ニューワールド・ファンタズム第二部《二人の英雄》

神成幸之助

第2部 二人の英雄

 唇に、柔らかい、同質のものが触れた。

「おはよう、アル」

俺の上に乗っている少女は、別世界の剣士アリス。あの《世界》では俺のお嫁さんだった女性だ。こう見えて、アリスの身体は機械で出来ている。開発者が言うには、人間の性能を再現しているそうだが……最後の《あの言葉》を思い出したら、たまに恥ずかしくなる。さっきの感触は、アリスが俺にキスしたのだ。

「……アリス…………寝起きキスは勘弁してくれ……」

「だってアルが全然起きないんですもの」


あれから、ニューワールド・ファンタズムをクリアしてから三ヶ月が経った。

一ヶ月前、どうやって調べたのか知らないが、突如家に来たアリスは、俺の家族の前でこう宣言した。『私は鉄也君の嫁です』と。それ以降、アリスはこの家で暮らすことになり、半ば同棲状態になっている。

 俺とアリスは、新たな日々を過ごしていた。

「おはよー……」

二階の部屋からリビングに降りると、家族たちが待っていた。

「おはよう兄さん、またアリスさんに起こしてもらったんだね」

「うるせーやい」

 眼鏡をかけた弟、《優也》は、朝から新聞を読んでいる。

「まったく、どうせ兄さんはキスして起こしてもらったんだろ?」

流石我が弟、よく分かっているじゃないか。

「なんで知ってるんだよ!」

俺の指摘に優也は笑って、

「だって二人共同じ部屋で寝てるんだから、ある程度の想像はつくさ……それに、こうも目の前でいちゃつかれると、流石に…………ね」

優也の視線の先には、俺の隣に座り、腕を抱くアリスが。

「あー……」

「テツとアリスちゃんはラブラブだものねー」

母さん…………《星川由美》の発言に、ちょっと恥ずかしくなる。

父さん、《星川紘一》は仕事で県外に赴任中。俺が目覚めて家に帰って来てから数日で戻ってしまった。

「さ、急がないと遅刻するわよ」

母さんに急かされ、朝食を食べきる。

「急ぐよ、兄さん!」

「おーう、今行く!」

 俺たちは同じ学校の同じクラスに通っている。

容姿はまったくと言っていいほど似ていない。二卵性の双子なのだ。

「行ってらっしゃーい!」

アリスに見送られ、俺たちは学校に走る。

二年の空白があった状況で、高校に合格できたのは奇跡だろう。

「ちょっと、ゆっくりしすぎたかも!」

「だから急ごうって言ったのに!」

「しょうがねぇだろ、じゃあお前は可愛い女の子を振り切れるのかよ!」

「…………無理だよ」

「だろ⁉」

「それに兄さんは、アリスさんと将来を誓ったんだろう?………ごめん兄さん、余計無理だね」

「分かってくれたならよろしい」

―――それはそれとして…………。

「ヤバい、ペース上げるぞ!」

「うん!」

俺達は人にぶつからないように全速力で走った。

もちろん、《アルタイル》のような速度は無い。あの世界は、遠い過去の存在だ。

あの世界から脱出したプレイヤー全員が社会復帰できたそうだが、記憶が残っていて、家族との別れに耐えられなかった者も少なくなかったそうだ。

「はぁ、はぁ…………」

「間に合った…………」

二人で校門を通過し、呼吸を落ち着けていると。

「こらー!あんた達遅ーい!」

「うげっ、麗香…………」

「うげって何よ、うげって!」

この小うるさい女は《小八木麗香》。俺達の幼馴染である。

「まったく。どうせテツヤがアリスさんとイチャイチャしてたんでしょ?」

「うぐっ…………」

百点満点の回答でございます。

「アンタ、優也に迷惑かけすぎ」

「否定できません」

「まあまあ、兄さんも悪気はないんだし…………ね。麗香ちゃん、許してあげて」

「優也がそう言うなら…………」

 ご覧の通り、二人はイチャイチャしています。

二人は恋人同士だ。俺がNFに捕らわれていた二年間の間に付き合い始めたらしい。

「…………っていうか、これ、教室に急がないと遅刻じゃね?」

「「あ」」

俺の言葉の直後、三人で全力疾走。

「ギリギリセーフ!」

「「セーフじゃない!」」

優也と麗香の鉄拳が俺の頭に炸裂する。


学校から帰宅すると、アリスが不安そうな表情で待っていた。

「どうしたんだ?」

そう聞くと、アリスが俺のスマホを差し出した。

「二時間くらい前に、メールが来たの」

スマホのメールホルダーを開くと、差出人が空欄のメールが一件。

「……………なんだ…………これ…………」

『あの場所で待とう。この世界の空白で』

「どういう事だ…………?優也、これの意味分かるか?」

「分からない…………兄さん、真っ白の場所に心当たりはない?多分そこに…………」

「白…………」

「あそこだよ…………アル………あの世界の、最後の場所…………」

そうだ…………。

流川大智と対話した、あの場所…………。

「だけどそれならおかしい…………あそこは、NF崩壊と同時に消えたはずだ…………」

「ねえ兄さん、URLがあるよ」

「えっ?本当だ」

それをタップすると、とあるサイトに飛んだ。

そこには、竜と剣士が丘で夕焼けを見つめる画面が。

「なんだこれ、《ヒーローズ・ファンタジー》?」

「最近話題のゲームだよ。確か、フルダイブMMOだったはずだけど…………」

「それ…………大丈夫なのか?」

NFみたいなことが起きないだろうな―――。

「大丈夫みたいだよ。クロノスの情報制御版みたいだし」

「…………だけど…………どうしてこれが?」

アリスの疑問に俺も同意する。

どうして、そのMMOのURLが…………。

「兄さん、さっき最後に真っ白の空間を見たって言ったよね」

「ん、ああ…………」

「なら、同列のゲームのクリア後も、真っ白の空間なんじゃないかな」

「…………だけど、別会社じゃ…………」

「いや、リンクスの社員が立て直したのが《アークス》だから、可能性はあるよ」

なるほど。

「それに、流川大智も行方不明だしね…………」

優也の推理は一理ある。

「…………よし、行ってみるか」

「本気、なの…………?」

「兄さん…………」

俺は頷く。

「分かった。私も行く」

「僕も行くよ、兄さん」

「いいのか?優也に関しては関係がない話だぞ…………?」

優也は笑って

「兄さんが過ごした異世界ってどんな感じか、見てみたいしね」

「…………そっか」

俺たちは早速、家電量販店に向かった。

そして一つの《ポータル》(クロノスの後継機)と、三つのカセットを購入した。

俺はクロノスでダイブ。

アリスはカセットデータをダウンロードすることでダイブ。

俺のクロノスをとっておいてよかった。

一番の戦友でもあるこいつを、捨てるなんてことはあり得ないのだが。

三人がリビングでダイブする。

「いくぞ…………覚悟はいいか?」

「もちろん」

「大丈夫」

一呼吸置いて―――。


「「「ゲート・オープン」」」


異世界への扉が開く。

生体認証を済ませ、神経リンクに成功。


≫ヒーローズ・ファンタジーへようこそ


女性風の機械音声のメッセージ。


≫最初にキャラクターを作成します。


選択肢に出てきたのはこんな感じ。


剣士(セイバー)

剣に特化した攻撃特化仕様。攻撃速度、移動速度、回避率に補正がかかる。


騎士(ナイト)

鎧と盾で味方を守護する防御型。防御に補正がかかる。


魔法師(ウィザード)

魔法を扱うエキスパート。最大魔力値に補正がかかる。


召喚士(シャーマン)

妖精を召喚し、その力を借り受ける召喚術の適正が高い。


調教師(テイマー)

モンスターを従える能力が高い。


弓兵(アーチャー)

弓の命中率が高く、速度に補正がかかる。


暗殺者(アサシン)

短剣とナイフの命中率、クリティカルに補正がかかる。


治癒師(ヒーラー)

回復魔法の適正が高い。


鍛冶師(スミス)

武器の修繕、作成が出来る鍛冶に適性を持つ。


錬金術師(アルケミスト)

オブジェクトを分解、再構築出来る錬金術の高い適性を持つ。


槍士(ランサー)

槍の命中率、回避に補正がかかる。


…………多くね?


多すぎるだろ。

ジョブシステムがあるゲームってあんまりやったことがないんだよなぁ…………。

プレイスタイルに当てはまるのは…………剣士、か。

結局、この世界でも剣士かぁ…………。


初期装備設定。


デザインが気にいったので、黒シャツに長い黒ローブと同色の長ズボン。

問題は剣だ。

命を懸けることになる相棒を――

…………って、この世界で命は懸けないだろ…………。

どんだけあの世界に影響されてるんだよと、自分が心配になる。

このゲームにはレベルが無いらしい。

ただ、ステータスは上昇し続けるみたいだが。

一番重そうなのは…………こいつか。


《シルバーブレイカー》

白銀の大剣。

女神の祝福を受けた刀身は闇を祓う。


他のは全部軽そうだからな。

ベールリオンよりも軽いのしかない。

まあ、この大剣もそうだが。

この世界でも、黒き剣士、か……。

最後に。

≫アカウント名を決めて下さい。

胸の高さにホログラフィックキーボードが現れる。

ローマ字、英語しかなさそうだな…………。

俺は迷った。あの名をもう一度名乗ることを。

ギルガメッシュ。

いや、違う。

黒き剣士は―――

Altair(アルタイル)

この名を、もう一度名乗ることにする。

≫アバターはランダムで精製されます。よろしいですか?

OK

仮想体に感覚が生まれ、下に落ちていく。

「…………は?」

落ちる――――⁉

こういうのって普通、《はじまりの街》スタートじゃないんですかね⁉

なんでその街が俺の下にあるんですかね⁉

「うわああああああ⁉」

ピンポーン

は?アナウンス?

『スキルを発動させ、衝撃を相殺しましょう!』

…………無茶言うなああああ!

刻一刻と地面が迫る。

…………クソッ、こうなったらやけくそだ…………!

片手剣単発上段斬り 《スラスト》の構えをとる。

―――――キィイイイイン!

剣技の発動音。

「な…………」

驚愕の間もなく、身体は自動的にモーションを起こし、地面を斬りつけた。

あの世界で鍛えた受け身をとり、着地する。

「あっぶねぇ…………」

何故スキルがこの世界にあるのかはさておき、このゲーム、鬼畜すぎんだろ…………。

「おーい、兄さーん!」

「へ?」

俺に声をかけたのは、白銀の髪で眼鏡をかけた青年。

「お前…………優也、か……?」

「そうだよ、兄さん眼が青いだけだね~」

「お前は違いすぎるみたいだがな」

「あはは…………」

「アリスは?」

「まだ来てないよ?」

そうか、と返そうとした時だった。

「きゃああああああああああああああああ―――――――――――っ!!!!!!」

「あ⁉」

「え⁉」

黄金の髪に青い瞳、それに細剣…………。

「アリス⁉」

「そのまますぎるでしょ⁉」

ほぼ半泣きじゃないか!

…………ん?

アリスが剣を構えた。

それはいい。

スキルで衝撃を相殺するためだろうから。

だけど。

その構えが…………。

「アリスの奴…………《コスモスター・レスティング》を撃つつもりか⁉」

「なに?どういうこと?兄さん!」

「逃げるぞ優也!アリスは最強技を放つつもりだ!」

「…………嘘でしょぉ⁉」

同時七連撃が地面に炸裂。

「あちゃ~…………」

「ううっ…………」

「アルぅううう!」

「ぐはっ!」

アリスが猛スピードで抱きついてきた。

「怖かったよぉ~…………」

「よ~しよし、もう大丈夫だからな」

「兄さん、ちょっとイチャイチャする時間はなさそうだよ」

「え?」

アリスのスキルの衝撃でみんな見に来てる。

「…………逃げろ!」

アリスを抱えて走る。

優也もそれに続いてくる。

「兄さん、先に言うけど、僕は《アリッド》だから!」

「俺はアルタイル!」

「私アリス!」

「本名⁉」

「あー………まあいいや!とにかく逃げるぞ!」

「あ!待って兄さん!」


逃亡後。

「なあ、二人は何のジョブにした?ちなみに俺は剣士セイバー

そう聞いてみると、

「私は剣士(セイバー)の細剣」

「僕は暗殺者(アサシン)」

「アリスは分かるとしても、ゆ―アリッド、お前暗殺者なのか」

「うん、僕は速く動ける方が良かったから」

「なるほど納得」

さて、次は…………。

「スキル選択、か……」

「迷うなぁ…………」

「二つ選択してくださいと出ていますね」

「う~ん…………」

「二人の選択肢はどんな感じ?」

これも俺から聞いてみた。

「えっと、暗殺者系統は…………高速移動の《瞬歩》、クリティカル確率上昇の《奪命》、《気配隠蔽》に、デバフ攻撃の《血裂(ブラッドストライク)》…………ぐらいかな」

ふむ…………。

「アリッドはどうしたいんだ?」

「そうだなぁ…………奪命と血裂かな?」

クリティカルでデバフを当てるって、

「えぐっ…………」

「酷⁉」

「アリスはどうする?」

「むむむ、難しい…………、速度特化で行きたいから、《俊足》と《飛脚》にします」

因みに《俊足》は速度補正。《飛脚》は五回空中ジャンプが出来るってやつ。

「そう言う兄さんはどうするのさ」

「う~ん…………じゃあ《切断》と…………えっ」

《切断》は、剣の切れ味を上昇させるスキル。

そして、あってはならないものが。

「どうしました?」

「いや、何でもない」

「もう一つは?」

「…………空白にしておくよ」

「「えっ?」」

「この世界での戦い方を学んでから選ぶよ」

「そう?」

「なるほど、理解しました」


本当は、もう一つのスロットも選択した。

だけどそのスキルは、《二刀流》だった。

《ユニークスキル》。

この世界でも、俺に巡ってくるのか…………。


俺たちはフィールドに出た。

「アリッド、スイッチ!」

「OK!」

現在交戦しているのは、鬼獣オーガ

下位のモンスター。

あっちの世界でのシルバーウルフぐらいの戦闘力。

「せあっ‼」

片手で振るう大剣で鬼獣の右腕を打ち上げた。

奪命・発動

「せいっ‼」

クリティカルのパーティクルが出る。

「アリスさん!」

「任せて!」

アリスは細剣単発突進技 《ストライカー》を発動させ、剣先を心臓部に突き刺す。

しかし技の威力が高くとも、武器の攻撃力が低いため、一撃必殺には至らない。

「まか…………せろ!」

俺は宙に舞い、空中から斬撃を放つ。

片手剣四連撃 《エクシア》

身体を斜めにすることで斬撃そのものの角度を変える。

「う…………おおおッ!」

スキル・切断!

そのなまくらの切れ味を高め、振り切る。

最後の四撃目で胴体を斬り裂いた。

「ふぅ…………」

命がかかっていないとはいえ、やっぱり戦いは疲れる…………。

「やったね、兄さん!」

「おうよ」

「流石です、アル」

「それほどでもねぇよ」

だが、この程度じゃゲームクリアはできない。

《二刀流》は何故か完全習得(コンプリート)しているとはいえ、《英雄之炎(リオネルフレイム)》もなく、武装も貧弱なこの状況では…………まだ無理だ。

そう考えたのと同時だった。

俺達に向かってくる、大きな火の玉が見えたのは。

「…………!」

――――間に合え…………っ!

《スラスト》を発動させ、火の玉を斬った。

「なに⁉」

「兄さん!」

「迎撃準備だ、構えろ!」

NFでもこんな事があった。

依頼を受けて一人のところを盗賊に襲われたりしたものだ。

目を凝らし、火の玉が来た方向を見ると、黒いフードを被った魔法師(ウィザード)の集団が。

「六人か……」

「仕留める?」

「ああ」

「…………二人共、なんか手慣れてない?」

弟が疑問に思っているようだが、まあ後だ。

「初心者狩り、ってところだな」

いつの時代でもいるものだ、こういう輩は。

魔法師たちは詠唱し、同時に魔法を放ってきた。

「二人共下がってろ」

「え?」

「アル?」

「こいつらは…………俺がやる」

久しぶりの対人戦、ちょっと血が騒ぐ。

高鳴る心臓を押さえつけ、背中の大剣を抜剣する。

「さぁ、行くぞ」

新たな相棒を右手に、敵集団に突撃する。

切断

ビュォオオオオ!

俺を止めようとする空気を斬り裂き、推し進んだ。

風魔法の障壁を突破し、その術師を貫く。

まず一人。

そして回転斬りで二人。

左手の貫手で一人。

最後に、荒々しく薙ぎ払って二人。

その間、およそ十二秒。

走り出してからは十七秒ってところか。


「速すぎるよ…………」

「圧倒的じゃないか…………」

「にひひ…………ん?」

「どうしたの?」


≫ノーマルスキル 《切断》は、エクストラスキル 《切断・改》へ進化しました。


――――進化?………早っ!


