人ってよりかわいらしい感じだ。胸はつるペタとは言わないが大きくない方だろう。まぁ感触は、・・・良かった。
そして今、僕はアルトの隣で正座している。当然アルトも正座だ。関係ない僕も説教タイムに巻き込まれてしまっている。
「ここはダンジョンの中だぞ?これやめないか?」
「お兄様?ちゃんと反省してください頂きたいですね。私は1人でどんなに心細かった事かと」
「だってさぁ~お前がいると冒険できないだろ?」
「ですが冒険なんてせずとも十分ではありませんか?どんな場所にあっても碑石は碑石ですよ。」
「男のロマンってやつだな。よし、わかるように説明してくれ」
振らないでほしい、ロマンはわかっているつもりだが聞こえない振りをして無言で正座だ。こういう時の正解はこれ以外にはありえないのだ。
「そもそも、こちらの方はどのような方なのですか?」
「俺の雇ったバックパッカーのリョウタだ。ほら荷物持ってると戦いにくいだろ?それに俺の雄姿を後世に伝える人間が必要かなって。」
は?え?なんて奴だ。僕を雇った理由は自分の勇姿を見せるためだったのか?
「はぁ・・・くだらないですね。あなたクビですよ。このコインはそこそこ価値のあるものですのでそれを持って帰ってください。」
思ったよりも大きな金のコインを渡されると、手でシッシとされた。このままだと退職金を出され放逐だ。受け取っていいものかわからずにアルトの方を視線を送る。
「・・・」
「待てよ。それは酷いだろ?こいつ戦えないし、武器も持ってないのだぞ?帰らせたらマジで死ぬかも。」
少し間が開いたが、アルトの妹は僕の処遇を決めた。
「そうですね・・・、本当に死なれるのも目覚めがわるいかもしれませんね。ではとりあえず帰りましょう。お二方とも立っていただけますか?」
言われるままに立ち上がり足についた砂を払い、そして何故か2人分の荷物を背負わされた。その時にアルトは僕にだけこう言った。
「教会まで戻って、もう一度ここに入る。それでいいよな?」
アルトの事だからそのまま進むのかと思ったが、一度妹を教会に連れて行くようだった。だがその会話を妹のほうが見逃さなかったようで行く道をふさがれた。
「はぁ、この程度のダンジョンならば、私も付いていきます。問題ないでしょう?」
「うーん。そうだな。実際問題死ぬとしたらリョウタだしな。」
雇い主がそういうのだ、ちょっと不安もあったが無言で頷くしかなかった。え?俺危ないの?まぁゴブリンには勝てる気がしなかったけれども。
「では進みましょうね。」
何だか知らないがすでに僕たちのリーダー気取りのアルトの妹のユイがダンジョンの奥を指さした。うわ~兄妹なんだなーと思いつつ2人の後を追う。
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