第4話 勇者たち
「俺達は選ばれたんだ。アルフヘイム王国の為に戦おうぜ!」
森田和夫が声高らかに宣言すると、その言葉は王城の広間に響き渡った。彼のギフトは「
今のこの集まりも、彼が「仲間家で相談させてほしい」と言って、場所を借りて集められたものだった。
自信に満ちた表情を浮かべ、まるで自分が当然のようにリーダーであるかのように振る舞う彼に、周囲のクラスメイトたちも自然と視線を向ける。
「和夫なら、やれるかもな……」と誰かが呟き、他のクラスメイトたちも少しずつ賛同の気配を見せ始めた。
だが、摩耶は心の中で複雑な感情を抱えていた。和夫のリーダーシップには何も異論はなかったが、そもそもこの異世界のために戦うという考え自体にまだ迷いが残っていて、自分のギフト「影の操者」も、どう使うべきなのか全く分からないままだ。
その様な自分の事ですらはっきりしていないのに、他人に何かを言うだけの余力は摩耶にはなく、今は流れに従うしかないのかもしれないと思う。
摩耶は胸の中で葛藤しつつも、和夫の言葉に対して黙って頷いた。
和夫の言葉に促され、クラスメイトたちの間で「アルフヘイムのために戦う」という流れが生まれた。しかし、その後の具体的な行動について話し合ううちに、意見は次第に分かれ始めた。
「まずは強くなることだろ?」
「そりゃそうだ。でも、どうやって強くなるんだ?」
意見が交わされる中、和夫はリーダーとして自らのギフトに頼りつつ、皆をまとめようとするが、考え方の違いが浮き彫りになっていく。
「訓練場で剣や魔法の練習をするべきだ。基本を押さえないと!」と主張するのは、剣士のギフトを持つ工藤紘一。
「いや、それじゃ遅い。実戦で慣れていくべきだ。ダンジョンか何かに行って、戦いながら鍛える方が早いだろ?」
冒険に飛び出す派の意見を主張する者も少なくなかった。実際に異世界のモンスターと戦って経験を積み、力をつけるべきだ主張するのが「
「でも、それは危険すぎるよ。私たちはまだ力が足りない……」
癒し手のギフトを持つ少女,野崎すみれは慎重派だった。戦いに巻き込まれて命を落とすリスクを考えると、まずは安全な場所で準備を整えるべきだと主張する。
「でも、時間がないかもしれないんだぞ?」
「だけど、準備が不十分なまま突っ込んだら、全滅だってありえるんじゃない?」
議論はますます白熱し、クラスメイトたちはそれぞれの意見をぶつけ合う。訓練場で安全に学ぶべきか、実戦で経験を積むべきか。それとも、他にもっと良い手段があるのか。
摩耶はこの状況をじっと見つめながら、自分がどうするべきかを考えていた。和夫がリーダーとして決断を下そうとする中でも、誰もが自分の意見を譲ろうとしない。そして、摩耶自身も「影の操者」という自分のギフトの使い道が分からないままで、どう行動するべきかまだ定まっていなかった。
「どうするのが一番なんだろう……」
摩耶は自問しながら、議論の行方を静かに見守っていた。
結局、意見がまとまらないまま、時間切れとなった。皆が自分の考えを譲らず、解決策を見いだせないまま、空気は少し重くなっていった。
「まあ、明日また話し合えばいいだろう。今は時間がないし、準備も必要だからな」
和夫が仕切るように言い、議論は一旦中断されることとなった。
実は、今晩は国王を交えた晩餐会に摩耶たちが招待されていたのだ。彼らは異世界に召喚された「勇者」として、アルフヘイム王国にとって非常に重要な存在であり、国王自らが歓迎の席を設けてくれていた。晩餐会のため、特に女子たちは支度に時間がかかるため、一旦解散となり、次の話し合いは明日の昼に持ち越されることが決まった。
摩耶はため息をつきながら、これからのことをぼんやり考えつつ、自室へと戻っていった。異世界に召喚されたという非現実的な状況の中、これからどうすれば良いのか、自分が何をすべきなのか、明確な答えはまだ見つかっていなかった。
「明日、もっとちゃんと話し合わないと……」
彼女は心の中でそう決意しながら、晩餐会に向けた支度に取り掛かるのだった。
◇
晩餐会はとても華やかだった。王城の大広間には、美しい装飾が施され、キャンドルの柔らかな光が煌めいている。テーブルには豪華な料理が並び、色とりどりの花が飾られ、まるで夢のような光景が広がっていた。
国王をはじめとする王族たちが迎え入れてくれ、摩耶たちクラスメイトもその特別な雰囲気に緊張しつつも興奮を隠せなかった。アルメア王女は特に優雅で、まるで場の中心に立っているかのように存在感を放っている。彼女の優しい笑顔は、摩耶たちに安心感を与え、異世界での彼女たちの役割を少しだけ明るいものにしてくれた。