切断・改…………。


あまりにも早すぎる。

エクストラスキル、それはNFではユニークを除いて、最上位のスキルだった。

なのに、プレイして数時間で会得できるものなのだろうか…………。

「ねぇ、アル、これ何かな?」

「ん?」

「…………《雷魔法》」

メニューに記されたそれは、《魔法》。

俺達、魔術師(ウィザード)じゃないんだけど………。

三人が同じ属性魔法を持っているらしい。

「チュートリアル飛ばしたからなぁ…………」

試しにチュートリアル画面を開くと、簡単な説明文があった。

勇者の紋章

右手の甲に刻まれている勇者の証。

魔法を付与し、一度だけ無工程(ノーアクション)で発動できる。

念じることで発現。

「念じる…………」

―――出てこい…………。

仮想体の神経が総動員し、手の甲に紅の紋章が発現する。

赤い球と赤い棒の印。

それは幾千年伝承された、命の、魂の聖火。

「付与…………」

身体そのものに、魔法を刻む…………。

今使える《雷魔法》…………《雷剣(ギルブレイド)》を付与する。

アリッドは《雷砲(ギルガ)》を。

アリスは《雷突(ギルブラスト)》を。

「使ってみよう」

アリッドは詠唱を始める。

「えーっと…………『痺れろ、混濁の雷鳴を大砲に!――《雷砲(ギルガ)》!』」

手のひらから雷の弾が発射。

「おー、すっげ」

炎なら慣れてるけど、雷はな…………。

「じゃあ俺も」

背中の大剣を引き抜き、

『麻痺、破砕、落流、幻影。幻想の大剣…………《雷剣(ギルブレイド)》』

この世界でも、同じ感覚。身体の隅々まで広がる神経が、肉体に宿るあらゆる機能を呼び覚ます。

例えそれが、別世界になくとも。

俺の魂は、この感覚を知っている。

脳から放たれる信号が、クロノスを越え、この世界を変化させる―――。

空間に電気が迸り、それを形作っていく―――――、

大剣を投影した電気が六つ発現する。


合計七つの剣戟…………。

遥か過去に己が行った動作を、理が異なる世界で模倣する―――!

「―――――――――弐式七連光鏡(リ・セブンレインアーツ)」

鏡合わせの七連撃。

英雄王の剣術を、勇者の雷撃が超えていく――――――――――。

「おぉ!」


***


「すごいわね」

そう…………俺達は気付いていなかった。

俺達を監視する者たちがいたことを。

調教師(テイマー)のスキル、《視覚共有》で、木々に止まるカラスの眼から。

「この者たちは本当に今日始めたのですか?」

勇者教聖騎士団

それは《勇者教》の信者、その精鋭騎士(ナイト)で構成されたこの世界最強の戦闘集団だ。

勇者教の教義は、『アリアス様絶対主義』。

アリアスというのはこのゲームの一プレイヤー。

圧倒的なカリスマと強さで《神》と謳われている。

設定上の神より、見える最強の方が、人間は現実を理解できるのだ。

そして、ここにいるのは――――――、

「私が彼達を止めます。…………世界の終わりを、アリアス様に捧げるために」

そう言うのは、青い髪の青年

「いや、僕たち《聖光隊》がやるよ。手柄は渡さない」

「貴方達じゃ無理よ」

そう言い切ったのは、黒い短髪の少女。

聖騎士団長兼アリアス守護騎士第一席

《シズク》

元連合国騎士団筆頭騎士。

「あの少年は、NFから私を含めた四十六万人を救い出した英雄…………《黒き剣士》なのだから」

「あり得ません!」

「あんな奴が、現代の英雄だって言うのかい⁉」

「あの顔を忘れる訳がないでしょう。私が唯一、負けた相手だもの」

「シズク様が…………負けた⁉」

「ええ、彼は強いのです」

教祖、《アリアス》。天使、《セナ・クリスハイト》。

二人の脳内で、忌々しい記憶が蘇る。




それはアルタイル=アリエルがアリス=フリューレと結婚して、三日後の事だった。

「アル、起きてー」

「むにゃ、んにゃ…………」

「もう…………ふーっ……」

「ひぎゃあ⁉」

耳に風を感じた俺は勢いよく飛び起きる。

「アリス、勘弁してくれ…………」

「アルが起きないんだもん」

「それはごめん」

俺の家で一緒に暮らして二日目。

平和な生活を送っていた。

ピーッ、ピーッ、

家の中にその音が響く。

それはステータスプレートから。

「なんだなんだ…………」

机の上にあるそれを手に取ると、メッセージが届いていた。

「…………ん?」

「どうしたの?」

『本日正午、騎士団アースリア支部に来るべし。』

「…………あぁ?」

「騎士団?」

騎士団とは連合国…まあ、国単位でつくられた共同の軍隊だ。

「なんで騎士団が…………」

「…………勧誘だったりして」

「そんなまさか…………」

いや、前に似たようなことがあったような…………。

まあ、いいか。

どうせ行かなきゃだし。

朝食後、リビングでゆったりとしていた時だった。

ふと目を瞑っていると―――。

嫌な世界に入る。

血の海と、肉の大地で構成された世界。

それが何かはすぐに分かった。

それは―――――――――いや、今はいいか。

だが、妙に安心できる。

こんな地獄のような世界で落ち着くなんて俺もおかしくなったのかな?

そこにはアリスが、カインが、ディオンが、エイルが。

そして、金髪赤眼の英雄が。

英雄以外のみんなが笑って、俺に手を差し伸べていた。

…………ごめん。俺は、誰かを犠牲にする世界には行けない。

俺は、みんなで笑っていける世界をつくりたいだけなんだ。

無理かもしれない。夢物語だと笑われるかもしれない。

だけど、この夢は、確かな価値があるはずだ。

叶える価値が、目指す理由が。

この数年でモンスター、犯罪者、戦争、いろんなものを見てきた。

俺は、諦めない。

諦めたら、今まで出会ってきた人を裏切ることになる。

俺は、戦う。

平和な世界を叶えるため。

無限の矛盾を見たその先に、無限の希望があると信じて。

「俺は、こんな世界に至らせない!」

この世界にも、価値がある。

鮮血が舞う現状には、この力が必要なのかもしれない。

「力を貸してくれ」

アリスたちは光となって消え、代わりに無限とも思える数の刀剣が、その世界に突き刺さった。

乱立。剣の世界。

正に、戦いの世界。

「行くよー、アル」

「ん、ああ」

アリスに起こされ、俺達は騎士団に向かった。


***


「初めて来たな、騎士団」

「私は二回ぐらいあるよ」

「騎士…………というか天使に振り回されたことあるしな…………」

一年ちょっと前かな?

「なんか苦手なんだよな、世界に仕えるってのが」

神の加護関係なく集まった国々の集合体、連合国。

その戦闘集団が騎士団だ。

人類を守護する者たち、それが騎士。

自由の象徴である冒険者と対を成す、政権の象徴。

自由に憧れた身としては、苦手意識を持ってしまっている。

門番に内部へ案内され、団長室に到着する。

「あんたは…………」

見覚えのある顔が。

「天使…………!」

超迷惑の元凶、魔眼持ちの天使、セナ。

「お久しぶりです。アルタイルさん」

「…………あれ?そんなキャラだっけ?」

「こちらが素です」

あ、キャラ付けなのね。

「いいかしら」

そう切り出したのは、短髪黒髪の少女。

めっちゃ目が鋭い。クール系かな?

「私は騎士団の団長及び筆頭騎士の《シズク》。よろしく、《黒き剣士》」

「…………アルタイル=アリエルです」

「アリス=アリエルです」

「…………貴方達、どういう関係?」

「「え?」」

騎士の問いに思わず戸惑う。

「どういうと言われても…………」

「夫婦としか…………」

「「…………」」

天使と騎士は頭を抱えた。

「「?」」

「実は、私たちと《黒き剣士》を政略結婚させようとしている者たちが多いのよ」

「…………はぁ⁉」

―――イミガワカラナイ!

「なんでそんな⁉」

「貴方、自分の評価を分かっているの?」

「へ?」

「《聖騎士》ディオン=クリンスを超える最強の冒険者として重鎮から注目されています」

「うっそぉ…………」

知らなかった。

「…………」

アリスが静かに激怒している。

怖い。こんなアリスを俺は今まで見たことがない。

「…………私は正直、どちらでも構わないわ。結婚しても何か変わるわけでもないのだから」

さらっと騎士団長から漏れ出た禁句(デスワード)に、アリスが超速で反応する。

「アルは絶対渡さない!」

「あら、冒険者が一夫多妻っていうのはよくあると思うけど」

「まあまあシズク、アリス様の言葉もごもっともです」

「…………」

アリスがまるで犬のようにガルガル…………と唸っている。

眼も正に野生。

ワンチャンあると信じて――

「あのぅ、それってお断り出来――――――」

「無理だと思いますよ?」

「無理じゃないかしら」

デスヨネー…………

王族の命令って断れるやつじゃないしなー…………。

え?マジでどうする?

この新婚生活真っ只中で修羅場は勘弁、マジで勘弁!

「じゃあ、決闘とかでどうにかなりませんでしょうか!」

我ながら何を言っているのだろうか。

「いいわよ」

「へっ?」

「決闘で叩き潰して、お婿にしてあげる」

コッエ――――ッ!

ここは強気に

「ああ、かかってこい。騎士団長様」

「あらあら、それでは私もやってみましょうか」

天使⁉

「あんた戦闘能力あるのかよ?」

「いいえ、しかしバフをかけることぐらいはできます」

「わ――」

アリスが言う前に、俺が静止する。

「ごめん、アリス。ここは俺が終わらせる。だから、見守ってくれ」

「…………分かった。けど、勝ってね」

俺は安心させるためにニカッと笑い

「ああ、任せろ」




「制限なしでいいわね?」

「ああ」

カードから音声が流れる。

3、2、1、GO!

「悪いが手加減はなしだ」

俺は闘気を解放し、右手のナイトプレートに纏わせる。

「―――――竜牙餐喰(ドラゴンイーター)!」

竜技(ドラグシリーズ)の基本技。

単純故に強力な必殺。

「波動剣砲(ウェーブブラスト)!」

騎士の細剣から放たれる力の波。

それは竜と衝突し、相殺。

《明るい未来》

あの時と同じ光が広がる。

セナの心象転写だ。

《希望》の力は、シズクの集結し、その体を最大強化する。

「マジかよ…………」

これはちょっとキツイかも―――、………仕方ない。

俺も、ユニークスキルを使わせてもらう!

英雄之炎・解!

火球生成

左右に三つずつ。

合計六つの火球を生成する。

―――フレイムフルバースト!

火球からそれぞれ熱線を掃射。

その仕組みは二重構造火球の内側で炎を螺旋状に回転させることで外側の炎を打ち破り、指向性を持たせて放つという、制御が難しいシステムになっている。

何故こんなことが出来るかと言うと、《エクリプス》の発動が可能になったからだ。

集中状態と神経伝達速度上昇により発現する状態。

この時、脳が一度に受け入れる情報量の上限が拡大され、瞬間把握能力がおよそ数倍になる。

「そこだ!」

シズクの動く先を予測し、そのルートを先に潰す!

「…………厄介ね…………なら私も」

―――エクリプス

「なっ…………あいつも…………⁉」

エクリプス発動中は目の色が変化する。

俺なら赤。

奴は…………水色。

「うおおおおッ!」

「せいっ‼」

互いの剣戟が衝突する。

火花が止まって見える程、俺達の脳が加速する。

「…………せあっ!」

片手剣四連撃、《エクシア》

――クソッ…………動きにくい…………!

他人の心象領域に侵入した場合、使用者が許可した者以外は、能力を制限される。

やってやる…………!

「弱者が覚悟を決めたのだ、強者に敗れる筋合いはない…………!」

心象転写

「ソード・オア・ザ―――――――」

「させないわよ」

細剣が顔めがけて飛んでくる。

「チィッ…………」

速度で劣るこの状況で詠唱するのは命取りか…………どうする…………。

―――そうだ。

「力を貸してくれ、返事は聞かない!」

英雄憑依、モデル・カイン!

「飛天残影…………暴風!」

無数に設置した飛天を障壁にする

「陽炎!」

障壁の穴を埋め、斬撃の繭を創り出す。

「…………ふーっ」

ナイトプレートとベールリオンを地面に突き刺し、両眼を閉じる。

「…………世界は、血肉で出来ている。大地は肉で、海は赤血。戦火の炎が広がり、燃える命。しかし、この世から骸は消えず。数多の真理は、天空にはなく。今歩く、この地に印されていた。血肉を踏み、同胞を乗り越える。世界の真理は、この体の中。この地に張り巡らされし願い、それは血肉の穢れを祓う。ただ、この世に希望があるのなら、願おう。――――――――

――――――この世界は、無限の希望で出来ていた」

《無限之希望(インフィニテッド・キングダム)》

斬撃が消え去り、《あの世界》が顕現する。

血の海、肉の大地。

人類の戦いの世界だ。

「さあ…………行くぞ。騎士団長…………希望への願いは充分か?」

「舐めないで!」

数十M離れた地点から、シズクが疾走してくる。

「…………」

無言で手を払うと、足元の血がナイトプレート、ベールリオンの形をとり、浮遊する。

オリジナルの二本を両手に握り、数十本の模倣品を射出する。

「くっ…………!」

シズクは巧みに模倣品を叩き落としていく。

だが、この世界はただ剣を模倣するだけの世界じゃないぞ!

「英雄(ソウル)…………装填(オン)」

その短い詠唱で世界の機能が動き出す。

血肉が仮初の形を成していく。

彼らが生きて経験した人生を蓄積し、彼らの可能性を模倣し、彼らが継承した技を盗作する。

「英雄(セット)、顕現(オン)」

アリス、ディオン、カイン、クラデオル、エイルの贋作が生成され、それぞれ武器を取った。

「なんて力なの…………⁉」

「大したものじゃないさ。ここにいるのは全て偽物。意識のない贋作だ。だが、その贋作を同時に操作できるぐらいには、戦闘勘はある!」

無限の刀剣を生成、天からそれを降らせる。

今までに見てきた英雄の模倣品。

全てが自力じゃない。

皆の贋作、劣化品。

それが、俺だ。

ギルガメッシュ、お前とは違うんだよ…………だけど!自分を見失うほど、俺は落ちぶれちゃいない!

女神を殺した英雄の面汚し、黒き剣士と呼ばれた俺はただ一人。

―――――俺だ!

「くっ…………まさか一冒険者にこれを使うことになるなんて…………」

そう言ってシズクは、亜空間から一本の剣を取り出す。

「なんだ…………⁉」

黄金の持ち手。深紅の模様が入った紺色の刀身。

―――刺剣みたいだ…………だが、何か…………。

「この剣は、神が鍛えた《神域武装(ゴッツウェポン)》…………、空間を穿つ波動剣…………元は名も無かったそうだけど、私はこう呼んでいるわ。《断界剣ブラッドエア》」

その名に、記憶が刺激される。

「ああ、そうか…………ゼウスめ、あれを模倣したのか。…………ククッ、神が人間の模倣品をつくるなど、笑いが止まらんわ…………なあ、《クリムゾン・エア》!」

始まりの英雄王が再び、目を覚ます。


「さあ、行くぞ贋作」

英雄王はニヤリと笑い、神威を召喚する。

「飛天」

刀身に飛天を無数に纏う。

水色の斬撃が帯のように宙を舞っている。

合計弾数は十六発。

「永久之神(アザリート)」

神威の真名解放。

今までの神威は、名を封じた状態だったのだ。

そして永久之神は、クリムゾン・エアが長い年月で世界に鍛え上げられた姿だ。

神一人より世界全ての方が情報量、権限は上。

それを受け続けた武装は、《神域級(ゴッツ)》を超えた、《超越級(オーバー)》となった。

「永久之神(アザリート)よ、初披露にしては良い相手だ。神の贋作を打ちのめすぞ」

「…………気配が変わった…………加減出来なさそう…………ね!」

シズクはその剣を振るう。

その刃からは空間を消す風の刃が。

「ふん」

ギルガメッシュは冷静に防ぎ切った。

同質の、遥か上の刃で。

「風刃起動(セット)、解(ザ)、七連光鏡(セブンレイン)」

七つの斬撃が、様々な方向からシズクに迫る。

通常の七連光鏡が、一方向を狙って放たれる闘気の同時七連撃なのに対し、『解、七連光鏡』は、世界の空間を裂く修正の風刃が檻のように囲う。

一点突破。

波動砲をその点に直撃させることで檻を打ち破った。

「私だって、負けられないのよ…………!」

騎士は、最強でなければならない。

負けてはならない。

「…………ッ、」

シズクは世界を駆け回る。

その血の世界を天女のように舞った。

「風刃起動(セット)、導閃之光(ロードオブファンタジア)」

一本の風刃が、天を走るシズクを追尾した。

「――――…………はぁああああああああああ!」

速度×重さ×繊細さ×攻撃の方向=技の強さ

速度で上回るシズクの風刃が、ギルガメッシュの風刃を相殺した。

「ほう、やるではないか。ならばオレも少しばかり本気を出そう」

永久之神(アザリート)の風刃が、刀身に収められ、エネルギーが狂ったスピードで膨れ上がる。

(やられる…………!)

