第2話 友達

ワールドマップを見てまず目指したのは、近くにあるルーラ村だ。

「なあエクシア、お前以外の配下は召喚できるのか?エルズとか、アルタイルとか」

『可能ですが、緊急時以外での召喚は推奨できません』

「なんでだ?」

『他の皆さまは、力のコントロールに苦戦しているようです。私の目の前にいるエルズグラウス様は、もう三回のエネルギー暴走を起こしています』

「……確かに、それはマズいな…………もし、俺か配下の誰かがエネルギー暴走を起こしたら、この世界はどうなるんだ?」

『まず間違いなく消滅するでしょう。もし、勇者や魔王が協力して反撃すれば…………或いは』

「なるほどなー、勇者と魔王が…………合計三十六人の最強が協力して、やっと……か」

自分を止めてくれる人がいないというのは、かなりキツイな…………。

勇者というのは、一つの時代に十四人存在する最強の人間だ。剣神と精霊の加護を受けた魔を滅する使命を背負うもの。

 逆に魔王は勇者と同等の力を持つ強力な魔物十二体に与えられる称号だ。

まあ、魔王たちもそんなすぐに世界を滅ぼそうとしている訳ではないので、今は冷戦状態といったところ。


――いざとなったら、そいつらに止めてもらうしかないか…………。


そんな縁起でもないことを考えていると、村の塀が見えてきた。

「すみませーん」

門番と思われる少年に話しかけてみると。

「どうしたんだい、君。森から来るなんて…………自殺行為だよ…………?」

「へ?」

普通の森に見えたけど…………。

「この森は、銀狼の森と呼ばれているんだよ。シルバーウルフがわんさかいるんだ」

「……マジで?」

「マジも大マジ。だから自殺行為って言ったんだよ」

(エクシア)

『シルバーウルフの反応を複数感知。数はおよそ………五四〇体』

(多っ!)

「奇跡としか言えないよ。その背中の剣で応戦したのかい?」

「あ、ああ………結構いい剣だからな…………」

少年はへーっ、と感心している。

いい剣どころではない。

この剣は神器の中でも火力は随一だ。今は六重封印(システムロック)を施して抑えているが解除したときはどうなるか分からない…………。

「余程いい剣なんだろうなぁ…………ねぇ、ちょっと持たせてくれないかな?」

「あ、うん」

鞘から引き抜き、少年に渡す。

少年は茶色の髪に薄い水色の瞳だ…………。

「ありが―――と⁉」

少年の語尾が飛んだのは、剣の重さに重心が前に引かれたからだ。

「重っ…!」

「大丈夫…………?」

少年は冷や汗をかきながら。

「すごいね君、こんな重い剣を使えるなんて…………君、名前は?」

「俺はせ――」

「せ?」

星、そう答えそうになってしまった。危ない危ない、今の俺は――――…………。

「……エイルだ」

「エイル…………エイルか、僕はアルト。よろしく、エイル」

「ああ、よろしく。アルト」

俺が《創造神》エイルの名を名乗れたのは、この世界に碌に信託など下ろしていなかったからだ。だから宗教で俺の呼び名が違う。《エーリーン》だったり、《ラーナ》だったり。

「村を案内しようか?」

「いいのか?警備してるんじゃ…………」

「そろそろ交代の時間だからね。もう来るはずだよ」

「そうなのか…………それじゃあ、よろしく頼もうかな」

「うん!」

少年の笑顔は、太陽のようだった。

どこか懐かしく感じられる、純粋な笑顔。年齢なら、俺より十は下………十六ぐらいだろう。

「ようこそラルーラ村へ、ってね」

「おお…………」

RPGでよく見る村落とよく似ている。

「まさか本物を見ることになるとはな…………」

「何か言った?」

「いいや、何でもないよ…………」

「じゃあ、こっちに来て!」

「お、おう」

しばらく見て、最後に案内されたのは小さな店だった。重厚感のある色の木材。

…………この村の中では一番高そうな店だな…………。

「ここは魔法の杖の店だよ」

「魔法の杖⁉」

驚いた。魔法の杖はかなり高価なものなのに…………。

「材料の鉱石が近くの洞窟にあるからね、こんな村でも作れるんだよ」

(…………あの洞窟かな?)

『はい。あの洞窟からは魔法の力を強く認識しました。恐らくは魔法鉱石かと』

(なるほー…………)

「ねぇ、君の《才能》は何?」

「えっ」

不意を突かれた質問に、思わず詰まる(才能とは文字通り、最も適した職業を示している)。

「サラリーマン!」と答えられたらどれ程良かっただろうか…………。

「……魔法剣士…………かな……」

「へぇ、魔法剣士かぁ!僕は《剣士》なんだ。けど、君は杖を買うべきじゃないかな?」

「あー……確かに」

神のスタイルに最も近い、剣と魔法を同時に扱う《魔法剣士》は利き手に剣、逆の手で杖を持つのが基本だ。もしくは剣に魔法を纏わせる剣主体があるが…………。

「そうだな、杖を買ってみるよ」

「いいね、ここの杖は安いよ」

「ほほぅ……」

安い、そう聞いたら下がるわけにはいかない。質と金が最も釣り合っている取引先を探すのが、俺の仕事だったのだから。

『マスター、杖なら既に…………』

(ああ、《ユグドラシルキャスター》だろ?…………流石に威力が高すぎる…………封印しても抑えが利かないだろ?…………それよりか、現地の杖を買った方が利口って訳さ)

