第3話 異世界召喚!?
「……ん、ここは?」
摩耶は目を覚まし、ぼんやりとした意識の中で直前の記憶を辿る。確か教室にいたはずだった。授業の最中、突然の眩しい光に包まれた瞬間までは覚えている。しかし、目の前に広がる光景はまったく異なるものだった。
広がるのは見たことのない大地、遠くには雄大な山々、そして頭上には異世界のような色合いの空。見慣れた教室の景色とはまるで違う。
「ようこそ、異界の勇者たちよ。我らの召喚に応じて頂き感謝いたします。」
不意に聞こえた声に、摩耶は驚いて目を向けた。そこには、荘厳な衣装をまとった何人かの人々が立っている。彼らの姿からは、この場所が彼女のいた世界ではないことを確信させる何かが感じられた。
「勇者……?」
摩耶の心には不安が広がる。隣に立つクラスメイトたちも、同じように状況を把握できずに困惑しているようだった。
「勇者…って、どういうこと?」
摩耶は混乱したまま、目の前の人物に問いかける。しかし、その人物は微笑みながら続けた。
「我らの世界は、今まさに危機に瀕しています。邪悪な勢力が広がり、我々だけでは抗うことができません。そこで、異界から強大な力を持つ勇者たちを召喚する儀式を行いました。それが、あなたたちです。」
摩耶は周囲を見渡し、クラスメイトたちの表情を確認する。皆同じように驚き、恐れ、不安を隠せずにいた。
「ちょっと待って…私たち、ただの学生です!戦うなんて無理です!」
クラスメイトの一人が声を上げる。しかし、召喚者たちは冷静にその声を受け止める。
「確かに、今のあなた方は何の力も持っていないかもしれません。しかし、この地においては、あなた方には特別な力が備わるのです。勇者としての力が、あなたたちの中に宿っているはずです。」
摩耶は息を飲んだ。自分が特別な力を持っている…?そんなことは今まで考えたこともなかった。
「異世界チート、キタぁぁぁ……」
眼鏡君たちがガッツポーズで騒ぎだすのを横目で見つつ、摩耶は目の前の召喚者たちを見つめる。
忠誠を舞台にした映画に出てきそうな、如何にも「神官です」と言った法衣を纏う男達の中心にいて、先程から喋っているのが、年の頃は自分たちと変わりない様に見える少女。
ただ、その身体から溢れる、気品の様なモノ……オーラとでもいうのだろうか?それに圧倒され、彼女が、ここの中心という事を嫌でもわからされる。
「あなた方には選択の余地があります。この力を受け入れ、この世界を救うために戦うか、あるいは元の世界に帰る道を探るか。」
召喚者の言葉は重く、全員の心に響いた。
「どうする…?」
摩耶は無意識に呟いたが、まだ答えは出ていない。目の前に広がる未知の世界、そして課せられた重圧に、彼女の心は揺れていた。
「帰れるの?」
クラスメイトの一人、いつも控えめな少女が震える声で呟く。その言葉は、その場にいた全員の心を代弁していた。
「……私たちにはあなた方を元の世界へ戻す力はありません。しかし、女神様の御力を賜れば、その可能性はあるのです。」
神官の一人が静かに答えた。その口調には、どこか後ろめたさや無力感が滲んでいた。
「女神様…?」
摩耶が反応する。異世界に神が存在するという話は物語でしか聞いたことがなかった。しかし、この状況では何が現実で何が虚構なのかも判断がつかない。
「そうです。我々の世界を創り、守ってくださる女神様です。しかし、女神様に直接会うことは容易ではありません。多くの試練があなた方を待ち受けているでしょう。ですが、その先に女神様のお導きがあれば、帰還の道も見つかるかもしれません。」
「試練…」
少女の顔が曇り、他のクラスメイトたちも同様に不安を隠せない。
「それしか道はないの…?」
一人が恐る恐る尋ねると、神官は厳かに頷いた。
「そうです。しかし、試練の中で得られるものは、それだけではありません。あなた方はこの世界において、強力な勇者としての力を手に入れるのです。それが帰還への鍵にもなるでしょう。」
摩耶はその言葉を聞きながら、目の前に広がる新たな世界を見つめた。自分たちはただの学生だったのに、今や世界を救う「勇者」として選ばれてしまった。その運命を受け入れ、帰るための手段を探し出す……。摩耶の胸の中にはまだ決意が固まっていない迷いが渦巻いていた。
「以前の勇者は世界を救い、女神様に謁見して元の世界へ帰ったという逸話が残っています。どうか、皆さまの御力をお貸しください。」
少女が放ったその言葉が空気を切り裂くように響く。摩耶はじっと聞きながら、違和感を覚えた。それはまるで、自分たちを戦いへと導こうとしているような、都合のいい話に聞こえる。しかし、現実的に考えて、今の状況から抜け出す他の道が見つからないことも確かだった。
摩耶は視線を落としながら、自分の胸の中で葛藤していた。帰りたいという強い気持ちは当然あったが、帰るためには、この異世界で戦う必要が有る。何が待ち受けているのか、全く予想もつかないのに、そう簡単に決断できるものなのだろうか?