シズクも風刃を刃に宿し、天に掲げた。

『神は語る。天は紅く地は黒く。創生の一夜は命の育たぬ地獄と。地獄と地獄を裂くその大地を打ち破るため、この刃を振るう。世を鬼が蔓延る獄に!』

シズクが絶望の詠唱なら、

『理は語る。地は碧く天は蒼く。創生の夜明けは産声の祭り時と。天と地を別つその差を打ち砕く。全ての意志を同じ高さに。その為にこの一撃を放つ。神が答えぬならば人が、草が、花が、獣が答えよ。明日を希望に導く全ての心よ!』

ギルガメッシュは希望の詠唱を。

『…………っ、《血肉に餓えし、神の獄(デウス・エンリル)》!』

『《解。天を喰らい、世を統べる創生前夜(ビルガメス・アヌ)》!』

指向性を持った世界の断層。

それが小さな風をかき消し、シズクとセナを飲み込んだ。

「何なのよ、貴方――………………」

意識がある内に呟いたシズクの言葉に、英雄王が答えた。

「なに、ただの英雄だ」

シズクとセナは笑い

「何よ、それ…………」

「何ですか、それ…………」

と言った。

「…………あれ?…………ギルガメッシュ―!」

意識の戻った俺は、ギルガメッシュに怒った。


◇◇◇


「…………あれは怖かったわ…………」

「ええ…………そうですねシズク…………」

「そこまで…………」

アルタイルを恐れる者が、また多く増えた。

「ふいーっ…………」

「楽しかったー!」

「…………久しぶりの感覚だったね」

あれから二時間、俺達はダイブ切断して元の世界に戻ってきた。

あの世界のシステムはNFとまったくと言っていいほど同じだった。

―――恐らく、《闘気》も…………。

闘気は簡単に言えばHPとは違い《存在》の根幹となるエネルギーを放出、圧縮、武装することを指す。

剣等、無機物の武具に纏わせその構造を穴埋めし強化する闘気 《錬武》

身体を内側から強化する闘気絶体

精神力そのものである〝気〟と融合させ、対象を威圧することができる闘気 《心放》

武具と闘気を同調させ、その真価を引き出す技術真相解放

そして歴代勇者と俺が扱う《竜技(ドラグシリーズ)》は、《錬武》《絶体》《心放》と、勇者が放つことが出来る力 《紫電》を融合させ、竜の形で放つ技だ。

…………まあ、よほどの猛者が出てくるまで使うつもりはないが。

「「あっ」」

アリスと優也が思い出した、という風に止まる。

「私、お母さまに買い物を手伝うように言われているのでした」

「僕もデートの約束が…………」

「行ってらー」

ドタバタと二人は出掛けていく。

「はぁーっ」

また、か。

あんな目にあった癖に、新しい世界を楽しんでやがる。

重症、その一言に尽きる。

思えば俺がギルガメッシュとしてゲームクリアできたのも、重度のゲーム廃人だったからに他ならない。

俺は、自身のどうしようもない性分が多くの人を救ったことに違和感を持っている。

その《俺》は俺ではないのに、俺と同じ心をもった《俺》だった。

意味が分からないと思われるだろうが、俺の中では星川鉄也と、ギルガメッシュ、アルタイル=アリエルは別の一個人だと思っているのだ。

そもそも、ギルガメッシュというのは古代ウルクの王で、本物の英雄王なのだ。

俺は、その名を名乗ったに過ぎない。

しかし、NFの伝説ではギルガメッシュというのは史実と同じく《始まりの英雄王》と呼ばれていた。

皮肉。まさに皮肉。

贋作が、本物と同じ異名で呼ばれるなんて…………本物への侮辱にもほどがある。

「…………俺は…………英雄なんかじゃない…………」

唇を噛み締める。

ただ力を持ってしまった凡夫、それが俺だ。

――――俺は、誰なのだろう。

星川鉄也?

アルタイル=アリエル?

ギルガメッシュ?

それとも――――――――――

軽い眠りに落ちた。

―――竜?

見た目は西洋のドラゴンそのものだが、何か違う。

圧倒的な、現実感。

まるで今、目の前にいるかのように。

まるで、この目で昔、見たことがあるかのように。

まるで、自分が自分だと理解できるように。

そのドラゴンは、徐々に遠くなっていった。

―――待ってくれ、お前は――――!

手が重い。

飛び立つドラゴンに向けて伸ばした腕が上がらない。

「待って―――」

(夢、か…………)

ピンポーン

チャイム?

誰か帰って来たのか?

「ちょっと待ってろー」

玄関に向かい、ドアを開けた。

「久しぶりね」

「お久しぶりです」

「…………なんで、お前らが…………」

騎士団長と教祖様が、そこにいた。


ブリタニア王国・国防機構大隊准将。北部第一戦団総隊長。

エイル=ローグ

過去、最悪の作戦と呼ばれた《666号作戦》で《アウェイキング》を起動した。

彼が搭乗した戦闘機 《セルウス》のあらゆるデータを基に彼専用として開発された機体。

新旧連結式熱核融合炉(エーテルニュークリアリアクター)を使用することでセルウスの一番の問題であった四時間のみの活動限界を撤廃し、新武装の導入も実現できた。

元はエイルが搭乗していたセルウスPS-62-75号機をチューンナップした《アウェイキングセルウス》が素体となっている。

アウェイキングセルウスは神速級のスピードを発揮できるが、各駆動系にかかる負担が大きく、連続戦闘に対応できないとして、更なる改造を行った。

新素材、《魔鋼崩物質(プラズママテリアル)》を使用することで速度をそのままに連続使用期間が大幅に拡張。(魔鋼崩物質は劣化とともにプラズマを放射し、周囲に漂うエーテルと電力を吸収し、自己保管程度の再生を可能にするという性質を持つ)

しかし、短時間でも一般パイロットでは操作が辛かったが、長時間駆動を求められるこの機体は、結果的に量産計画を廃止。エイル=ローグ専用機、一機のみが建設された。

(エイルはどうしてるかなー)

こうでも考えていなければ気がおかしくなりそうだ。

何故なら、初めて会った同世代の女子が、家事をしてくれているからだ。

「出来たわよ」

「…………ワカリマシタ」

料理を担当してくれたシズクが、玉子焼き定食を机に並べる。

三人分。

洗濯担当のセナが、ベランダから入ってくる。

「雫、すいませんね。ご飯をつくってもらって」

「いえ」

「アノ、ナンデコウナッタ?」

カタコトで問うと、

「セナさんの情報網、舐めない方がいいわよ」

「具体的なことは聞かない方がよろしいかと」 

「ハイっ」

怖っ…………―――

「それじゃあ、どうしてこうなった?」

「あの時のお礼です」

「お礼?」

「犯罪者クランから助けていただいた時の」

「ああ、あれね…………じゃあ騎士さんは?」

「私はあの大英雄の素顔を見に来ただけよ。まあ、あんまりあの時と変わっていないようだけれど」

「うぐっ、けどそれを言ったら二人だってまったく一緒じゃないか」

「確かに私は名前も一致しているしね」

「どんな確率だよ…………⁉」

そんなことあり得るのか…………。

「今日来たのは、お願いがあったのよ」

「?」

「私たちのギルドに入ってほしいの」

「…………はぁ?」

「理由は、私たちがゲームクリアを目指しているからです」

「!」

いや、当然か。

攻略組、というやつなのだろう。

NFの迷宮組のような感じか。

「私たちは最強のギルドと言われているけど、ライバルがいるのよ」

「ライバル」

「…………ブリタニアというギルド」

「⁉」

「偶然かもしれないけれど、貴方が討伐した女神の支配領域が、ブリタニア王国だったわよね?そのギルドマスターも、エイルと名乗っているの」

エイル―――⁉

間違いない、エイル=ローグだ。

「…………それで、どうしろと?」

「ギルド同士の抗争阻止、といった感じね」

「阻止、だけか?」

「許されるのでしたら、我がギルドに―――」

「それは断る」

「でしょう?ですので、こう頼んでいるわけです」

「…………どちらかにつくことはないと思うが、何故俺に頼む?」

「最強のプレイヤーだから」

「ですね」

「…………そうかい…………いいだろう。その依頼、受けたわまった」

「ありがとう」

「ありがとうございます!」

「さ、帰ってくれ。アリスが帰ってきたら…………」

「あら?ずっと後ろにいるわよ?」

「え?」

――――うわあああああ⁉

「アル…………どういうことかな?…………かな?」

「いえっ、決して俺から招いたわけではなくて、いきなり家に来たと言うか!」

「ふーん…………貴女たち、アルは渡しませんからね」

「…………戸籍がない人よりよっぽどお嫁としてやれると思うけど?」

「同意見です」

「うぐっ…………アルぅ!」

「はいっ!」

「アルは誰がいいの⁉」

―――――どうしてこうなるんだぁああああああ!


――――どうすればいいんだ?

――――どう答えるのが正解なの?

俺を見つめるアリス。

コーヒーを飲みながらも、チラチラとこちらを見つめるシズク。

顔は笑っているが目が笑っていないセナ。

ここにカインがいれば、俺は泣きついていただろう。

あいつは紳士だからな。女心を分かっているだろう。だけど、俺は分からない。

分かっている奴の方が少ないのではないか?

…………今俺にキレた奴がいたら、そいつはよほどの幸せ者だな。

選択をしないでいいのだから。

彼女たちを傷つけないのだから。

…………最近、俺の精神がおかしくなってきたと思う。

アルタイル=アリエルとの境界が、徐々に消えていっていると実感する。

――――俺は、俺だ。

「アル!」

「…………え?」

「聞いていますか⁉」

「え、ああ、うん…………」

「まったく。…………だいたい、お二人がアルに好意を持っているのが疑問です。あの決闘の後、いったい何があったのですか?」

あの後…………?

どうなったっけ…?

「私から話すわ」

シズクの口からあの後が語られる。


***


決闘後、私が目を覚ますと

「…………」

「あ、起きたか」

医務室。私は彼に運ばれた。

「…………私は、負けたのね」

「俺だけに、じゃないさ」

「?」

「…………始まりの英雄王、その伝説は知っているだろ?」

…?

「え、ええ……ギルガメッシュ王の英雄譚でしょう?騎士団にも彼に憧れて入団した者は少なくないわ」

「そう。…………お前達二人を倒した俺は、俺じゃない」

「?」

「あれは、ギルガメッシュだ」

「…………?」

何を言っている、そう思った。

「…………俺には、二つの魂がある。アルタイル=アリエルの心と、…………ギルガメッシュの心が」

「…………何を…………言っているの………?」

「……最初に完全顕現したのは半年前の解放戦争最終戦だった。…あいつは、俺の心に迷いがあった時に出てきて、圧倒的な力で女神を追い詰めた」

「女神を……?」

「ああ、そうだ。奴の力は神を超えている。それは君も実感しただろう?」

「…………」

(…確かに、後半の彼はまるで別人のようだった。エクリプスの第三段階にしても言動が違い過ぎるし、髪色も黄金に……信じない方がどうかしてるわね)

「信じるわ。貴方の言葉」

「…………そっか。ありがとう…このことはエイル=ローグ=ペンドラゴン以外には君しか知らない。ほとぼりが冷めるまで、秘密にしておいてくれないか?」

「…………ええ、分かったわ」

(女神を殺した《黒》の英雄。どんな悪役かと思っていたけど、勘違いだったようね)

それにむしろ、私は彼に好印象を持っている。

ああ、こんな気持ちを抱いたのはいつ以来だろう。

というか、こんな気持ちを抱いたことがあっただろうか。

……ない。

生まれた直後に親から捨てられ、教会で育ち、騎士団長になるまで、女の子らしい青春など碌にした記憶がない。

覚えているのは、勉強と訓練の日々。

あの日、王族から結婚相手として提示された彼を私は今日、本当の意味で知った。

彼の目は、慈しむ心の後ろに後悔が見えた。

………彼の戦績は凄まじい。

何に後悔しているのかはわからない。

もしかしたら、人との関わり?

聞いたことがある。《神の泣き声》という事件のことを。

確か、未確認モンスターの襲撃でクランが一つ壊滅したという話だった。

そのモンスター、《ホワイトディザスター》を討伐したのが、彼だったはずだ。

その後、階層ボスをほぼ単騎で討伐した直後にディオン=クリンスと決闘を行った。

「…………色々あったのね。貴方も」

「…………ああ。ありすぎたさ………君も、だろうけど」

「…………正解」

「勘はいいんだ、俺」

「…………私、貴方と結婚してもいいわ」

「…………それは、君の意思か?」

「ええ。私は貴方を手に入れて見せるわ。………彼女に勝ってね」

「…………今のをアリスに聞かせたらメチャクチャ怒るだろうな」

「…………きっとね」



「私はその時決意したのよ。貴女に勝って、この人を夫にするって」

「…………ほぅ………いい度胸ではありませんか」

(アリス⁉目が笑ってない!)

「私は好意というより、興味の方が強かったのですが………」

天使のその一言でアリスは頂点を超える。シズクと目を合わせ、

「…………負けませんからね」

「こちらのセリフよ」

「というよりアル!」

アリスがこっちに振り向く。

「はい?」

「今の話を聞く限り、アルも満更ではなさそうではありませんか!私と言うものがありながら………!」

「えっ、ええ⁉」

なに⁉

「私と初めて会った頃は中々話してくれなかったのに!」

「いや、あの頃は俺も《神々に嫌われた男》とか言われてて曇ってたんだよ!それに折角勝っても入団できなかったし、ちょっと第一印象怖かったし!」

俺の反論にアリスは顔を赤くして

「怖いってなに⁉私そんな印象だったの⁉」

「だって、攻略の………鬼だったし………それに男ぐらいいるかと………」

「もう!その名前を言わないで!アルだって、あの侍の女の子と仲良かったらしいじゃない!」

「いや、あの子は―――…………」

シズクまでこっちを見て

「…………どういうことかしら?」

と圧をかける。

「だーかーらー、あの子は依頼の時に仲良くなっただけだって!」

因みに侍の女の子というのは《シーナ=アインハルト》のことだ。

あの後手紙のやり取りぐらいはしていたが、その程度の付き合いだ。

「結婚式にも呼ぶつもりだったらしいし!」

「そりゃ、仲いい人は誘うだろう」

「むぅ………」

アリスは顔をぷくっと膨らませる。

「…………それで、私とシズクさん、どっちがいいのですか」

「ちょっ」

今いい感じに逸らそうとしてたのに!