『成程。マスターはそこまで考えていたのですね』

今更だが、この会話は配下同士のネットワーク的なものによって行っている。

まあ、杖を買うのはロマンとか、単に面白そうだからなのだが…………。

「さ、入ろう?」

「…………分かった」

扉を開けると、そこには何百の杖が飾られた景色が広がっていた。

「すっげぇ…………」

「いらっしゃい」

奥から出てきたのは背の低い婆さんだ。

「エイル、この人はこの店の店主、クレル婆だよ」

「おやアルト、客人かい?」

「うん、森から出て来たんだ」

「ほう、あの銀狼の森からね…………あんた、魔法剣士かい?」

「何でわかったの?クレル婆」

「あんたがこの店に案内するのは魔法師か魔法剣士のどっちかだからね。剣を持っているから予想を付けたのさ…………あんたも、もう少し年取ったら分かるようになるさね」

「へーっ…………」

―――…………やり手だ。この婆さん…………。

「エイル、だってね…………あんた、右利きだね」

「…ああ、そうだが…………」

「それなら、いい杖があるよ」

婆さんは笑みを浮かべて、カウンターの棚を開ける。

「これさね」

取り出された箱の中には…………一本の短杖が。

「クレル婆…………これって…………」

アルトが見入ったように杖を見つめる。

「銘はクリカラ。全系統の魔法に適しているさね」

「凄い…………」

思わず口にしたそれを聞いた婆さんが。

「これはあんたにやるさね」

「え⁉」

「クレル婆⁉」

「未来の投資さね。…………あんたには未来を感じる。…………いつか数十倍で返しな」

「……ありがとうございます…………クレル婆」

「はい、毎度」

杖を受け取ると、その重厚感に気圧されそうになる。

元々違う世界にいた俺にとって、魔法の杖なんてものは想像の中にある代物だったんだ。

…………いつまでも見ていられる…………。

「ワオオオオオッ!」

「「「⁉」」」

ドデカい咆哮。

「今のは…………」

「銀狼の森の方から…………」

「シルバーウルフさね!」

アルトは腰から剣を引き抜き、店を飛び出していった。

「アルト!駄目だ―――――――!」

―――無理だ…………あの剣じゃ…………シルバーウルフは殺せない…………!

シルバーウルフの毛皮は硬く、その牙や爪は高級な武器素材になる。

「…………クソ…………」

俺も、店を飛び出していた。

背中からナイトプレートを引き抜き、全速力で走り抜ける。

―――ああ、転生(仮)前より圧倒的に速い。

既に戦い始めているアルトの周りで、村人が何人も死んでいく。

広場には子供も老人も関係なく、死体が転がっていた。

「…………ッ⁉」

 ―――死…………――――――

たとえそれが、偽物の命だろうが、本物だろうが…………、俺は―――…………!

「…………―――エクシアァ!」

『はいマスター』

「俺の攻撃を、制御しろ。村の人に被害が及ばないように、だ」

『YES。マスター』


―――ぶっつけ本番だが…………上手くいってくれ…………!


「…………《フラン》!」

炎系統魔法のレベル一。しかし根本的魔力の多さで、その炎は巨大な火球へとなっていた。

「燃えろぉ!」

杖の先の炎を、固まっているシルバーウルフに放つ。

アルトを含む戦士たちが、俺に驚愕の目を向けている。詠唱破棄はかなりの高等テクニック。

シルバーウルフだけが焼けた。制御はエクシアのおかげだ。

「…………まだいるのか」

怯えている狼、そして一匹だけ…………俺の前で立つ狼が。その眼は、輝いていた。

「……そうか………死ぬなよ………」

俺はナイトプレートを天に掲げた。

ナイトプレートを黒い風が覆う。

更に稲妻が重なる。

そしてそれが…………俺とエクシアの制御下に入った。


「――――――――――――〝竜牙餐喰〟(ドラゴンイーター)」


黒い力が竜の形になり、シルバーウルフを喰った。

そして、狼は…………全部生きていた。

無論傷ついてはいるが、生きている。

シルバーウルフ達は何故自分が生きているのかが分からずキョロキョロしている。

「…………俺の配下に下れ」

シルバーウルフの長と思われる一頭が跪くと、他の狼もそれに続いた。

「…………よろしくな…………回復(ヒール)」

狼の傷が嘘のように消える。

「…………ねぇ…………エイル…………?」

アルトの声は、震えていた。

―――当たり前だろ。お前は厄災を目の前に、怯えずに立てるのか?

過去の自分から言われているような気分だ。…………無理だな、そりゃ。

「なんで…………なんでシルバーウルフを…………殺さなかったの…………?」

「なぁアルト」

俺は、上司になった時を思い出して。

「……なに」

「みんなが生き返る、って言ったら、どうする?」

「…………え?」

「生き返るって言ってんだよ、いや、…………絶対に生き変えさせる」

――――絶対に、だ。

「だから、戦士のみんなも、これから見ることを絶対に秘密にしてくれ」

周囲に呼びかけると、皆が無言で何度も頷いた。

「なら…………始めるぞ、エクシア」

『YES、マスター』


スキル

《使徒統者》(イオラートス)


脳の中で、スイッチが入る。

このスキルは、使徒たちが持つ権能を超えるスキルだ。

能力は、配下の召喚と、その権能を自由自在に使うことが出来る力。


「十二番、リーノス!」

召喚したのは初老の時間天使。権能は時間停止。

「領域停止(エリアストップ)」

これ以上の悪化が無いようにする。

「六番、アリス!」

次は黄金の髪と青い瞳の妖精姫。彼女の権能は、自然。

「自然の恵み(オーロラロード)」

自然治癒力上昇。死んでいないのなら全回復できる。

…………気が付いた者は立ち上がっているな…………。

「五番、ラーテム!」

真紅の不死鳥。そして権能は、生命の炎。

「命の火花」

失った命の灯火を、再起させる―――…………!

死んだはずの者たちが、ゆっくりと目を覚ます。

そして俺を、村を包んだのは、大きな喜びと、歓声だった。
















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