第3話:ちょっと多いよ
妖精の帰り
そこは妖精という高次の存在が行き交う不思議な空間であり、世界中のあらゆるスポットに繋がっていると言われる。
そんな異界の辺境に『
風情の
「既に知っての通り、『
「ははっ。俺らの誘いを蹴った挙句、学生
「ダッサ、『
「やはり
幹部四人は、同僚の敗北を
「さて、早速じゃが本題へ入ろう。『
天魔の下位四人衆は、秘密裏に徒党を組み、上位の者たちを抹殺せんとしていた。
ちなみに……ラグナへこの話を持ち掛けたところ、「プライドはねぇのか?」と
「行くなら、
筋骨隆々の若い男が堅実な案を出し、
「いやいや、
「逆に
全身に包帯を巻いた
邪悪な企みが盛り上がりを見せる中、
「――いやぁ、キミたちには無理だと思うな」
招かれざる客の明るい声が響く。
「「「「なっ!?」」」」
屋台の隅へ目を向けるとそこには、漆黒のローブを
「やぁ、初めましてだね」
パイプ椅子に腰掛けた彼は、軽くヒラヒラと手を振る。
天魔四人の『家族入り』は既に
「大将、大根とたまごと
ボイドは
「あぃよ」
(こやつ、いつからそこに!?)
(まるで気配がしなかったぞ……っ)
(あたしの魔力感知をすり抜けるなんて……ッ)
(恐るべき
それぞれが警戒を強める中、リーダー格の
「貴様その姿……ボイドじゃな?(声の張り具合からして、十代半ばから二十代前半……まだ若い)」
「うん」
なんとも軽い返事をした彼は、仮面の上から熱いお茶を
「大魔教団の最高幹部『天魔十傑』……よくよく考えたんだけどさ、
「……多い……?」
「そっ。キミたちが一人一人順番に襲って来たら、それだけで十回も戦わなくちゃいけない。だから、『下半分』を
彼は淡々とした口調で告げる。
「ここで四人
これ以上ない侮蔑と挑発を受けた天魔の下位組は、
「「「「……あぁ゛……?」」」」
凶悪な魔力を
凄まじい殺気が吹き荒れる中、
「一対四でいいよ。ほら、掛かっておいで……
涼しい顔をしたボイドは、
「あんまり調子に乗るなよ、ゴミカスがッ!」
最も短気な第九天の女が、もはや我慢ならぬと言った風に駆け出した。
「これでも食らいな!」
毒の塗られた短刀が、正確に
「――
「なっ!?」
驚きは二つ。
自分の斬撃がすり抜けたこと。
名前と序列はおろか、固有魔法まで割れていること。
「いきなり天魔を四人も送ったら、ボイドタウンが混乱するかもだし……軽く揉んでおこうかな」
「<虚空>だかなんだか知らねぇけど……ここまで詰めりゃ、あたしの勝ちだ! <精神掌握>!」
彼女の固有は、生物の心を支配する。
有効射程こそ30センチと短いものの、決まれば『必殺』の強力な魔法だ。
「残念だけど、ボクに精神支配は効かないよ」
精神系の魔法に『完全耐性』を持つボイドは、大根をハフハフと口にする。
「くそ、ふざけやがって!」
リーネは再び短刀を振り下ろすが……。
その一撃は、
「この……離しやがれッ!」
左手で顔面を殴り付け、右脚で急所を蹴り上げた。
その結果、手足まで取り込まれ、状況はさらに悪化する。
「ふふっ、精神系の固有はレアだからね。キミは大切にコレクションしよう(<精神掌握>を上手く使えば、『幼児化したゴドリーくん』を治せるかもしれない。……よし、また後で実験してみよっと)」
「い、いや……お願い、助けて……っ」
必死に仲間へ
これを受けて、第七天が迅速に動く。
「カァッ!」
しかし、
「ぁ、う゛、ぁああああああああ……!?」
その魔法は、味方を焼くだけ。
ボイドは何食わぬ顔で、牛すじの
「まずは一人」
「き、貴様……リーネをどうした!?」
「
返って来たのは、
「……か、家族に……?」
「い、イカレてやがる……っ」
「なんなのだ、この
あまりにも独特な表現を受け、残された三人は体を震わせた。
ただ、彼らはいくつもの
<
(
(うむ、任せたぞ)
(了解)
張り詰めた空気が満ちる中、
「……大将、ちくわとこんにゃくもいい?」
ボイドは手抜かりなく、追加のオーダーを飛ばした。
「あぃよ」