「確かに、今聞いておきたいわね」

シズクまで………。

「…………俺は、人の優劣を決めれるほどできてない。だけど、いつかは決めて見せる!………多分」

「…………そこで迷わず私の名前を言わないのがアルらしいと言えばらしいのですが、多少なりとモヤッとしますよ、それ」

「そうね………けど、可能性はあるわ。私にも、ね。………そういえば名乗ってなかったわ。私は白雪雫。よろしく」

「………星川鉄也です………よろしく」

「ええ!」

………眩しい笑顔だなぁ。

アリスの目が怖いけど。


いつかは宣言をした俺は最低だと思う。

うん、自分でもそう思う。

ごめん。

「僕を忘れてもらっては困るなぁ」

「え――」

「エンキドゥさん!」

俺のスマホに映るのはあの世界で出会った少女、エンキドゥだ。

「…………どちら様?」

シズクの問いに

「ギルガメッシュ時代に一緒に戦ったAIだよ」

「まさか英雄の証拠品まで出てくるとはね………」

「どういうことだよ」

「あの世界でエンキドゥと名付けられた人間は2週間で死ぬの。だからこうしている時点で証明になっているのよ」

「へー、そんな忌み名みたいな感じなんだなー」

「失礼しちゃうよね、まったく」

ぷんぷんと怒るエンキドゥは、とても優秀な相棒だった。

ギルガメッシュ時代ではよく助けられたものだ。

「というか、こんな有名な話を知らないなんて、あなたどういう暮らしをしてたのよ」

「ん?七歳の時に母さんが死んで、10歳の時に爺ちゃんと父さんが死んで………十四歳まで一人で森に暮らしてたな」

「…………色々あったのね」

「ああ」

「はいちょっとストーップ」

アリスが静止する。

止められたシズクがちょっとムスッとしている。

エンキドゥはつい一週間前にデータ解凍が終わったのだ。

流石にデータ量がとんでもなかったよ。

「あ、そういえば旦那様(マスター)、僕もそろそろMMOに入れそうだよ」

「お、それじゃあ一緒に行くか」

「うん!」

「そういえば、貴方って何者なの?」

「?」

シズクの問いに戸惑う。

「何者って?」

「ほら、貴方の両親の事とか」

「ああ、俺の父さんと爺ちゃんは《勇者》だよ」

「えっ?」

「で、母さんは父さんのパーティーメンバーで………」

「ちょっと待って。貴方、《勇者》の息子なの?」

「ああ」

「あのコスモスター親子の?」

「うん」

「…………道理であの強さ………納得がいったわ。………けど、もう一つ」

「なんだよ」

「ギルガメッシュ、なんで二重人格みたいになっていたのよ」

「あー、それは多分………」

「僕の仕組みだね」

そう言ったのはエンキドゥ。

「仕組み?」

「そ。旦那様(マスター)が覚醒したら戦いのサポートが出来るように神威にギルガメシュの記憶を移しておいたのさ」

「移すて」

「それが覚醒と同時に旦那様(マスター)と同化して記憶が徐々に蘇ったんだと思うよ?」

「…………そうなの?」

俺はその長い記憶の事だと気が付き

「ああ、ギルガメシュの記憶ならある。だけど、ゼウス討伐辺りから記憶があやふやなんだよな………」

「それは多分、ギルガメシュ本人がそうしたんだろうね」

「?」

「あの頃の君は頑固でね。死ぬ前に自分が伝説にならないように必死に隠蔽しようとしていたんだけど、誰も我慢できずに後世に伝える物語を描いたのさ」

「アルらしいですね」

「ええ」

「そうですね」

「えー…………」

俺そんなに頑固かなー?

「けど、完全顕現出来るようになってからは面白そうな時に出てきてたみたいだけどね」

「面白い状況じゃなかったぞ…………」

少なくとも俺にとっては。

「気がついたら目の前で倒れてる人がいるんだぞ、ホラーだろ」

「あはは………」


しばらく話していると、母さんと優也が帰って来た。

アリスは買い物途中何かを察して猛ダッシュで帰ってきたそうだ。

「兄さん………」

「あらあら~」

「…………なんだよ」

優也が「うわ~」という目で俺を見ている。

「兄さん、アリスさんに飽き足らず………」

「………返す言葉もない」

シズクは時計を見て

「さて、そろそろ帰りましょうか」

「ええ」

すると母さんが笑って

「あら、もう暗いから泊っていいのよ?」と言った。

「「…………んあ⁉」」

流石双子。俺と優也の反応は全く同じだった。

「いいんですか⁉」

「お願いします!」

「…………」ポカーン。

アリスは魂(データ)が口から飛び出そうになっている。

そうして、お泊り会が始まった。

「夕食を作りましょうか」

「あ、私手伝います」

「私も」

「お母さま、私も」

「はいはい、ありがとうね~」

俺と優也はリビングでゴロゴロしている。

「兄さんはモテモテだね~」

「お前だって、他の女子いたじゃん」

「まあ、告白してくる子はいたけど、やっぱり麗香ちゃんが一番だよー」

「………そっか」

「兄さんも早く選びなよ」

「…………出来たら苦労しねーんだよ………」

「それはそうだね」

「………ぷっ」

「………ふっ」

二人で静かに笑った。

NF。あの世界の家族(アリエル)は、間違いなく本物だった。

だけど、星川鉄也(俺)の家族は、ここにいる。

「できたわよー」

「「はーい」」

二人でテーブルに向かうと、シズクとアリスが睨み合っていた。

「…………どうした?」

「別に………」

「ただどこに座るか話し合っているだけよ………」

話し合いって火花が散るもんだっけ?

それ、牽制とかバチバチにやり合ってる時になるもんじゃない?

まあ、いいけど。

俺がいつもの席に座ると、

ガシッ。

二人が俺の隣の席を掴んだ。

「ここは私の席だけど………?」

「いいえ、ここは譲ってもらうわよ………」

「あ」

優也が思いつき、席を立った。

「兄さん、ここ座って」

「?」

縦長のテーブルの辺の長さが短い席に座ると、アリスとシズクは俺の席、裕也の席にそれぞれ座った。

「おー、いいな。優也」

「頭を使わないと」

「へいへい」

アリスとシズクは満足そうな笑みを浮かべている。

さて、全員着席っと。

今日の晩飯は唐揚げか。

「「「「「いただきまーす!」」」」」

「はい、あーん」

「こっちも、ね」

「うっ………はい」

シズクとアリスにあーんしてもらう。

………もう、諦めよう。

俺は生きた心地がしなかった。

そしてこの後、更なる事態が―――。

「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」

「はーっ」

終わったー。何か、今日は疲れたなー。まあ、当たり前か。

新世界への移動と修羅場?を一日で経験したのだから。

「お風呂そろそろ湧くわよー」

「ほーい」

………ん?

なんでお二人 (アリスとシズク)こちらを見ているんですかねー!




うちの風呂はかなり大きく、大浴場が二つある。

俺はコソコソと男湯に入った。

「ふいー」

やっぱ一人でゆっくり入る風呂はいいわー。

「はーっ………」

風呂はあっちでもあったけど、こっちとなんか違うんだよなー。

………それにしても、ギルガメッシュの記憶、か。

ゼウス討伐以降の記憶が思い出せない。

もしかして、何か重大なことを隠しているんじゃ………。

《英雄之炎》を生み出したのは、ギルガメッシュなんじゃないか?

エンキドゥは、神威にギルガメシュをの記憶を宿したと言っていた。

なら記憶と同時に解放されたそれも、ギルガメシュの―――、

………いや、これは考えなくていいか。

どうせHFでは使えないだろうし。

「…………はぁ………」


◇◇◇


女湯にて。

「お二人は何故鉄也さんをお好きになったのですか?」

と、天使――セナ――志原結衣――が聞いた。

それにまずアリスが答える。

「私はねー、あの時かなー」

「あの時?」

「七十六層のボス戦で。アルがボロボロになりながら一人で戦っていたんだけど、もう我慢できない!ってボス部屋に飛び込んで………そのまま抱き着いちゃった」

「だっ…………」

――抱きついた―――、

「そう言う貴方こそどうなのよ」

結衣は恥ずかしい、と思いながら

「私は、助けてもらったのもありますが、一目惚れ、です………」

「へーっ!」

「一目惚れ?」

「その………初めてご対面した時に、そのお顔に………」

「あらー」

そう、この女は初対面で魔眼を使ってきたのである。

どう思う?

初めまして、はい洗脳って

おかしいよねー。

おかしいに決まってるだろ。

「…………私は、」

最後にシズクが話し出す。

「今まで青春なんて経験したことがなかったのに、あの人と話していると、とっても楽しく思えたの」

「だってシズク、暇を見つけては彼に会いに行っていましたよね」

「…………はい」

「あの時はびっくりしたなー、結婚早々不倫かと思いましたよ」

「………ふふっ」

「…………彼って、不思議な人よね」

シズクがそう言った。

「普通、決闘してまで王族に逆らったりする?私だってある程度の支持はあったと思うのだけれど」

「しませんね」

「ええ、普通なら受け入れます。………普通なら」

「アルは最初から変でしたからね。試験官を倒すなんて聞いたことがありません」

「あらま」

「お強いこと」

その後三十分ほど話し続け、三人は風呂から上がった。

「あれ、アルは?」

「兄さんならもう部屋に上がりましたよ、「疲れた」って言ってました」

「そう………ありがと!」

「おやすみなさい」

「おやすみ」

「…………兄さん。ハーレムじゃん」

ポツリと、優也が漏らした。


「………」

俺は自分の部屋のベッドでゴロゴロしていた。

このベッドはアリスが来てから二人で寝ている。

………何も言うな。

俺も思うことはある。

「…………はぁ」

最近溜息増えたかなー?

まあ、精神年齢三十近いからなー。

――ガチャ

ドアが開いた。アリスかな?

「起きてる?」

そう言ったのは予想外にもシズクだった。

「お、おう………」

戸惑いながらも答える。

「失礼するわよ」

シズクの後にアリスと結衣が入ってくる。

「おいおいどうした………」

一気に入ってきて流石に驚く。

「え、四人で寝るからだけど?」

「…………?」

聞き間違いか?

俺の脳が勝手に変換したのか?

四人で寝るって聞こえたような………。

「よっと」

壁からアリス、俺、シズク、結衣がベッドに寝転ぶ。

………クイーンでよかった。

少し経った。

………寝れねー。

俺の横にアリス、シズク、結衣が寝ている。

………どうしてこうなったよ。

「ねぇ」

「?」

俺に声をかけたのはシズクだった。

「どうしたんだ?」

「…………いいえ、ただ起きてるかと思って」

「寝れないよ。この状況」

「私もよ」

シズクは手を伸ばし、俺を抱き寄せた。

「ちょっ、おま………」

「ごめんなさい、けど、こうしていたいの」

「…………はぁ」

シズクは俺の顔を自身の胸に沈めた。

………妙な安心感だ。………眠たく………なって………

「くー、くー」

「………おやすみなさい。アナタ」

(………妙にしっくりくるわね)


次の朝。

朝食後、二人は帰っていった。

そして俺は一人でダイブする。

今日は土曜だから一日中入れるな。

「ゲート・オープン」


「…………」

最後にいた平野に降り立つ。

「エンキドゥ、いるか?」

《YES、旦那様(マスター)》

エンキドゥは仮想体(アバター)でのダイブは無理だったが、俺の意識とリンクすることで《サポートAI》としてダイブしている。

その時、システムメッセージが鳴った。


≫極点権能(マキシマムスキル)、《神之造物(エンキドゥ)》を完全習得(コンプリート)。続いて、固有権能(ユニークスキル)《英雄之炎(リオネルフレイム)》、《紫電(シデン)》を完全習得。


権能と書いて《スキル》と読むらしい。

因みに他のは平等権能(ノーマルスキル)、希少権能(エクストラスキル)。

………使えないと思っていたのに、《英雄之炎》と《紫電》を身に着けてしまった。

エンキドゥがギルガメッシュの記憶に干渉したのか?

極点権能というのはこの世界でのスキルの頂点のようだ。

この世界のスキルというのは思い、願いなどを理に適合させて《概念》とするもの。


≫極点権能 《神之造物(エンキドゥ)》を《世の理》と同機。閲覧権限と自己改造権限を付与します。


《僕は旦那様(マスター)のスキルになったみたいだ。検索はお任せあれ》

「頼もしいな」


≫条件を達成しました。平等権能 《闘気》、希少権能 《切断・改》、固有権能二刀流(ニトウリュウ)《英雄之炎(リオネルフレイム)》《紫電(シデン)》を統合し、極点権能 《真之王道(ギルガメッシュ)》を完全習得(コンプリート)。


なんと。エンキドゥだけでなくギルガメッシュまでスキルになってしまった。

真之王道とは、実にギルガメッシュらしい名だ。

真之王道と神之造物の能力はこんな感じ

《真之王道(ギルガメッシュ)》

暴君(スタンピード)

身体能力を五百倍に強化する。

「二刀流剣技」

《二刀流剣技》を扱える。

「英雄之聖火(リオネルファイア)」 (これは英雄之炎を最適化したもの)

魂の炎を具現化、操作できる。

「竜技竜剣(ドラグシリーズ)」

闘気と紫電で竜の力を模倣する。

「闘気操作」

自身の存在の根源を操る。

「紫電解放」

力の電気を解き放つ。

「使徒統揮(イオラートス)」

配下となった者を自身の場所に瞬間移動させる。

「概念付与」

物に一つだけ概念を付与できる。

「完全切断(アトミックスラッシュ)」

原子レベルまで切断する剣。

「勇者之剣(ナイトプレート)」

「空虚之剣(アクロノース)」

「永久之剣(アザリート)」

剣を召喚、装備し、操ることが出来る。

「魂剣之終末(ソード・オア・ザ・ソウル)」

「魂剣煉獄(アマノレンゴク)」

「無限之希望(インフィニテッド・キングダム)」

概念を付与した領域、心象転写を展開する。

《神之造物(エンキドゥ)》

「解析」

目に見たものを把握し、その情報を読み取る。

「自律稼働状態(オートモード)」

《神之造物》が身体を正確無比に操作する。

「念話」

念じて会話できる。

「神無撃(プロミネンス)」

天空から無音の流星を落下させる。

「竜神之顎(ドラゴンロード)」

竜の顔を出現させ、喰らった対象のHPを奪う。

「泥人形(ニテヒナルモノ)」

分身をつくる。

「英雄補助(ササエルモノ)」

パーティーメンバーに能力補助をかける。

「一心同体(キョウコナシンライ)」

HPがある限り、スキル破壊系の攻撃を無効化する。

「神束縛鎖(カミヲソクバクスルクサリ)」

神属性のNPC、アバターを拘束する。

「猛牛並縛鎖(グガランナヲシバルクサリ)」

突進攻撃状態の対象を絶対拘束する。


多すぎるだろ、おい。

まあ、二人の二千年と俺の十六年を合わせたからこんなものなのかな?

「進化だな、もう」

《いいじゃないか。力を得るのは》

「………それもそうだな。さて………行くか!」

《どこに?》

「ドラゴン討伐へ!」


***


俺が向かったのは、《死神の煉獄》。

このゲームでボスステージの次に危険なフィールド。

死神の瘴気と悪魔の魔焔が身体を蝕む。

が、《真之王道》にある「闘気操作」と「英雄之聖火」でそれを無効化する。

これから戦うのは、《焔魔竜ルガリオン》。

設定では魔王と唯一対等に戦えるモンスターとのこと。

爆炎魔法と暴風魔法を扱うらしい。

大穴に巣がある。そこがバトルフィールドだ。

「…………着いたぞ。ここが………巣だ」

《深いね》

「大丈夫さ」

「英雄之聖火」発動。

「自由之大翼(ジユウヘノタイヨク)」

背中に発現した炎翼を羽ばたかせながら、大穴にダイブする。

《装備は?》

「こいつらだ」

ストレージからそれらを実体化。

左手に神威、右手にベールリオン。

ナイトプレートだけがストレージになかった。

「…………いた!」

視認出来るだけでも全長数百メートルはあるか………。

「ここだ………!」

神滅煉獄大砲(シン・フレアブラスター)!

ベールリオンの先から熱線を放つ。

「ガアアアアアッ!」

「怒らせただけか………!」

《来るよ!》

ドラゴンはお返しと言わんばかりに口から爆炎を放ってきた。

竜技――――――

「竜鱗障壁(ドラゴシールダー)!」

攻撃系統の《牙》ではなく、防御の《鱗》。

闘気と紫電の障壁で爆炎を防ぐ。

「竜牙餐喰(ドラゴンイーター)!」

竜の顎を放つ。

しかし奴には効かない。

―――久々に………

「竜牙突撃(ドラグストライカー)!」

竜を纏って落ちていく。

「ハアアアアアアッ!」

暴君(スタンピード)発動!

フルパワーの一撃を頭部に浴びせる。

「…………ほっ、と!」

着地。奴の姿は黒く、周囲に赤雷を纏っている。

「ガアアアアアッ!」

突進攻撃、なら――

《神之造物》発動。

「猛牛並縛鎖(グガランナヲシバルクサリ)!」

亜空間から伸びた鎖で竜を捕縛する。

「《ザ・プロメテウス》………!」

二刀流最上位剣技。連続二十五回攻撃――――。

「せぁああああああああッ!」

連撃で竜に傷をつける。

その後すぐに距離をとり、

「神滅竜断罪(シン・ドラグパニッシャー)!」

ゼウスを殺した秘剣。闘気の超大剣を振り下ろす。

「まだいくぞ!」

神威、ベールリオン真名解放。

神威=永久之神(アザリート)

ベールリオン=空虚之剣(アクロノース)

「風刃起動(セット)、導閃之光(ロード・オブ・ファンタジア)!」

追尾の飛天。

「全てを喰らえ、《無帰之王(アストノール)》!」

神之造物に宿る「竜神之顎」の真名。

生命を無に帰す召喚。

「終わらせる………」

「完全切断(アトミックスラッシュ)」を二刀に付与。

概念付与で《絶対切断》を付与。

「……死ね、狂う世に飲み込まれて――――――――――〝神無撃(プロミネンス)〟!」

天空から無音で落下してくる流星が、ドラゴンに直撃した。

「これがラストアタックだ………!」

竜に接近し、二刀を振り上げる。

「《ソニックスラスト》!」

それぞれから放たれる片手単発垂直剣技。

―――首を切断した。

「グォォォオオオ………」

その声の直後、ドラゴンはポリゴンとなって霧散した。

「…………強かった………」

想像以上の強さだった。

ロゼラリアより強かったんじゃないか?