クラスメイトたちの表情も一様に険しく、誰もが同じような不安を抱えているのがわかった。
「でも、私たちには戦う力なんてないんじゃ……」
また別のクラスメイトが弱々しく言う。
その言葉は摩耶の心にも重く響いた。自分たちはただの学生だ。剣も、魔法も、この異世界で何が求められるのかすらわからない。
「あなたたちは、ここで勇者としての力を得るのです。戦う力は、あなたたちの中に眠っている。それを呼び覚ますのは、これからのあなたたち次第です。私達は、その手助けの助力を惜しみません。」
召喚者たちの言葉は、どこか確信を持っていて、反論の余地を与えないものだった。だが摩耶は、何かが引っかかる感覚を拭いきれない。
「……もし、失敗したら?」
摩耶は小さく、しかし確実に問いを投げかけた。彼女の中で、その可能性がどうしても気になっていた。
「失敗した場合、我々の世界は滅びるでしょう。ですが、女神様のお力があれば、あなたたちが敗北することはありえません。」
まるで、失敗など存在しないかのように軽々しく言われたその言葉に、摩耶の胸中の不安は膨らむばかりだった。しかし、他に道がないこともまた、冷徹な事実だった。
「いつまでも屋外にいては、気も休まらないでしょう。」
召喚者の少女が優しい声で言い、麻耶たちを王城へと案内し始めた。
摩耶は黙ってその後ろについていく。何もできず、何も言えず、ただ足を前に運ぶことしかできなかった。右も左もわからない異世界で、自分たちの常識がどこまで通じるのかもわからない。不安と恐怖が胸の中で渦巻いているが、この場で召喚者たちに逆らうわけにもいかない。
「ついていくしかない……」
摩耶は心の中でそう呟いた。この異世界で何が待ち受けているのか、自分たちがどんな役割を果たすことになるのか、全く予測がつかない。けれど、今はとにかく、目の前にある現実を受け入れるしかなかった。
王城へ向かう道すがら、摩耶は周囲を見渡してみた。壮麗な建物、見慣れない植物、そして行き交う人々の服装や言葉も、自分たちの世界とはまるで違う。それが、異世界に来たという現実をさらに突きつける。
「大丈夫……私たちなら、何とかなる……」
自分に言い聞かせるように、摩耶は心の中で呟く。クラスメイトたちもそれぞれに不安そうな顔をしていたが、摩耶はあえて口を開かず、彼らもまた同じ気持ちだろうと察した。
やがて、目の前にそびえ立つ王城が見えてきた。
「ようこそ、我がアルフヘイム王国へ。第一王女アルメアの名において、勇者様方を歓迎いたします。」
その言葉を聞いた瞬間、摩耶は驚きとともに、彼女たちを導いてきた少女が実は王女であったことを知った。落ち着いた口調と堂々とした振る舞いが、ただの召喚者ではないことを思わせたが、まさか王国の第一王女であるとは思わなかった。
アルメアと名乗った少女は、柔らかい微笑を浮かべながら、摩耶たちを迎え入れていた。だが、その背後に広がる壮大な王城と、威厳に満ちた周囲の騎士たちを見て、摩耶はますます緊張が高まるのを感じた。
「アルメア……王女だったんだ……」
心の中で呟きつつも、麻耶は口を閉じたまま、ただ立ち尽くしている。今の自分たちがどう振る舞うべきかも分からず、言葉を発することさえ躊躇われた。
「皆さまは突然の召喚で疲れもあるでしょうが、まずはどうぞ、こちらで鑑定を受けてください。」
アルメアは優雅に手を差し出し、王城内の大広間へと案内を続けた。
摩耶たちは無言のまま、彼女についていくしかなかった。どんな異変が待ち受けていようとも、今はまだ、この王女に身を委ねるしか道がないように思えた。
「では皆さま、一人ずつ、この水晶に手を当ててください。あなた方に女神様が与えたギフトが表示されます。それらを確認した後、客間へとご案内いたしますわ。」
アルメアの落ち着いた声に従い、クラスメイトたちは次々と水晶の前に立ち、手をかざしていった。水晶は淡い光を放ち、それぞれの「ギフト」を示すかのように反応していく。
最初に水晶に触れたクラスメイトの一人、背が高くてスポーツ万能な男子が、水晶に手をかざすと、青白い光が一瞬輝き、そして浮かび上がった文字が示された。
「『剣士』……だって」
彼は困惑しつつも、少し誇らしげな表情を浮かべた。
次に手をかざしたのは控えめな女子。彼女の手に触れた瞬間、水晶はふわりと優しい緑色の光を放ち、「癒し手」という言葉が浮かび上がった。彼女は少し驚いた様子だったが、どこか安心したようにも見えた。
次々にクラスメイトたちが手をかざしていき、それぞれの能力が表示されていく。「魔法使い」「狙撃手」「森の守護者」など、皆それぞれに異なる役割を与えられていた。
そして、いよいよ摩耶の番が来た。摩耶は一瞬、心臓が高鳴るのを感じながら、水晶の前に立った。右手をゆっくりとかざすと、水晶は一瞬強い光を放った。
「……え?」
摩耶は目を細めながら、その光に注視した。そして浮かび上がった文字を見たとき、胸がざわついた。
「『影の操者』……?」
周囲が少しざわめき始める。麻耶のギフトは、他の誰とも異なり、どこか不気味で謎めいているように感じられた。彼女自身もそれがどんな力なのか、すぐには理解できなかったが、不安な予感が胸の奥に広がっていくのを感じた。
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