「この国のために力を貸してくれること、心から感謝します」と国王が語る。彼の威厳ある声は、摩耶たちの心を打つ。国王の言葉には、彼らが期待されているという重みが感じられた。
晩餐会の進行はスムーズで、様々な料理が次々と運ばれてくる。肉料理、魚料理、そして甘いデザートまで、どれも見た目が美しく、味も素晴らしい。摩耶はその美味しさに思わず目を輝かせ、普段の食事とはまるで違う贅沢な時間を楽しむことができた。
他のクラスメイトたちも、少しずつ和やかな雰囲気に溶け込んでいく。和夫は周囲の人々に積極的に話しかけ、場を盛り上げようとする姿が見えた。彼はやはりリーダーとしての素質を発揮しているようだ。
摩耶はそんな彼を見つつ、心の中で自分のギフトについて考えを巡らせていた。周囲の期待に応えるために、これからどうやって行動するのか、今は晩餐会の華やかさに身を任せるしかない。
「明日、また話し合うことになっているけれど……」
摩耶は心の片隅で不安を抱えつつも、この特別な夜を楽しむことに決めた。彼女は自分の力を見つけ、仲間と共にこの異世界での冒険を切り拓くための第一歩を踏み出す準備をしているのだった。
◇
「何でこんなことになっちゃったのかなぁ?」
眼を閉じて意識をギフトに向けると、自分のギフトについての詳細が頭の中に流れ込んでくる。
美也子に与えられたギフトは「闇賢者」
魔法系のギフトの中でも上位にあたるらしいのだが……
賢者の名がさす様に、あらゆる魔法が使えるようになるのだが「闇」とついていることからも分かるように、その中でも特に闇に属する系統の魔法と相性が良いらしく、逆に光に属ずる魔法……治癒魔法とか浄化魔法等は使えなくはないが苦手のようだった。
しかし、それも熟練度が上がってからの事であり、いまはどうやって魔法を使うのかもわからない状態だ。
「彼方クン……どうすればいいのかなぁ……助けてよぉ。」
美也子の心は不安で塗りつぶされ押しつぶされそうだった。
その心を支えているのは、いつも夕方図書室で顔を合わせる男の子の存在。
言葉を交わしたこともなかったけど、美也子の心は彼に惹かれていた。
あの日も、美也子は今日こそ声を掛けようと、閉室した図書室を出た後、彼の後を追いかけたのだ。
しかし、彼方の後ろ姿を追いかけるうちに、美也子の心は不安と緊張でいっぱいになっていた。
「私、何を言えばいいんだろう……」
結局、声を掛ける勇気が出せず、彼女はただ、去っていく彼の背中を見つめることしかできなかった。
だから、今度こそは、と勇気を振り絞って、あの朝、彼の教室まで向かったのだ。
手にしていたのは、出たばかりの新刊。きっと彼も気に入ってくれること間違いなしの文庫本。これを貸して、読んだ後は感想を言い合うのだ。
そう心に決めて一歩を踏み出した結果がこれだ。
彼は優しそうな雰囲気で、いつも図書室で本を読んでいる姿が印象的だった。その無邪気な姿を思い浮かべると、美也子は少しだけ気持ちが和らぐ。
でも、今はそんなことを考えている場合ではなかった。彼女が異世界に召喚され、仲間たちと共にどうやって戦っていくのか、未来に対する不安が大きくなっていく。何をどうすればいいのか、心の中で混乱が渦巻いていた。
「彼方クン……私、どうしたらいいの?」
美也子は心の中で彼に助けを求めた。その時、彼女はふと、彼が召喚されていないのがおかしいことに気付く。
「彼は摩耶ちゃんの隣にいた。話してるの見たから間違いないよ。」
朝霧摩耶は美也子の幼馴染だ。想いを寄せる彼が、摩耶と同じクラスなのは知っていた。
というか、一緒のクラスだと分かったからこそ、訪ねていこうと思ったのだ。
彼に声を掛けることが出来なくても、摩耶を訪ねていったという言い訳が出来るからだ。
っと、そんな事より、彼が召喚されているという可能性の方が大事……と、都は思考を戻す。
あの時、教室の中にいた人数と、召喚された人数はほぼあっていると思う。だけど、召喚された人たちの中に彼方の姿がない
色々思い出してみると、彼だけ召喚されていないのはおかしい。
「もし彼が召喚されているのなら……」
彼女の心に希望が湧く。
もし彼方にあえて、彼が何か助言をくれるなら、少しでも不安を軽減できるかもしれない。美也子は、部屋を飛び出し、摩耶の元へと向かう。
こんなこと相談できる相手は摩耶しかいない。
美也子はもう一度彼にあうために、自分に出来ることをしよう、そのために、少しずつでも前に進もうと決意した。
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