ホワイトディザスターを含めた、今までのモンスターを超えていた。

「…………いい戦いだったよ」

その誇り高き竜に、敬意を表する。

《援護する余裕もなかったよ》


俺は竜を討伐した後、都市に来ていた。

商業都市 《ユーロシオ》

ここに入ってすぐだった。

「アルタイル=アリエルだな」

「?」

俺に声をかけたのは白いマントの騎士。

「…………勇者教か?」

「分かっているのなら話が早い。さあ、我らの末席に加わるのだ」

「あのなぁ、アリアスと話がついてるはずだぞ。協力はするが入団はしない。そう聞いていないか?」

「ああ、聞いている」

………何こいつ。


「だがそれはアリアス様が貴様に譲歩して提示したものだろう?だがここで貴様を叩き潰せば、それも無駄になる」

………何言ってんだこいつ。

頭イかれてんのか?なんでそうなるんだよ。

奴は黄金の髪をなびかせながら言った。

「さあ、決闘を始めよう」

この展開、前にもあったなー

俺はYES\NOボタンを見ずに選択し、ベールリオンを収納。そして神威を腰に装備した。


「ふん、やる気のようだな………後悔するなよ、黒き剣士!」

「⁉」

何故知っている。

俺の情報は秘匿されて………いや、セナとシズクか………。

黒き剣士と決闘というワードに周囲の目が集まる。

「おいおい………黒き剣士だって⁉」

「ウソだろ本物⁉」

周囲の人からすれば、黒き剣士というのは英雄だ。

俺からすれば、不完全な人間だ。

デュエルコールでアルタイルVSレイトと表示される。

男は両手剣を抜剣する。

俺も神威を抜刀。

「黒き剣士と騎士の決闘、見物だぜ」

「こんな戦いが街中で――」

Lady―――――――――――――――Fight!

「ちぇりゃああああ!」

裂ぱくの声と共に襲い掛かるのは両手剣。

これはもう、殺意の類だ。

手加減無用というやつだな。

「せいっ!」

正中線で構えていた神威で両手剣を受け止める。

《旦那様(マスター)、完全切断(アトミックスラッシュ)の起動を進言するよ》

(分かった)

神威に完全切断を付与。

そして、俺は深呼吸で精神を落ち着かせた。

「ふーっ………はーっ…………」

仮想体(アバター)の神経を完全に把握。

(初めてだな………闘気を、全開にするのは)

「…………気絶するなよ?」

「何を………!」

「―――――ッ………!」

内側から、自身の存在を爆発させる。

そして俺自身で、世界を覆う。

その時、NF内の一部を除く多くのプレイヤーと、全NPCが委縮した。

「なんだ………何なんだ、お前は………!」

「黒き剣士だ」

瞬間解放の最大でも、闘気の全てを放出することはできない。

保有量を、放出量が超過しているのだ。

何故これのほど闘気が増えたのかは分からない。

ギルガメッシュと俺の闘気を合わせてもこれ程増えるはずがない。

しかし、それで充分だ。

瞬間最大出力の全てを神威の刀身に宿らせる。

そして「英雄之聖火」を薄く展開。

小さな火花を纏いながら、俺は納刀する。

「ひっ………」

騎士は怯えて一歩下がる。

――――だが、そこも危険領域だぞ。

「―――――――――――――〝王牙天翔(オウガテンショウ)〟」

闘気で伸びた刀身が騎士の首を刎ねる。

WIENER Altair!

静まった広場の真ん中で、キン、と納刀の音だけが高らかに鳴った。

デュエルにより死んでもすぐに復活する。

足元の空間にポリゴンが重なっていく。

怯えた顔で動けない騎士を見た直後に立ち去った。

「…………」

この世界でも、人を殺すことに躊躇できない。

≫条件を満たしました。固有権能(ユニークスキル) 《無想者(ココロナキモノ)》を会得しました。

(ココロナキモノ?)

それは、俺の虚空の殺意を形にした〝力〟。

《これは………なんと皮肉な》

「………そうだな」

これこそ最大級の皮肉だろう。

心が無く、文句一つ垂れない強き者。

それこそが、英雄と呼ばれる者たちだ。

《父さん》も、《母さん》も、《爺ちゃん》も、《アリス》も、《ディオン》も、《アース》も、《カイン》も、英雄の視点に立っていた。

しかし英雄と呼ばれたのは、その美しい表面に憧れた少年だった。

二千年前、俺が演じた英雄王も空っぽの偽物。

それは、ギルガメシュの真似事でしかないのだから。

《始まりの英雄》も、《最強の王》も、《ウルク》も、ただの硝子。

俺の心に突き刺さる剣達も、誰かの相棒であった。

悠久の果てに目覚めた〝自分〟も、狂っていた。

『誰かのために』命を懸けて戦い続ける。

『正義のために』誰かの味方を殺した。

『自由のために』仲間が死ぬ中戦い続けた。

『平等のために』神を殺し、死ぬまで戦った。

『人類のために』身体を捨てて戦っている。

『希望のために』無限の不幸と戦い続ける。

『幸福のために』無数の人を殺した。

『金銭のために』弱い悪となった。

『未来のために』大切な過去を捨てた。

『生命のために』街を壊した。

『世界のために』害を滅した。

『女神のために』神敵を暗殺した。

『キミのために』キミを壊した。

『自分のために』自分を騙した。

『凡人のために』天才を消した。

『明日のために』今日を諦めた。

『不死のために』命を捧げた。

『満腹のために』死骸を喰らった。

『保身のために』国を売った。

『快楽のために』か弱い女を買った。

『快感のために』強かった男を踏んだ。

『大切な人を守るために』誰かの大切な人を殺した。

人間とは、善悪を待たない。

人間とは、混沌を孕んだこの世で最も醜い獣である。

その混沌は幻想を生み、科学をし、世界を創造した。

また、平野に来ていた。

「おぼろげだけど、この力の使い方は分かる」

もしかしたら、俺の最強の攻撃手段に成り得るかもしれない。

俺は、山を目の前にしていた。

ベールリオンを解放。

空虚之神(アクロノース)を顕現させる。

「おい、《空虚之神(アクロノース)》。俺の心を受け入れてくれるか?」

喋らない剣は、その輝きを持って応えた。

《旦那様(マスター)、気を付けてくれ。このスキル、力が大きすぎる………》

極点権能(マキシマムスキル)であるはずの《神之造物(エンキドゥ)》がここまで言うとは………。

《無想者(ココロナキモノ)》

空虚之神(アクロノース)を〝闇色の暗黒〟が染め上げる。

災厄すら超えた〝無〟が溢れ出す。

闘気とは違う、触れたら死ぬ、そう思えるオーラ。

「制御が………!」

闇が弾けた。

その余波は天空に伸びて、雲を貫通した。

「ウソだろ………」

雲だけではない、空そのものが、《消えていた》。

飛天のように押し出したのではない。

消したのだ。

その、無限と思える程のエネルギーで。

≫警告。極点権能 《神之造物》は《解析》《閲覧権限》《神速演算》以外の権限を剥奪されます。

「なんだって⁉」

《権能が消えている⁉》

「どうして………」

《……閲覧の結果、とんでもないことが分かったよ》

「?」

エンキドゥは、こう告げた。

《無想者》は、本来存在しないはずのスキルである。

俺の頭は、処理できなかった。

何故、ない筈のものが俺に宿った。

何故、俺なんだ。

《《世界の核》の中にあった余分なスペース全てがこのスキルに集まったようだ》

「どうしてそんなことに?」

《わからない。人為的な操作は確認できないし、世界側がそんなことを勝手にやるとは思えない》

「…………じゃあまずは………こいつを制御しなくちゃな」

《そうだね》

俺はもう一度、空虚之神に無を宿す。

《………っ!》

「くっ………」

二人がかりで押さえつけ、そのオーラを制御する。

「う………ぉぉぉおおおおおおおおおッッッッ!」

限界を感じて剣の枷を外し、無の虚空を解き放つ。

〝無想之終焉(デラートイーア)〟

その斬撃………とも言えない破壊は、山だけでなく、その下の地面すら消していた。

抉られたように消えた大地に、不穏な風が吹く。

そして、その穴から出現したのは、黒い災厄

《ブラックディザスター》

〝無想之終焉(デラートイーア)〟

一瞬で消え去った。

あれを超える厄災を、俺は知らない。

虚ろなる神は、全てを終わらせる。

この、世界さえも。






≫警告。権能(スキル)の統合、最適化が進行。不要、問題となる権能(スキル)を廃棄。

極点権能(マキシマムスキル)《真之王道(ギルガメッシュ)》と《神之造物(エンキドゥ)》を統合。

その結果、極点権能 (マキシマムスキル)《始祖之神(ファースト)》を獲得。成功しました。

‥‥また?

なんで警告が出てくるんだよ。

その結果も凄いことになっているし。

《‥‥どうしてこうなったのかな》

「さぁ‥‥?」

始祖之神(ファースト)

竜王之剣(ドラグアーツ)‥‥竜技竜剣を最適化したスキル。流水之剣舞のデータを一部流用。

使徒統揮(イオラートス)‥‥配下を召喚する能力。配下やフレンドに能力の一部を分け与えられる。

完全切断(アトミックスラッシュ)‥‥物質を原子レベルまで切断できる能力。結界突破を有する。

剣神解放(エクシア)‥‥全ての《剣技》を使用可能。三本の剣を操れる。

闘気紫電‥‥紫電と闘気を完全に制御可能。

英雄真炎(リオネルフレア)‥‥魂を炎に変換する。

解析・情報閲覧‥‥対象の情報を把握する。

自力制御‥‥自身の能力を制御する。

神速演算‥‥思考速度を数百倍に加速する。

心象転写‥‥世界そのものを作り変えるシステム。

うん、やりすぎ。

何?この世界ってもしかして俺に攻略RTAさせたいの?そうなの?

そして、無想者(ココロナキモノ)のスキル情報も解放された。

無想者(ココロナキモノ)

消滅‥‥あらゆるものを破壊、消滅させる反転エネルギー。自力制御との併用で制御可能。

消滅付与‥‥武装に反転エネルギーを付与する。

空間支配‥‥因果律操作を行う。

停止空間‥‥時間の止まった世界を創造できる。

無限結界‥‥触れたら消滅する結界。一度触れると回復薬では再生、回復はできない。

根源消去‥‥復活(リスポーン)を永遠に禁じる。

うん、殺意たっか。

ゼウスワンパンできそうなスキルだな、おい。

《これはまた‥‥とんでもない力だね‥‥》

「‥‥ああ、そう、だな‥‥」

だけど、一つ目に留まった。

自力制御。

これならもしかして。

「空虚之神(アクロノース)、いくぞ‥‥」

消滅付与で刀身に消滅エネルギーを付与する。

相変わらず制御が難しいが、自力制御でエネルギーそのものを制限する。

天に掲げ、高らかに叫ぶ。

魂すらかき消す虚無の斬撃。

「〝無想之剣(アストラルブレード)〟!」

今回のは斬撃と言えるだろう。射線上のものが数㎞先まで消えているが先刻よりはマシだ。

制御‥‥できているのかわからないが、とりあえず最強の攻撃手段の完成だ。

というか、これだけで敵を殲滅できそうなんだが。


◇◇◇シズク視点。

私は勇者教本部で騎士の訓練を指導していた。

その時だった。

彼の闘気を感じたのは。

世界を覆うほどの闘気を彼が‥‥アルタイルが放ったというのは、すぐに理解できた。

少し経つと、伝令係が飛んできた。

「報告します!第七騎士団の三席が黒き剣士様にデュエルを申し込んだ模様です!」

「なんですって!?」

「結果は惨敗、一撃でやられたとのこと!」

「当然の結果ね」

騎士団は第一から第八まであり、それぞれの地域に広がっている。

第一はアリアス守護部隊とも言われている。

「それで闘気解放とはね‥‥」

彼らしいといえばらしいのだが、それでも範囲が広すぎる。

いったい何が彼をこうさせたの?

闘気量は修行‥‥自身が高みに行くにつれて増えていく。

‥‥考えても仕方がない。

そしてもう一人、伝令が。

「報告します!黒き剣士が未確認スキルを使用、平野の一部が‥‥消滅しました!」

「消‥‥滅‥‥?」

―――――消えた?

意味が分からなかった。

「詳細を」

「…………不明です。彼が技を試そうとした時に、黒いオーラが山と大地を消滅させたのです」

「…………はぁ」

もう驚きを通り越して呆れる。

「‥‥なにしてるのよ‥‥アナタ」


◇◇◇


空間を斬り裂いた俺の斬撃は、世界の修正力すら無効化した。

通常、破壊されたオブジェクトは時間で修復されるはずなのだが、十分経っても元に戻らない。

「うん、チートじゃん」


このログはHFのコンピューターログによるメッセージです。


≫やあ、届いているかい?


≫届いている。貴様のメッセージは声まで聞こえそうで不快だ。


一人目は、二人目にこう伝えた。


≫そう言わないでくれ。二千年生きた同士だろう?


≫黙れ。だいたいオレは本体(あやつ)から乖離した残り火でしかない。そんなオレに話しかけるとは、死にたいのか?


≫もう死んでいるさ。あの時、NFが本当の意味で開始した時点で体は捨てた。


≫貴様、狂っているな。


≫当たり前だろう?そうでもなければ、数十万人を命の危険に陥らせることなどなかっただろう。


≫だが、大義があった。


≫慰めてくれるのかい?


≫何を言っている気色悪い。オレは現実を述べているだけだ。‥‥幻想郷は実在する、とな。


≫ああ、まさか君がそんなことを言うなんて。


≫黙れ、流川大智。


≫断るよ。君の名は、どうしようか。


≫ギルガメッシュ以外になかろう。


≫そうだね。それじゃあギルガメッシュ、本題に入ろうか。


≫なんだ戯け。


≫君の本体、アルタイル君‥‥とでもしておこうか。彼を更に成長させる必要がある。


≫クライマックス前の修行、というやつか。


≫正にそれ。彼の実現値は一億を超えているが、HFではそもそも実現値の価値を理解できない。ただの闘気総量 という認識だろう。


≫そうであろうな。オレとて闘気は生命力、武器としか見ていなかったのだから。


≫だが、君が完成させた《竜技》を継承させたことで彼の実現値は上昇した。


≫それでもあやつの実現値はロゼラリア戦で1000万程度だったがな。


≫いや、私はそこまで上昇するとは思っていなかった。あの世界で戦い続けた者たちでさえ、百万で止まる者たちが多かったというのに。


≫才能という奴だろう。


≫間違いない。だが、才能以前に重要なことがあるだろう?君、いや彼は―――――――なのだから。


≫オレにその記憶はない。もしオレが本体に回帰しても、その情報だけは消していく。


≫徹底的だね。


≫当たり前だ。‥‥俺が、みんなを守るんだから。


≫そういうところは変わらないんだね。本質、というやつかな。


≫‥‥不変の根源、か。


≫君に、全てを。この宇宙の生物全ての命を託す。


≫誰にものを言っている。オレは英雄だぞ。世の全てなど、天地開闢以前に託されている。


≫‥‥任せたよ。‥‥―――――――。



ここで、会話は終了している。


この会話は、プロテクトによりユーザー1とユーザー2以外の閲覧は許可されていません。


管理者権限により、退室を命じます。




昼飯を食うためにダイブ切断した時だった。

ピロン♪

スマホではなく、パソコンの通知。

このメールアドレスは優也にすら教えていない。

俺と父さんの緊急連絡アドレスだ。

「なんでこのアドレスに………」

その件名は無題。

『Do you know that book? The grimoire in that world. The little devil who controls death. You are the only one who can find it. You are the only one who is not killed by that book.(あの本を知っているか?あの世界にある魔導書を。死を司る小悪魔を。探せるのは君しかいない。君だけはあの本に殺されないのだから)』

………本?

何を言っているんだ?

