第33話:『獣災』ラグナ・ライン
『極悪貴族』ホロウ・フォン・ハイゼンベルクと『獣災』ラグナ・ライン。
ホロウはいつものように『待ち』の姿勢。
威風堂々たるその姿は、
対するラグナは、『攻め』の姿勢。
「くくっ、どうした、来ないのか? まさかとは思うが、臆病風に吹かれたのではないだろうな?」
「馬鹿言え。てめぇをどうやって殺すか、じぃっくり考えてたんだ、よッ!」
先に動いたのは、やはりラグナだ。
召喚士の彼は――僅か一足で間合いを殺し、ホロウに殴り掛かった。
(後衛職の俺が、自分から詰めて来るとは、夢にも思わねぇよなァ!?)
常識という隙を突いた見事な奇襲。
だがしかし、
(ふふっ、
ホロウには原作知識があり、当然のように知っている。
ラグナ・ラインが『初見殺しの大ボス』、極めて珍しい『近接特化型の召喚士』であることを。
「お゛らぁッ!」
凶悪な右ストレートに対し、
「はっ」
「なッ!?」
「そぉら、吹っ飛べ」
ちょっとしたカウンターとして、ラグナの胸板を軽く蹴り付ける。
次の瞬間、
「が、ハッ!?」
彼の巨体は地面と平行に飛び、本校舎の壁に激突した。
「くくっ、驚いたぞ。まさかその鈍重な動きで、自信満々に詰めて来ようとは、夢にも思わなかった」
邪悪な笑みを浮かべたホロウは、相も変わらず煽り倒す。
彼の行動は『攻撃+
「がはっ……げほ、ごふ……ッ」
ラグナは
粉々に砕けた
もはや瀕死の重傷であり、本来ならば『勝負アリ』だが……。
大魔教団の幹部は、『
「まだ、だ……ッ」
彼は
それと同時、
「ふしゅぅうううううううう……っ」
粉砕された胸骨と痛んだ臓器が、
「ほぅ、<
ホロウが嬉しそうに微笑む中――ラグナは口内の血を吐き捨て、ゆっくりと立ち上がる。
「はっ、驚いたぜ。まさかそんな細いナリで、バリバリの前衛職だとはな」
「こちらは心配になったぞ。まさかそんな太いナリで、虚弱体質だったとはな」
「チッ、口の減らねぇガキだ……」
「見せてやる、近接戦闘に特化した召喚士の
天地を揺るがす暴力的な大魔力を解き放つ。
「――<
右腕に『虎』の
左腕に『鬼』の棍棒。
右脚に『象』の
左脚に『龍』の
「ハッハァ!」
(こ、これが大魔教団幹部の全力……っ)
遠巻きにホロウを見守るニアは、その
そしてホロウもまた、『強烈な衝撃』を受けている。
「こ、これは……っ」
「がははっ、イイ顔になったじゃねぇか! この俺を怒らせるとどうなるか、今からたっぷりと教えてや――」
「――ぷっ、くくく……ッ」
ホロウは、もはや我慢ならぬといった風に吹き出した。
「……あ゛ぁ?」
「い、いや、すまない……。まさかお前に、そんな『コスプレ趣味』があったとは……っ」
原作ホロウの『ナチュラル煽り』を受け、ラグナの我慢が限界を突破した。
「……てめぇだけは、ブチ殺す……ッ」
金色の髪が
憤怒に呑まれた野獣は――音の速度を超えた。
「ほぅ」
「終わりだァ!」
ホロウの懐深くに潜り込んだラグナは、渾身の正拳突きを放つ。
「――
肉を裂き骨を
(さて、ここからが『問題』だ)
ホロウは手刀を振るい、軽くトンと叩き落とす。
その結果、
「ぐ、ぉ……ッ」
『虎』を
「こんの……絶技・鬼落としッ!」
振り下ろされた『鬼』の棍棒に対し、
(なんとかして、ラグナを『お持ち帰り』したいんだけど……どうするのが丸いかな?)
