第2話

 「ルイ?なに、しているの?」

 

 ルイは一瞬顔をしかめ、焦ったことが読み取れたが、次の瞬間には開き直ったような表情をした。


 「なにって、見たらわかるだろ。ただのキスさ。君みたいなつまらない女としたところでなんの面白みがないから、彼女としているだけだ。そもそも、なんで約束していないのに来たんだ?」

 「ただのキスって…」


 頭をガツンと殴られた感じがした。


 「大事な話があるんです。私の両親が亡くなったとさっき連絡が入って」

 「・・・ははは!そうか!ついに死んだか!」

 「え、」


 理解ができなかった。フローレンにとっての両親は、義理ではあるもののルイの両親でもある。その両親が死んだことを喜ぶとは。

 それ以前に、婚約者がいるにも関わらず、他の女性とキスをして、なぜこうも堂々としていられるのか。


 「なぜ笑っていられるのですか」

 「なぜって当たり前だろう。お前の両親が死んだということは、ついに俺がベルナール家の当主になれるのだぞ!マルタン家を継ぐ我が兄よりも、ずっと大きな権力を握ることができる!ソフィ、君とも一緒にいることができるよ」


 信じられないことを次々と口から発したルイは、ソフィと呼んだ女性を抱きしめた。


 「なにを言っているのか、よくわからないのですが」

 「まだわからないのか!もうすぐ俺がベルナール家の後を継ぎ、権力を握る。そしたらお前との婚約は解消して、ソフィと婚約する。まさかお前、俺が本当にお前みたいな女と結婚すると思っていたのか?今まで付き合ってやった分、感謝しろよな。安心しろ、結婚式には呼んでやる。あと、お前の両親の葬式には行かない。さあ、もういいだろ、帰ってくれ」

 

 言われるままに外へ出ると、バタン、と乱暴に扉を閉められた。

 しばらくの間は頭が混乱し、立ち尽くしていたが、ゆっくりと馬車に向かって歩き出した。御者がなにやら声をかけているようだったが、それすらも耳に入ってはこなかった。


 そして、ゴトゴトと揺れる馬車の中、フローレンの目から溢れ出る涙は止まらなかった。




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