そのメールアドレスに返信してみる。

『Are you the enemy?(貴方は敵か?)』

これで返信してきた内容によっては、信じてみるか。

すぐにメールは来た。

『No, I am on your side.(いいえ、私は味方です)』

これでは誰かは分からないな。

『Who are you?(お前は誰だ?)』

『I am Babel.(私はバベル)』

「………バ、ベ、ル………?」

旧約聖書などに出てくる「バベルの塔」や、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの「バベルの図書館」が有名だろう。

『How do you know me?(何故俺を知っている?)』

『I am a library. There's nothing I don't know.(私は図書館。知らないことはない。)』

やっぱりバベルの図書館か。

『I have a request for you.(君に依頼がある)』

『What is it?(なんだ?)』

数秒後。

『I would like you to look into Dead of Grimoire.(デッド・オブ・グリモワールを調べてほしい。)』

『Grimoire?(魔導書?)』

NF、HFの両方にある魔法道具。

特定の魔法を封じ込めた本だ。

かなりレア度が高く、ダンジョンの最終報酬などで得られる。

だが、

『I don't know anything about Dead of Grimoire.(俺はデッド・オブ・グリモワールなど知らない。)』

『I'm sure you will.(そうでしょうね。)』

なんか小馬鹿にされた気がする。

『It is a grimoire that kills.(それは、人を殺す魔導書。)』

『Is that in the game?(それはゲームの中で、か?)』

キャラクターが死んでもコンバートが………。

『No. In reality.(いいえ、現実で。)』

『?』

あり得ない。そんなこと。

『In fact, there have been deaths.(事実、死者が出ている。)』

「⁉」

そんなバカな。

クロノス系列にそんなシステムは………。

『By illegal software(非合法ソフトによって)』

非合法………。

『Its name is Dead of Grimoire.(その名称が、デッド・オブ・グリモワール。)』

そして、一枚のスクリーンショットが送られてきた。

古びた本に羽ペンで何かを書き込む、フードの姿を。

『I need your help with an investigation.(捜査に協力してほしい。)』

『Who the hell are you?(貴方はいったい何者だ?)』

『Babel(バベル)』

そういうことじゃないんだよなぁ………。




バベルに依頼を受けて最初に受けた指示は、相棒と会うこと。

HFで待ち合わせらしいが………。

ダイブし、とあるカフェで待っていると。

「待たせたか」

「いや全然。………久しぶりだな、ゼオン」

「ああ」

あの時、天使奪還戦の時に協力してくれた男。

「…………少し付き合え」

「?」

ゼオンについて行くと、そこは決闘場。

また?

多いよデュエル………。

「ルールを決めさせてもらう」

「いいけど………」

「開始から五分間、互いに《剣技》と《闘気》の使用禁止」

「へぇ………」

純粋な剣の技のぶつかり合いか………。

「ゼオン、何故決闘を?」

「…………仕事仲間の強さを知りたいのは当然だろう?」

「そりゃそうか」

俺は神威のみを両手で握る。

ゼオンは二刀一対の夫婦剣を。

「準備はいいか?」

「ああ」

Lady――――――――――Fight!

「雷帝二刀流」

「飛天一刀流」

「「参る!」」

これは、俺の今までの経験と、英雄剣術を融合することで生み出した流派。

飛天一刀流

「〝竜廻(リュウカイ)〟」

つま先に力を伝え、素早く接近する。

「!」

そして身体を捩じり回転と共に水平斬りで斬りかかる。

「〝雷牙(ライガ)〟」

片手曲刀の二本で受け止められる。

「…………流石に剣は上手いな!」

「皮肉か!」

飛天一刀流

「〝居合領域〟!」

全神経を2~3mに集中し、構える。

「〝虎徹〟!」

突進攻撃。

「そこだ!」

大きく振り上げ、一撃にのせる―――!

「〝雷閃(イカズチノヒラメキ)〟!」

素早く振り下ろし、二刀を押さえ込む。

「やるな………!」

「はぁあああ!」

渾身の一撃で剣を弾く。

「せあっ!」

跳躍し、全体重を乗せた一撃。

「〝烈牙撃衝(れつがげきしょう)〟!」

「危ないな」

ゼオンがいた場所には切れ目が。

「私も、本気の絶技を」

目を瞑り、神経を目覚めさせる。

「天ヲ舞ウ鷹」

ダン!大きく踏み込み。

「地ヲ駆ケル虎」

低い態勢で構え

「全ヲ進ム人」

二刀を力強く握る。

「今コノ時、天ヲ別ツ!」

一瞬、消えたように見えた。

「〝真・菊斬り六連〟!」

六連撃―――⁉

あの時見たものとは違うが、確かに同じ術理。

逃げ場がない。

全ての軌跡が退路を断っている。

ならば―――

飛天一刀流

〝龍流閃(りゅうりゅうせん)〟!

三連撃で迎撃。

放ち終わった瞬間に流れるように次の技に移る。

剣技では硬直があるが、ただの剣ではそれはない。

「〝竜撃閃〟!」

二連撃。

そして足を踏み込み、腰を捻り、右腕を引いた構え。

「〝竜牙〟!」

刺突。全身運動で放つ一撃。

結果、六撃全てが相殺。

互いに一歩引いた。

「剣の腕は互角か………」

ゼオンが言った。

俺はついて行くので精一杯なんだがな………。

だが、俺にも隠し玉はある。

ただ、まだ使わない。

まだ、その時ではない。

「はぁああああ!」

これは、この流派の旧式奥義。

「〝無限天竜閃(かぎりなきてんりゅうのひらめき)〟!」

突進剣。

竜技の十七の剣と、俺の我流剣術、〝竜剣〟を全て放ち切る秘剣。

合計数十撃にも及ぶ秘剣で、ゼオンを襲う。

「ならば私も―――――雷帝二刀流秘剣」

「―――――――〝雷槌終撃衝(らいついしゅうげきしょう)〟!」

戦争を終わらせる技、そうありたいと思い名付けた秘技。

二刀それぞれ一撃を放つ上段斬り。

「う―――おおおおおッッ!」

―――ガッ―――

―――止められた⁉

技の途中で止められた。

重すぎる。なんて膂力。無論硬直はないが、動けない。鍔迫り合いが続く。

「せあっ!」

「ぐおっ⁉」

右足でゼオンの腹を蹴り飛ばす。

技の空白。

「飛天一刀流――――――〝竜廻〟」

「雷帝二刀流――――〝雷裂〟」

回転水平斬りと上段二撃が衝突。

「―――はあっ!」

刃で二刀を受け流し、すれ違いざまに一撃を浴びせる。

「………飛天一刀流はそれぞれの技が二つ以上の理で成り立っている。それは竜廻も例外ではない。回転による遠心力による初撃。そして初撃の力をそのまま放つ二撃目。………これが二千年の重みだ」

「二千年………か。私の流派は千年………君の流派からすれば若いのだろうが、殺人剣としての誇りは、この剣にもある」

そこで五分経過。

「はあっ!」

ゼオンは剣を投擲する。

それを見て躱し、次に構える。

七つの剣を引き連れ、二刀を手に取るゼオンの技。

「剣滅眼秘技、〝菊斬り九連〟!」

菊斬り六連の強化技。

そして七つの剣は大太刀。

一撃の威力もかなり向上している。

「なっ―――」

俺が驚いたのは速度ではない。正確さだ。

九つの軌道全てが、俺の逃げ道を塞いでいる。

バックステップも無駄。

逃げ場なし。

ならば攻める。

正に脳筋思考。

だが、攻撃を超える防御なし!

〝飛天〟

空間を押し出し、斬撃を停止させる。

俺も最近気が付いたのだが、飛天に触れた物は時間の流れが遅くなるようだ。

想定通りゼオンの剣が止まった。

「銀河天文流抜刀術――――――」

〝王牙天翔〟

七つの剣を砕いた。

「…………そろそろ、終わりにしよう」

「ああ………そうだな」

最後に選んだ技は、それぞれの流派の奥義。

「雷帝二刀流秘剣――――――――――〝雷槌終撃衝〟!」

「飛天一刀流奥義――――――――――」

飛天一刀流の新奥義。

〝飛天〟を習得した時点では放つのに相当の負担がかかっていたが、今の状態なら。

これは〝飛天纏い〟を発動した状況で千にも万にも変化する斬撃を放つ技。

〝飛天〟を連続使用するのは空間を斬り続けるのと同義。

飛天纏いは通常一度の使用で十秒の持続限界がある。

それをフィジカルで取り払い、飛天一刀流の型と合わせるのが――――――――――――――、飛天一刀流・真之型

「――――――〝飛竜天絶剣(ドラゴニックブレード)〟!」

二撃を吹き飛ばし、両手上段斬りで決着。






≫流川よ。二刀流………だけではないな。………ユニークスキルなど何故つくったのだ?


ギルガメッシュの問いかけに、流川大智はこう答えた。


≫世界の攻略速度を上げるため、というのもあるけれどもう一つ、大切なことがある。


≫………ほう。


≫ユニークスキルはね、引き継ぎできるのだよ。


≫引き継ぎだと?


≫NF規格に開発された世界。いやオリジナルもそうか。ようするに、現実以外の世界全てでユニークスキルは機能する。


≫………そういう腹か。貴様、悪いことを考える。


≫ああ、最悪さ。私は、魔王なのだから。


≫だが、オレの二刀流、英雄之炎の力だけおかしいのはどうしてだ?


≫そもそも英雄之炎は私が組み込んだものではない。そして二刀流に関しては、《主人公》が持つように設定したからね。


≫主人公………とな。


≫そう。あの世界の強さは、反応速度と処理速度だ。世界のシステムを処理して自身の力として振るえる者に託すため、その二つの速度が最も速いプレイヤーに二刀流を設計した。


≫成程な。だが、もう一つ、二刀流で疑問がある。


≫何かい?


≫‥‥オレ、いやアルタイルが最後に放った《剣技》………二十六連撃のことだ。

≫そのことなら私も知りたいがね。私はこう考えているよ。あの技も、英雄之炎も、人の心が創り出した願いの結晶………〝希望〟だと。


≫………随分ロマンチストなのだな。………だがしかし、希望、か。


≫ああ、正にあの剣技は希望さ。まさか《ザ・プロメテウス》を超えるだなんて想像もしていなかった。


≫最上位剣技を超えた技、その名は?


≫そうだね………星を越えた剣戟、《スタートオーバー・エクストリーム》。なんてのはどうかな?


≫………貴様にセンスが無いのは分かった。


≫‥‥ええ?いいと思うけどなあ………


≫………もうそれで構わん。


≫それに希望というのなら、君の存在そのものじゃないのかい?


≫………何を馬鹿な。


≫だって二百年生きて、神威の中でも修練を続けるその決意。周りから見ればそれは希望以外の何物でもないよ。


≫そこまで大層なものじゃない。オレは、死んだ。


≫だからこそ、彼がいる。まだ先はあるさ。さあ行こう………《オリジナル》へ!






デュエルの直後、ゼオンと別れた。

次の指示まで何もないそうだ。

そこで俺は、ダンジョンに来ていた。

ステータスを上げるために。

NFとあまり変わらず、暗い洞窟。

壁全面が鈍い輝きを放つダイヤのようだ。

「さて………」

お出ましだ。

《リザードマン・ナイト》。

このダンジョンは全十階層で、今は八階層。

そしてこいつは、所謂中ボスだ。こいつを、片手剣で倒しきる。

ベールリオンを右手に握り、距離を詰める。

それが出来なきゃ、クリアなんて出来ない。

「行くぞ」

「グルワアァ!」

鎧を着た竜騎士が、長剣を振るう。

「はっ………」

呼吸と同時にバックステップで回避。

その直後にモーションを起こす。

片手剣四連撃技 《エクシア》

装甲の隙間に四撃を叩き込む。

片手剣単発重突進技ヴォーパル・ブレイク

刺突で盾を吹き飛ばす。

そこで騎士の剣を受けてしまった。

更に、

「グアァ!」

気合と共に、竜騎士が放ったのは

長剣上位剣技、《フォール・レア》

神速の上段斬り。

「やべっ…………」

それをベールリオンで受け止める。

「お………らぁ!」

流石に戦闘AIの学習が早いな………。

剣を下段、緩めに構える。

そこでやはり、竜騎士は突進剣技。

「そ、こだぁあああ!」

片手剣上位反撃技、《リバーサル》

大音響とともに長剣を弾く。

片手剣と大剣の違いは長さのみ。

威力か速さか、その差が、戦いを決める。

片手剣最上位剣技、《スターブレイク・ノヴァ》

長剣最上位剣技、《メテオクライシス・エグゼ》

「うぉおおおおおッッ!」

「グゥルワァアアッッ!」

途轍もなく重い一撃を四撃で受け止め、俺は硬直。

鍔競り合いを絶対に動かない硬直で守り切る規格外スキル。通称、《SSブロック》。

二秒の直後、俺はトカゲを蹴り飛ばした。

トカゲは胴体に打撃を受けたことにより硬直。

ここだ。

「………せぁあああああ!」

片手剣単発上段突進技 《ソニックスラスト》

「グガァァァァ………ぁあ………」

トカゲ騎士はポリゴンとなって宙に霧散。

そして俺は、先に進む。


トカゲ騎士を倒してすぐ、俺はボス部屋に直行した。

「よぉ………ボスさん」

部屋の中にいたのは、ミノタウロス。

デカい。十六Mってとこか。

「モォォォオオオオオ!」

大斧を両手に突進してきた。

それに対し、俺は右手に神威、左手にベールリオンを装備して対峙する。

真名解放

〝空虚之神(アクロノース)〟

〝永久之神(アザリート)〟

俺が発動するのは、二種類ある武器戦術の最終奥義の内の一つ。

「〝解放宣言〟」

闘気と武装が同期し、融合する。

「〝終末之二剣(ワールドスレイヤー)〟」

両腕を薄い鎧が覆い、二刀の周りに蒼炎が舞う。

「…………」

大斧を二刀を交差することで受け止め、弾き返す。

一歩下がった牛に、連撃で返した。

二刀流上位剣技 《スターマーク・リオネル》

「せぁああああああ!」

空間を舞う火花が連撃ごとに増えていく。

「フゴオオオオオッッ!」

憤怒の一撃が天から降ってくる。

「――――――――――《リバーサル・カウンター》!」

音と飛天で反撃する。

ガアアアアアアアン!

大音響で牛は麻痺した。

〝蒼炎〟

剣から溢れる炎を斬撃として放つ。

「〝蒼き残光〟」

炎を二つ、重ねて撃ち出す技。初撃を防いでも、その直後に二撃が襲う。

斧にひびが入った。

そこで俺は、集中を極限まで深めた。

「ふーっ………はーっ…………」

深く、深く、もっと………深く!

エクリプス

両目が赤く染まる。

世界が遅く見える。

そして………未来が舞う。

空間に映し出されたのは、この先にある無数の未来。

ここの可能性は、俺の手の中にある。

「…………未来は得た」

〝風刃装填(セット)〟、〝舞散之風刃(まいながらちるかぜのやいば)〟・〝下段〟

牛の右足を両断。

「〝飛竜天絶剣(ドラゴニックブレード)〟」

空を舞い、その軌跡を生み出す。

牛の周囲に漂う水色の斬撃。

「〝顕現(アクト)〟」

その言葉に、斬撃が牛に炸裂する。天叢雲剣の力を模倣した攻撃。

不安定な力の流れを、空間そのもので支配する。

空間支配斬撃。

飛天を表すなら、これ以上に適した言葉はないだろう。

斬った空間を支配する固有剣技(オリジンアーツ)。

俺だけの技だ。

そして空間そのもので武器を強化する応用技。

〝飛天纏い〟

漂う斬撃にも攻撃判定がある。

そのまま振り下ろせばただの斬撃が、二連撃となる。

「はあああっ!」

二刀を同時に振り下ろし、四連撃。

後ろに倒れた牛に対して、必殺の一撃を浴びせる。

「終わりだ」

二刀流上位剣技

「スターマーク・リオネル」

牛は無言で霧散。

ダンジョンクリア。ステータスが大幅に上昇する。

「…………帰るか」






ダイブ切断完了。

クロノスを頭から外し、ソファーでくつろぐ。

「…………」

窓から青空が見える。

俺は、本当に俺なのだろうか。

ギルガメッシュ、アルタイルに毒されているのではないか。

自分が自分だという、自信が持てない。

「クソッ………仕方がないとはいえ、記憶の継承なんかするなよ………」

昔の自分に文句を言っていないとやってられない。

不思議だ。二つの人格が共存しているかのような感覚。

二重人格、か。

「違うと言い切れないのが辛いな………」

ピロン♪

スマホに一通のメール。

「アリスから………?」

アリスは機体についているシステムでスマホを使わずにメールを送れる。

「なになに?」

『今すぐショッピングモールに来て』

「?」

何かあったのかと思い、俺は急いで準備して家を出る。

「事件は勘弁だぞ………」

徒歩五分のところを全力疾走により一分で到着。

えっと………どこにいるんだ?