「ありがとう」
白い湯気の立つ小皿が手渡された瞬間、
「ゼェエエエエエエエィ!」
全身に包帯を巻いた痩身の剣客が、第八天が凄まじい速度で
「――<
固有魔法を全開にして、渾身の
しかしその一撃は、
「ば、馬鹿、な……っ」
「第八天ケラトゥス、今のは
両者の魔法は、純粋に『格』が違った。
「ぐっ、ぉおおおおおおおおおおお!」
ケラトゥスは苛烈な連撃を繰り出すが、いずれも竹串に防がれてしまう。
(<万断>は、汎用性の高い斬属性。建築・加工分野に必須の存在だ。もう明日から働いてもらうとしよう)
(この男、なんという技量だ。これぞまさに『神域の剣術』……っ)
激しい
「あっやべ」
まさに
「が、ふ……っ」
第八天の上半身と下半身が、綺麗に両断された。
「ごめん、ちょっとやり過ぎちゃったかも」
昔から手加減の苦手なボイドは、ケラトゥスのもとで腰を下ろし、回復魔法を使う。
敵に背を向けたその姿は、どこからどう見ても隙だらけ。
第十天と第七天がこの機を逃すわけもなく、
「「――馬鹿めッ!」」
天高く跳び上がった二人は、
しかしそれは、
「が、は……っ」
瀕死のケラトゥスを串刺しにした。
「「なっ!?」」
「うわ、酷いなぁ……」
<虚空流し>によって、刺突を無力化したボイドは、まるで
「これでよしっと」
回復魔法でケラトゥスの胴体を繋げ――そのままポイと黒い渦へ放り込む。
「さぁ二人目だ」
「くっ、この野郎……!」
「やめぃ! 下がるのじゃ、バルザック!」
第七天の忠告も聞かず、第十天は
「ドラァアアアアアアアア!(<虚空>は空間支配系の固有! 空間さえも捻じ曲げる、俺の『神速連撃』なら……突破できるッ!)」
両の拳による
「第十天バルザック、確か
ボイドは左手一本で、簡単に
魔力強化さえ用いず、『
(くそ、こっちは固有をフルで使ってんのに……あり得ねぇだろ!?)
「えっ?」
バルザックの視界が『死』で埋まる。
「ヘバッ!?」
ボイドの軽いジャブが
「フィジカルエリートは大歓迎だよ。建築・運搬・鍛冶、なんにでも使えるからね」
「こ、の……化物、め……っ」
バルザックの屈強な肉体は、黒い渦に
「これで三人目」
まるで大人と子ども――否、巨龍と羽虫。
ボイドと天魔四人の間には、絶望的な力の差があった。
「さぁ、キミで最後だよ、第七天メレジール」
「ぐっ……カァッ!」
腰の曲がった
並の魔法士なら即死だが……ボイドは当然のように無傷。
爆発という現象そのものを虚空へ消し飛ばしたのだ。
「だから、それは効かないって……んっ?」
そこにメレジールの姿はなかった。
圧倒的な実力差をわからせられた彼は、全速力で逃げ出したのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ(無敵の固有・
半狂乱のメレジールが、
「……はっ……?」
いつの間にか
<虚空渡り>によって、強制的に飛ばされたのだ。
「おいしいおでんを食べて家族になるか、地獄の苦しみを味わって家族になるか、どっちがいい?」
突き付けられた二択の問い。
当然、逃げ道も拒否権もない。
「……ふぅ……」
第七天は大きくため息をつき、
「――大将、がんもどきを」
「へぃ」
全てを諦めて、おでんを頼んだ。
「ふふっ、
そうして
「それじゃ、また後でね」
ヌポン。
ボイドタウンへ送られた。
「ごちそうさま、おいしかったよ」
「まいど」
サッと会計を済ませたボイドは、店の外でグーッと体を伸ばす。
「
いつにも増してご機嫌な彼は、妖精の帰り
(レアなコレクションが四つも増えたし、メインルートは大幅にショートカットできたうえ、主人公に入るはずの経験値までごっそりと奪い取れた!)
(ふふっ、第四章も最高の滑り出しだね!)
こうして大魔教団の最高幹部を、
(この調子で、サクッと
メインルートの攻略に向けて、さらなる悪事を
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