手のひらで優しく受け止め、そのままグシャリと握り潰す。
「ま、まだまだァ! 絶技・
『象』の
(どこか人目のないところまで、吹き飛ばせたらベストなんだけど……。
左の肘で受け止めて、
「ぁ、が……ッ」
ラグナは
「むぅ……(さて、どうしたものか)」
ホロウは頭を悩ませた。
そんな折、
「――<
遥か前方で、勇者の固有が炸裂した。
(あー……そう言えば、まだやっていたのか)
レドリックが襲撃を受けてから、アレンは校庭の召喚獣と戦い続けている。
当初100体だった敵の数は、残り30体ほどに減っていた。
(ふふっ、あの程度の雑魚に手こずるなんて、メインルートの実力には遠く及ばないね)
ホロウが嬉しそうに微笑んでいると、
「――どこを見てやがる! 秘奥義・
荒れ狂う龍を
(……よし、決めたぞ!)
迫る右足を難なくキャッチしたホロウは、蹴りの勢いを殺さぬよう、グルングルンと二回転させ――『
「がっ……ごふ……グぅ……ぱぁ……ッ」
ラグナは何度も地面にバウンドしながら、遥か遠方まで転がって行く。
(とりあえず……いつもみたく一旦『ボロ雑巾』にして、ガルザック地下監獄へぶち込んだ後、頃合いを見て回収しよう!)
『ラグナ・ライン家族化計画』を固めたホロウと、
「この……化物め……っ」
既に満身創痍のラグナは――ほとんど同じタイミングで、上空の
(ふふっ、まだ黄色か)
(くそったれ、まだ黄色か……ッ)
<原初の
少ない方から順に緑→青→黄→赤→黄金と。
(さて、どうする?)
(くそ、どうする!?)
余裕のホロウと
二人の表情が、現在の戦況を
(今は第三段階の『黄』。目標の『黄金』まで、おそらく後十分は掛かる……っ)
ラグナは高速で思考を回して、必死に最適解を模索する。
(このレドリックとかいう場所は、『最高の餌場』だ。それなりの魔力を持った奴等が、蟲のようにウジャウジャいやがる)
ラグナ・ラインの
これを果たすには、天文学的な魔力が必要で、とてもラグナ一人じゃ
そこで彼は、<原初の
この特異な力を活用し、大勢の魔法士たちから魔力を吸収・貯蔵する。
そうして
(釜が満たされるまで、もう後
巨釜の完成を待たずして、ホロウに殺されてしまう。
そう判断したラグナは、奥の手を切る。
「ふぅー……全開だァアアアアアアアア!」
彼は巨釜と接続し、莫大な魔力供給を受けた。
貴重な魔力を使うことになるが、ここで死ぬよりかはマシ――そう割り切ったのだ。
(へぇ……いい魔力だね。これは多分、『
ホロウが感心しながら、
「……ホロウ・フォン・ハイゼンベルク、楽に死ねると思うなよ?」
最終形態となったラグナが、刃のような殺気をギラつかせる。
「ふっ、そろそろ『家族』にしてやろう」
ホロウが固く拳を握り、仕留めに入ろうとしたそのとき――校庭のど真ん中で、聖なる魔力が溢れ出す。
「「っ!?」」
ホロウとラグナは、同時にそちらへ視線を向けた。
まず目に付くのは、『異形』と化した五体の天使型の召喚獣だ。
ラグナは現在、
その一部が、魔力経路を通じて召喚獣たちへ流れ込んだ結果、彼らの基本
「「「「「――フォオオオオオオオオンッ!」」」」」
巨大な天使型の異形たちが、聖なるメイスを掲げて突撃する中――絶体絶命の主人公は、神聖な光を放っている。
((
そのとき、重なった。
「「そうは――」」
ホロウとラグナの思いが、
「「――させるかぁああああッ!」」
完璧にシンクロする。
ラグナは天使型をさらに強化することで、アレンを確実に
「――アレンよ、怪我はないな?(ふぅ……間に合った、まだ覚醒はしてないね)」
「ほ、ホロウ、くん……?」
「ここは俺に任せて、お前はもう休んでいろ(そう、『絶対安静』だ。そこから一ミリも動くんじゃないよ?)」
勇者の覚醒をギリギリで止めたホロウは、憤怒の炎を
「ラグナよ、貴様は少々やり過ぎた。アレンを傷付ける奴は……この俺が許さんッ!」
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