「アル!こっちこっち!」

アリスが飛び跳ねながら手を振っている。

「おーう」

そっちに駆けていくと、アリスの後ろに人影が。

「えっ………シズク?」

そう、シズクがアリスの後ろにいた。

「二人とも、どうしたんだ………?」

「えっとね、たまたま近くで会って………」

「それでアナタと一緒にここをまわらないかって話になってね」

「あ、そういうこと」

―――うん、どゆこと?

どうしてそうなった、二人とも喧嘩しないよね?

無論それは口に出さない。

「あれ、セナさんは?」

「ああ、彼女は今日仕事。ライブがあるって」

セナはこっちで大人気アイドルだ。

「大変だなー」

まあ俺のこの状況も大変なんだけど。

そうして、俺の超ハードな一日が始まった。


◇◇◇


「彼、ホントに面白いよ」

そう言うのは、バベル。

彼女がどこにいるのかは、彼らしか知らない。

彼女が何者なのかも。

ただ、これだけは言える。

この女を敵にまわしてはいけない。

この女は監視カメラやネットすら操り、敵は個人情報を漏らされる。

だがその悪魔でも捉えられない天才がHFにいた。


◇◇◇


「この世には、何が必要か。この世には何が不要か。それを決めていいのは殺される覚悟がある者。僕は全てを壊す。………見ているかい、カナタ。僕はやり遂げるよ。必ず」

彼の手には、一冊の本が。

死統魔導書(デッド・オブ・グリモワール)

この本に殺したい者の名前を入力すると、詠唱が現れる。

その内容と長さは対象によって様々。

「この力で、僕は世界を平和にする」



◇◇◇



俺は今日一日、ずっとデートだ。

誰か、助けてくれ。

この状況で帰りたくない奴いるか?

自分の両腕に女の子が抱きついている。

そしてその二人が、火花を散らしているこの状況で。


さあ、修羅場を始めよう。


はいすんません。

調子乗りました。

この状況で〇ねとか思ったやつは心が狭いよ。

なぁ、おい。俺が今、どういう気持ちか分かるか?おん?

俺は今………めっちゃ気まずいんだよ!

「あのー二人共?なんで俺の腕に抱きついてるのかな?」

「えっ、駄目?」

「いいじゃない、減るものでもないんだし」

(色々減るんだよな。俺の耐久値………だって周り見てよ)

周囲の目が痛い。

だって他から見たら女の子二人を侍らせてるクズ男にしか見えないでしょ。

うん、今否定できないだろって思ったやつ、ちょっと痛い目見てもう。

無想之終焉(デラートイーア)で消してやるよ。

まあ、現実じゃそんなこと出来ないんだけど。

あくまで仮想世界でな。

「ねぇアル、あれ見て!」

「ん?」

アリスが指さしたのは、ジュエリー店。

なんでこのタイミングでジュエリー店空いてんだよぉ!

アリスとシズクに引っ張られ、入店。

終わったー。

財布とか感情とか情緒とか色んな意味でー。

俺の目に留まったのは、二つの指輪。

宝石は青で同色だが、リング部分が金と銀で異なっている。

アリスとシズクが店をまわっている内に会計を済ませた。

神速。

まあ、額がえげつないが。

金貰っててよかったー………。

「うーん、どれがいいかなー」

「これなんてどうかしら」

「あっ、いいね!」

二人も会計を済ませたようだ。

「お待たせ―‥‥って、アルどうしたのその袋」

「…………ほい」

袋から箱を取り出し、二人に渡す。

「えっ‥‥嘘‥‥」

「指輪‥‥」

「似合いそうだと思って、買った」

「…………ありがとう、アル!」

「大事にするわ」

その直後、二人が持つ袋が目に留まった。

「二人は何を買ったんだ?」

「はい」

「開けてみて」

見覚えのある箱の中には、青い宝石に黒いリングの指輪。

「…………考えることは一緒かよ」

「そうみたい」

「‥‥ふふっ」

指輪をそれぞれ指に嵌める。

どの指かは察してくれ。

この時、指輪の宝石がキラリと光った。

「さて、次行きましょう」

「えっ」

「行こう行こう!」

「ウソだろ‥‥」

まだ続くのぉ⁉

えーっと、財布‥‥ヤバい。

俺の金よ、さようなら。



俺は二人と家に帰っていた。

‥‥俺の家だよ。

なんでアリスだけじゃなくシズクまで‥‥。

「なあシズク、なぜに我が家に‥‥?」

「あら、お母さまから聞いてない?私とセナさん、しばらくここでお世話になるわよ?」

「はぁ⁉」

「えぇ⁉」

聞いてねーよ⁉

「まあセナさんはライブツアー明けからみたいだけど」

「なんでそうなった⁉」

「前に泊まった時にお母さまに提案されたのよ。うちに来ないかしらって」

母さん何やってんだぁ!

「え、母さん真面目に?」

「ええ」

「超真面目で⁉」

「ええ」

「嘘だろぉ‥‥」

もう母さんを止められない‥‥。

「えーっと、シズクはそれでいいのか?」

「どういう意味?」

「あー、俺と一緒に暮らしていいのかって‥‥」

「いいに決まってるじゃない」

その時、俺の腕が引っ張られた。

「アルは渡しません。私たちを見て嫉妬してなさい」

アリスはキッパリと、力強く言った。

それに対しシズクは、

「望むところよ。貴女こそ、嫉妬で狂わないようにね」

火花が散る。

この空間で二人の精神がぶつかり合う。

「えっとぉ、二人ともこの前のでそういうの落ち着いたんじゃあ‥‥?」

「何のことかしら?」

「停戦すらしていません」

「「徹底抗戦。争奪戦よ」」


うん、何を争奪しているのかは聞かないでおくよ。

「まーしょうがない。シズク、部屋はどうする?」

「えっ?」

「…………えっ?」

「勿論アナタの部屋で過ごすけど‥‥」

何が勿論なんですかねぇ⁉

「えっと、それは、流石に――――」

「前にも寝たじゃない」

―――そういやそうだったなぁ⁉

俺のパーソナルスペースが………。

「それに、アリスさんとは今でも同じ部屋らしいじゃない」

「どこ情報だそれ⁉」

「お母さま」

母さん!

本当に俺の個人情報‥‥まあ俺だけじゃないけど簡単に漏らしすぎだろ!

「私から聞いたのよ」

「連絡先でも交換してるのか‥‥?」

「? 当たり前じゃない。勿論アナタの電話番号、メールアドレスも」

「なんだって⁉」

もうどうでも良くなってきた。

「あー。もう行くとこまで行ったなー‥‥」

「何なら、私と生きる?」

シズクは左手の指輪を見せながら言った。

アリスは神速で反応し、

「私がアルの嫁になるんです!」

「戸籍を取ってから言いなさい」

「うぐぅ!」 

アリスにクリティカルヒット!

「‥‥アルは渡しません!」

「コッチの台詞よ」

いつか、この修羅場に慣れてしまう日が来てしまうのだろうか。




シズクが我が家で暮らすことになった。

結衣さんもだ。

「…………どうしてこうなったかなぁ‥‥」

ふと視界にクロノスが入り、それを頭にかぶる。

「ゲート・オープン」

≫一件のメールが届いています。

メール‥‥バベルか?

「…………シズク?」

どうして‥‥?

普通に現実で―――いや、もしかしてあいつ、俺の部屋でダイブしてるんじゃ―――――。

その考えを振り切り、メールに中身に目を通す。

『今すぐ煉獄の十階層に来て』

煉獄は俺が前に戦ったダンジョン。

「なんで今‥‥?」

ボス戦で苦戦しているのか‥‥?

◇◇◇

そこで見た景色は、血の気が引くものだった。

「うおおおおッ!」

「せえええええいっ‼」

そこでは、二つの団体が殺し合っていた。

「なんだよ、これ‥‥」

唖然としていると、後ろから

「アルタイル、来てくれたのね」

「すまない、またお前に縋って」

「‥‥シズク、エイル‥‥」

二人だけが冷静だった。

「どうしてこんなことになったんだよ!」

驚きながら問い詰めると、エイルが口を開いた。

「…………このボス戦は、一つのギルドしか入れないんだ‥‥!」

「なん、だと………?」

ボスを最初に攻略した戦いのラストアタッカーには特別なアイテムが与えられる。

ラストボスなら尚更だ。

「くそっ‥‥なんて性格の悪い運営だ‥‥」

「まったくよ‥‥」

「それで、俺に止めてくれってことか?」

「ええ、アナタはどこにも所属しない第三勢力。問題にはならないわ」

「そうか‥‥」 

なら―――――――

「鎮圧開始だ」

片手剣最上位剣技 《スターブレイク・ノヴァ》

流水剣〝河川敷〟

竜剣〝竜廻〟

飛天一刀流〝羅刹〟

範囲縮小〝飛天〟

これらを一瞬で、全て放ち切る。

「これでいいか?」

背中に大剣を納めるのと同時に、ギルドは地面に倒れた。

「…………一応精鋭なのだけど………」

「ああ」

「そうなのか、それはすまないことを‥‥」

倒れているギルドメンバーを見渡す。

VR内で気絶すると、十分後に意識が覚醒する。

「なあ」

俺から切り出す。

「俺達で攻略しないか?」

「…………」

「…………」

「「それだ(よ)!」」

数分後、門の前に立つ。

「行くぞ、準備はいいか?」

「ええ」

「ああ」

ルール

最終階層に入れるギルドは一つのみ。

ただし、ソロプレイヤーはその限りではない。

シズクもエイルも、一時脱退を決意した。

その死神の門が、ゆっくりと開く。

《The Ded Rain》。

大鎌を持った死神。

―――――――血の雨、か。


◇◇◇


「せああああああッ!」

「ハアアアアアアッ!」

「せえええええいッ!」

片手剣上位剣技 《プロミネンス》十連撃。

細剣上位剣技 《プレメント・アクセント》八連撃。

大剣上位剣技 《アトレンク・クラーディング》単発上段斬り。

敵の腹に連撃を叩きこむ。

八層のダンジョンモンスター全てを足しても、こいつには及ばないだろう。

‥‥こうなったら―――――――、

(やるしかないのか‥‥)

もう一度、人前で《二刀流》を使うのは‥‥嫌だった。

「剣神解放(エクシア)」に統合されても、二刀流だけはユニークスキルとして残っている。

「っ‥‥」

「きゃっ…………」

この間にもシズクとエイルが。目の前で、いや、俺と共に戦っている。

もう、迷ってはいられない。

思えば《二刀流》を初めて大衆の前で披露したのはディオンとの決闘の時だった。

今は、状況がまるで異なる。

しかし、誰かのために力を使うのは、まったく同じ。

《神約》が最強の防御だというのなら、《二刀流》は最強の攻撃。

「…………っ!」

ストレージからベールリオンと神威を実体化。

大剣を地面に突き刺し、代わりに二刀を装備する。

神経を《二刀流》特化に変更。

頭で高速戦闘スイッチに切り替える。

思考が加速する。

今もアリスとシズクが剣を捌いている。

「…………うぉおおおおおおおッ!」

エイルが大鎌を弾いた瞬間。

俺はこの世界で初めて、二刀流スキルを人前で使う。

「せぁあああああああああッ!」

二刀流突進技 《デュアルレイザー》。斜め下からの突き上げ。左で突いた後、時間差で右を放つ。

「二刀流‥‥⁉」

「アルタイル‥‥やはりか‥‥」

ここに、HF最強の二刀流剣士が現れた。

「二刀流の‥‥黒き剣士‥‥」

シズクの呟き。

「行くぞ‥‥」

《スターマーク・リオネル》連続十四回攻撃―――。

閃光と火花が空間を灼く。

連撃が、その骨を砕く。

《二刀流》

このスキルは最速の反応速度を持つ人間に宿る。

そしてNFでは、真の勇者の役割を与えられた。

「俺は‥‥負けない!―――――――負けられないんだぁ!」

十四連撃目の右上段斬り、頭蓋骨に大きなヒビが入った。

「…………凄い‥‥」

「アルタイル‥‥」

俺は死神から距離を取った。

その技を放つために。

二刀流剣技は、唯一無二の個性を持っている。

通常、スキルはステータスにより威力は増減しない。

元々会得したレベルのまま、威力は変わらない。

しかし二刀流は、それに当てはまらない。

敏捷度、筋力、それによって威力は増大する。

無限に成長し続ける剣技。

思い切り踏み込み、突進する。

「――――――‥‥ぁぁぁあああああああああッ!!」


二刀流最上位剣技 《デュアルイーター》。

接近し、腕をXにした状態から斬り開く。未来を切り開く一閃。

「‥‥せ、ぁあああああああっ!」

死神は、ポリゴンとなって霧散。

しかしその後だった。

世界が終わり始めたのは




≫ダンジョンはクリアされました。

「よし!」

≫クリア報酬が開始されます。

「…………開始?」

「どうしたの?」

「いや、クリア報酬が開始って―――」

ザッ――――――

「やあ、久しぶりだね。アルタイル君」

「なっ――――よう‥‥流川‥‥」

そう、空間の歪みから現れたのは、流川大智だった。

「流川⁉」

「何故―――」

「まあまあ、落ち着き給え。私はアルタイル君に用がある」

そして、流川が話す。

「ダンジョンのクリア報酬だ。私たちと戦ってもらう」

「たち、だと?」

「オレとだ」

金髪赤眼の英雄王、ギルガメッシュ。

「ギルガメッシュ‥‥」

シズクもエイルもこいつを見たことがある。

「お前たちと戦えってことか。不利にも程があるな」

「貴様に有利な戦いなどあの世界であったのか?」

「…………それを言うなよ」

しかしそこで終わらなかった。

「貴様に言わなければならないことがある。貴様はこの世界で死ぬと現実で死ぬ」

「…………は?」

‥‥死ぬ、だって?

バカバカしい。

いや。

俺の記憶を刺激したのは《死統魔導書(デッド・オブ・グリモワール)》

シズクとエイルから血の気が引く。

「‥‥どうせ、お前たちと戦わなきゃいけないんだろ?」

「当然だろう」

「…………分かった。やってやるよ」

「待って!」

俺を制止したのはシズク。

「アナタ、本気で行く気⁉」

「ああ」

「相手はあのギルガメッシュよ⁉アナタが一番、その強さを分かっているでしょう!」

「…………そうだな」

「…………私の目を見て!」

はっとしてシズクの目を見つめる。

「…………アナタが死んだら、私はどうしたら‥‥!」

「死なねぇよ」

シズクの頭をポンポンと撫でる。

「…………アルタイル」

「エイル、後は頼む」

「…………了解した」

もう一度、ギルガメッシュに向き直る。

「覚悟はできたか」

「もちろんだ」

「では、行くぞ」

異空間への門が開く。

そして俺達三人が入るとその扉は閉まり、その場に残った。

扉に文字があった。


『無限の絆持ちし者、回廊を打ちこわし、願いから始まる未来への青薔薇を咲かせん』。



◇◇◇


―――俺は、神威とベールリオンを構えた。

ギルガメッシュ、流川はそれぞれ見たことのない武器を。

俺とギルガメッシュは同時に走り出した。

「うおあああああッ!」

「…………」

奴は無言で俺の剣を捌く。

今まで通りの剣戟ではこいつには通用しない。それだけは分かった。

(もっと、もっと速く――――!)

二刀流上位剣技 《スターマーク・リオネル》十四連撃。

ギルガメッシュと俺が同時に放った連撃は、空間に火花を生んだ。

閃光が散り、世が照る。

「遅いぞ、下郎」

「なっ―――」

ギルガメッシュの十四連撃目、ワンモーション遅れる上段斬りの軌道が俺とは違った。

これでは相打ち。

奴のHPが分からない以上、危険を侵すわけには――――、いや。

(だからこそ、ここでやるんだ――――!)

十四連撃目の上段斬り、それは互いの身体にヒット。

しかし、どちらも死ななかった。

「心配して損したぜ‥‥!」

「ぬかせ!」

硬直が終了した瞬間、互いに攻撃を再開した。

「はあああああああっ!」

「――――――…………!」

今度も奴は無言の気合を込めている。

速く重い連撃。

(ここで、お前を超える――――‥‥!)

(やってみろ、俺(オレ)―――――!)

「「らああああああああああッ!」」

二刀流最上位剣技 《ザ・プロメテウス》連続二十五撃。

あの世界最強の必殺剣技。

絶対に殺す。

神すら殺す。

真の殺人剣。

二十五撃目、左刺突。

今度こそまったく同じ軌道。

刀と剣の先が衝突する。

「くっ‥‥!」

「っ‥‥‥!」

互いに後ろに吹き飛んだ。

そして俺達は、他のスキルを使うことにした。

「クソッ!」

扉の向こうでは、エイルとシズクが。

「どうやったら、助けに行ける‥‥!」

ヒントは門に書いてある文言のみ。

絆‥‥アルタイルとの絆‥‥

それを見て、シズクは魔法を唱える。

「フォーレルメン・アノークライ・レンフォー・アールレイ・オールレイ‥‥」

「まさか、お前‥‥」

基本属性魔法は日本語‥‥というか、術者の母国語で発動する。

しかし、それに当てはまらない魔法属性がある。

「空間属性‥‥」

空間系の術者は極端に少ない。

何故なら、エクストラスキルと同程度の会得難易度だからだ。

それに習得方法不明。

もうユニークと遜色ない難易度。

それを目の前でやられたのだ。エイルは驚愕した。

いや、それ以前に。

(誰を呼ぶ気だ‥‥?)

空間魔法‥‥この状況なら転送・転移魔法だろうか。

それには二通りある。自信を指定した場所に転送する魔法。そしてプレイヤーを自身の座標に呼び出す魔法。今なら恐らく後者。

「カノードル・エクリーフ・プラフィード・プレイアード・フォーム・アート・アールラ・カリーナ」

長い。それ程に空間操作は大変なのだ。

それを簡単にやってのけるアルタイルの飛天は、まさに〝規格外〟。

「アールレイ・クラーフラ・アーレクス・フォー・アー・」

後はプレイヤー名を言うだけ。

「アリス」

一瞬の光の直後、シズクを剣が襲った。

「いっ⁉」

「え、シズク?」

「貴女わざと⁉」

「いいえ、今モンスターと戦っていたの。で、呼び出すとは何事ですか?」

シズクは簡潔に状況を説明した。その説明が終わるや否や、アリスは剣で扉を攻撃し始めた。

扉にはドアノブすらない。

先に進むために出来ることは破壊のみ。

それは二人にも分かっていたこと。

だが、扉は傷一つつかない。

「硬すぎる‥‥!」

アリスは《コスモスター・レスティング》を放つが、結果は同じ。

「くっ‥‥」

「貴女でもダメなの‥‥?」

(アリスさんの絆でもダメなら、いったい誰が――――)

絶望の中。

足音が五つ、その場に向かっていた。


◇◇◇


「増援は来ないみたいだね。アルタイル君」

俺達の戦いを見ている流川がそう言った。

「うるせぇ‥‥黙ってろ‥‥」

そうはいっても、俺はもう限界だ。

戦いは拮抗していても流川にまで気を向けていると、あっという間に接近されてしまう。

「お前に絆を持つ者などいなかったようだな」

「いるさ‥‥《あいつら》が!」

「あいつら?」


◇◇◇


「どうしたら‥‥」

「らしくねーな、アリス。お前は何事も諦めないんじゃなかったのか?」

「えっ‥‥あ、あ、あぁ‥‥アース!」

三人が後ろを振り向くと、五人の男たちがいた。

「優也君!」

「アリッドです、シズクさん」

星川優也=アリッド。

「ディオン‥‥クリンス‥‥」

「初めましてだね、エイル君」

聖騎士ディオン

「お父様‥‥!」

「久しぶり、アリスさん」

星川紘一=ゼン

「カインさん!」

「よっ、アリスの嬢」

旅月カイン

「安心しろ、少年少女!俺達が来たからには、あのカッコつけ野郎を死んでも助ける!」

カインの言葉にアリスとシズクは大粒の涙を流す。

「そうは言っても、どうやって扉を壊すつもりだ」

そう問うのはエイル。

「俺達はアイツとの絆が誰よりも深い。俺達に壊せねぇ訳はねぇだろ」

根拠のない説明。だがどこか説得力がある。

「行くぜ、皆さん!」

「おう!」

「ああ」

「はい!」

「了解した」

孤月弐式・破龍裂槍(ハリュウレッソウ)!

流水之宝剣・天礫太憐衝(テンレキタレンショウ)!

新約 《バティリア・アクロフォース》

奪命・血裂(ブラッドストライク)発動 短剣最上位剣技 《エタナリィ・アポフィナシリー》

星天流奥義・天牙天穿(テンノキバハアマヲウガツ)

それぞれ人類の最高峰が放つ、最強の技。


それに絆が宿り、扉は砕かれた。


◇◇◇


ドゴン!七色の光が侵入してくる。

無限を隔てていた扉が砕けた。

「アル!」

「助けに来たわよ!」

「えっ―――――――くくっ‥‥遅ェぞ。みんな」

「‥‥アル坊、まぁその‥‥なんだ。‥‥久しぶりだな」

「おう」

「流川は私たちに任せてくれ」

「――――――任せた!」

余裕が出来た心のまま、ギルガメッシュに斬りかかる。

「まさかここまで多いとはね。幼稚な絆を持つ者たちが」

アリス、シズク、エイル、ディオン、アース、アリッド、ゼン、カインは声を合わせて、

「勘違いするな!」と叫んだ。

それは怒号に近い。

「「私達は愛を教えてもらった!」」

「希望となって共に戦ってくれた!」

「よい友(ライバル)になってくれた!」

「死に絶えるはずだった流派を繋いでくれた!」

「今まで数えきれないほど助けてもらった!」

「私達のもとに生まれてきてくれた‥‥すくすく育ってくれた!」

「一番の‥‥親友になってくれた!」

もう一度声を合わせて、

「テメェ(貴方)(君)(アンタ)にとやかく言われる筋合いはねぇ(ない)!」

各々、自身の最強技を構えた。

細剣最上位剣技 《コスモスター・レスティング》

波動細剣最上位剣技 《ウェーブ・アクリフォリス》

弧月壱式奥義 〝幻想龍戟衝(ゲンソウリュウゲキショウ)〟!

流水之宝剣 〝天礫太憐衝(テンレキタレンショウ)〟!

神約剣技 《ガーディアン・ザ・ブレイバー》

錬成武装 《エタニティセイバー》鎧モード・〝星斬(ほしぎり)〟!

星天流 〝新河流星(シンガリュウセイ)〟!

星天流奥義 〝銀河光星断(ギンガコウセイダン)〟!

対する流川は、

「《剣神解放(エクシア)》発動」

ザ・プロメテウス

全員が跳躍し、空中で剣を交えた。

「アリス‥‥!」

「さよなら!セイッ! シズク!」

「任せて!はあっ! エイルさん!」

「了解した。機外装・星斬! アース殿!」

「はい!〝天礫太憐衝〟! ディオン!」

「承けたわまった。せあっ! 弟君!」

「任せて下さい!‥‥兄さんをと僕たちの絆を‥‥舐めるなぁあ! 父さん!」

「ああ。‥‥息子とその嫁さんが大変世話になったみたいじゃないか。これはお礼だよ! カイン君!」

「最後の大トリは俺だぁ! ここで終わらせる‥‥テメェの‥‥テメェらの物差しで‥‥俺達の絆をはかるんじゃねェ!」

「ぐああああっ!」

流川は地面に倒れる。


◇◇◇


「…………バカども‥‥」

(‥‥泣かせんじゃねェよ‥‥!)

俺とギルガメッシュは互いに空中で制止した(空を飛べるのは炎翼のおかげ)。

「「〝心象転写〟」」

俺達は同時に同質の世界を展開。

「〝魂剣之終末(ソード・オア・ザ・ソウル)〟」

剣が互いの背後に出現する。

「行くぜ‥‥―――――ギルガメッシュ!」

「来い―――――アルタイル=アリエル!」

突進し、背後の剣を射出。

そしてその隙に闘気を高める。

「はあああああ‥‥」

ギルガメッシュは右手の剣だけで数本を防ぎ、同じように闘気を高めた。

「――――――《竜牙突撃(ドラグストライカー)》!」

最高峰の刺突同士が衝突する。

「はあっ…………!」

「くおっ…………!」

また互いに吹き飛ぶ。

「もう何回目だよ‥‥!」

「知らん。数えてない」

(どうする‥‥俺にあって奴にないもの‥‥――――あるじゃないか。《無想者》が)

「ここらで決めるぞ、下郎」

「ああ‥‥終わりにしよう」

銀河天文流奥義 《天牙流星(テンガリュウセイ)》!

「お前、これは持っていないだろ‥‥!」

無想之剣(アストラルブレード)!

「双方そこまでに!」

「「!」」

俺達を制止したのはエンキドゥ。

「お前、なんでアバターを‥‥」

「少しプログラムに穴を開けてね。時間がかかったけども」

「それで応答がなかったのか‥‥!」

「エンキドゥ」

「…………久しぶりだね。ギルガメッシュ」

「…………何故止めた」

「逆に聞くけど、二人の旦那が殺し合っているところを止めない嫁がどこにいるんだい?」

「…………それに、敵は別にいるだろう?」

「敵‥‥だと?」

「バベルと死統魔導書(デッドオブグリモワール)の所有者、だよ」

「⁉」

なんだって‥‥?

「エンキドゥ、それはおかしいだろ‥‥バベルは俺に情報を提供してきたんだぞ?なんでソイツが敵になるんだよ‥‥」

「情報提供の理由は?」

「!」

「そう、彼女に情報を渡す理由はない。それに正義感からだとしても、君ではなく警察に伝えるはずだ。なのに彼女は君とゼオンに接触した。‥‥何故だと思う?」

「…………まさか…………」

ギルガメッシュが顔に怒りをあらわにした。

「ギルガメッシュ、君の予想通りだよ。バベルと《バルバ》はゲームをしていたんだ」

「バルバ?」

「死統魔導書の所有者だよ」

「エンキドゥ、その情報をどこから…………」

「さっきシステムに侵入したと言っただろう?その時ログを見つけたんだよ。彼らのメッセージログを」

「そういうことか…………エンキドゥ、一つだけ答えろ」

「何だい?」

「敵はどの方向だ」

「東と南に一人ずつ」

ギルガメッシュは世界から剣を取り出した。

神威

「まさか世界に二本同時に存在することがあるとはな」

「これも運命だろ」

真名解放・空虚之剣(アクロノース)

「ビルガメス・アヌ」

空間を裂く最強の切断技が、陰に隠れていた二人を襲う。

「くっ…………」

ソイツらは防壁を張ったが、即座に砕けた。

壁に衝突。

「…………バベル、バルバ」

俺がそう呼ぶと、女性――――バベルが応えた。

「やあ、…………初めましてだね…………アルタイル君…………」

「何故こんなことをした?」

「何故、だって?」

「お前らはいったい何人殺した!」

「五十七人」

バルバが簡単にそう言ってのけた。

「…………なんでだ!何故できる!」

「正義の為」

「正義だと…………⁉お前らのどこに正義があるってんだ!」

「犯罪者を殺した」

ドゴッ――――――、一発。バベルとバルバの腹に鉄拳が入った。

「悪い、アル坊…………警察としてコイツら見過ごせねェわ」

「同じく」

カインと師匠は警察官だ。

因みに師匠が警視長。カインは警部。

「僕たちの何がおかしい!犯罪者を裁いて何が悪い!」

「お前たちはただの快楽殺人者だろ。要するに犯罪者なんだよ」

「何を――――!」

「お前たちみたいな勘違い野郎を裁くのも、警察…………つうか司法の仕事だ」

この世界では逮捕出来ないが

「もうお前たちの部屋に同僚が向かってる。諦めるんだな…………あほんだら」

しかし

「まだ…………まだだ…………!まだ終わってない!」

「なに?」

「この本で終わらせる!」

バルバはその手に握られた本に文字を入力した。

アルタイル

その本に文字が浮かび上がった。それを読むことで対象を殺せる。

「なんだこれ‥‥読めない‥‥長すぎる‥‥!」

そう、まさに異世界語といえる文章。

「アル」

「アナタ」

「「私たちに任せて」」

「頼む。シズク、アリス」

「行くわよ?」

「ええ」

二人は呼吸を合わせた。

細剣限界突破剣技 《フリューゲル・ストリーム》

「嫌だぁアアアアア!」

「きゃああああああ!」

合計四十連撃にも及ぶ刺突が、バルバとバベルを殺した。

二人は強制ログアウト。戻った瞬間逮捕されることだろう。

「終わったな」

「ええ」

「うん」

「アルタイル」

ギルガメッシュに向き直る。

「最後に話がある」

「…………分かった」

ギルガメッシュに向き直る。

「それじゃあ、あの場所がいいよね?」

流川が指パッチンすると、世界が消えて空白が残った。

「二度目だな、ここに来るのは‥‥それで、何なんだ?ギルガメッシュ」

「…………」

ギルガメッシュは言いにくそうな顔をする。

「はやく言っちゃいなよ。融合して元に戻りたいって」

そう言ったのはエンキドゥだった。

「何を言っている、エンキドゥ!」

「だって、あからさますぎるでしょ。旦那様(マスター)の敵対心を煽って戦うだなんて‥‥勝って止めてくれって言っているようなものじゃない。‥‥もしかして君、ヤンデレ系ヒロインだったの?」

「プッ…………」

「くくっ‥‥」

「ひひっ」

俺以外のみんなが笑いを堪えて腹を押さえる。

「ええい黙れ!‥‥ああそうだ!オレはお前と同化する!」

「…………分かった。来い」

「随分と軽いな」

「もう慣れたよ」

「慣れたくはないな。そんなこと」

「…………共有したいことはいっぱいあるよ‥‥本当に‥‥たくさん‥‥」

「………では、またな。下郎」

そう言ってギルガメッシュは消えていった。

「次は私の番だね」

流川大智。

「まだ何かあるのか?」

「酷いじゃないか。僕にだってあるさ‥‥君に伝えたいこと‥‥それは――‥‥アリスを頼んだよ」

直後に奴は消えた。

そして呆気にとられた心を戻してアリスの表情をうかがうと、その顔は唖然としていた。

親父が口を開く。

「あの男にとって、アリスさんは娘のようなものだったのだろう‥‥‥そしてこうも言いたげだった。『ごめんよ』と。」

「…………!」

アリスの瞳に涙が浮かんだ。その姿は父との別れを悲しむ子供のよう。

そしてアリスが泣いた理由はもう一つ。

《ニューワールド・ファンタズム》の世界はもうないと実感したからだ。

アリスにはあの世界で仲のいい人が大勢いた。その中にはNPCもいただろう。

「‥‥うっ、うぅ‥‥」

「アリス」

「アル‥‥――――‥‥うわぁああああああああ!」

アリスは俺の胸の中で泣いた。

大きな声で。こういう姿を見るのは初めてだな。

そしてまた、一つの世界は消えていく――――――――――。

ピコン。

≫一件のメールが届きました。

――――――お前の脳にオレ達の最大戦闘能力に耐えられるよう、一つの力を与えた。

その名は―――――


《神加速方法(アルティメットアクセル)》


究極の神速‥‥か。

無論肉体上限のないフルダイブ空間でしか使用できないが一瞬だけなら―――いや、考えないでおこう。

その能力は名前の通りあらゆる速度を究極の神速に加速する能力。

仮想体(アバター)の基本速度を上昇させる《ソニックアクセル》。

思考速度を一千倍に加速させる《ブーストアクセル》。

この二つを融合した本当の神速。


―――――これでやっと、アリスとシズクに追いつけるかな‥‥。


剣速で言ったら俺は二人の足元にも及ばない。

俺はほら、色々チート使ってるし。

《二刀流》とか、《アクセル系統》とか、〝飛天〟とか。


◇◇◇


「…………」

帰ってきた‥‥この世界に。

「アル」

「アナタ」

「ん、どうした? アリス、シズク」

二人は身体をもじもじとしながら‥‥。

「「…………膝枕、してくれない?」」

「⁉ ふふふ二人とも何言ってんだ⁉」

「ちょっと、ね‥‥」

「おねがい」

「…………あー、んー‥‥今回だけだぞ‥‥?」

二人はコクコクと頷いた。ソファーに座る俺の膝元に、二人の頭が預けられる。

「…………どうしたんだ?‥‥二人とも」

「…………怖かったの」

「何が―――――あっ」

「ギルガメッシュが言っていたじゃない、死ぬって‥‥」

「いや多分、あれはハッタリ‥‥だと思うけど‥‥いや、そうだと信じたい‥‥」

「それでも、アルが死ぬんじゃないかって、怖かったの‥‥!」

「そうよ‥‥アナタ、自分が死んだらどうなるかぐらい考えなさい‥‥!」

ぐっとくるものを堪えて、

「…………ごめんな、二人とも‥‥」

「いいよ、このままいさせてくれれば」

「私も‥‥今日だけは甘えさせて」

「‥‥おう」

お帰り、俺の日常。

さようなら、寂しい人生。


さようなら、ギルガメッシュ。


さようなら、《父さん》、《母さん》、《爺ちゃん》。


そしてさようなら、《アリエル》。


俺の名前は、星川鉄也。

又の名をギルガメッシュ。

そして又の名を――――――――――黒き剣士、アルタイル。

                                     

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ニューワールド・ファンタズム第二部《二人の英雄》 神成幸之助 @X10AFREEDOM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