第7話

リビングを見渡せば確かに社長の家みたいな気がする。

あくまでイメージだが。でも、一般家庭では見ないだろう存在が……


「紹介するわね。家のことをしてもらってる山科 楓さんよ」


「坊ちゃま。宜しくお願い致します」


「いや、坊ちゃまってガラじゃないので隆と呼んでください。お願いします」


「本当に変わられたのですね」


「??」


「そうよ。とても立派な男になって家に帰ってきたの。ウフフ」


ウフフじゃねえし。なんだその含みは。


「姉さんは?」


「まだ学校よ」


「母さん、俺の部屋教えて」


「俺?」


「わかったわ。行きましょう。でも夜は母さんと寝るのよ」


「嫌だよ」


「頭痛やなにかあってからでは遅いの。何日かだけだからね」


「はぁ。わかった」


「言う事聞いた?」


「山科さん、心の声漏れてますよ」


「はっ。す、すみません。お許し下さい」


「いいよ」


「簡単に許された」ほおっておこう。


二階の奥部屋が俺の部屋だった。


そこは家庭内引き籠り部屋とでもいうべきトイレ、シャワー付きワンルームだった。


「なんでベット大きいの」


「だいたいおデブちゃんになるから最初から大きめを買ったのよ」


ふ~ん。それしか出なかった。

部屋の中はテレビとゲーム機らしきもの以外の娯楽品はなかった。

これで引き籠りしてんの。辛くないのか。


「母さん大型スーパーに行きたい」元世のままならモールはまだ無い。いろんなものを見たければ大型スーパーか百貨店だ。


「そんなアクティブになると思ってなかったから少し待ってね」

母がリビングに行ったので俺も行く。


母はどこかに電話している。俺は冷蔵庫を確認してコーラを飲む。


「お声をかけて下されば、グラスに入れてお持ちしましたのに」


「ビンのままが好きなんだよね」


「三十分くらいで警備会社の人が来るから、それを待っていきましょう」


「警備会社?必要なの」


「必要よ。誘拐の可能性があるからね」


俺が社長子息だからか。母と一緒にいるのに誘拐されるの。

いろいろ違うのだから素直に聞いておこう。待ってるあいだにパンを食べた。


三十分後、長身の女性警備員が二人来た。

警備会社のワゴン車に乗って大型スーパーへ行く。


おぉ西〇みたいなところだ。まずは本屋だ。


「母さん本を買って欲しい」「いいわよ。行きましょう」


ショックだった。少年誌がない。あったが中身は小女誌だ。

雑誌は、ムック本は。外れだ。


プラモデルはどうだ。魔法少女のプラモなんか作らねえよ。


レコードは。せいこ、あきな、きょうこはいなかった。

くみこもももこもよしえもいない。


ビデオは。サルの星、二千一年、宇宙戦争もない。

ルーカスよスピルよ君もいないのか。


もう娯楽はあきらめよう。服だ。ヒラヒラのついてないシックな服だ。


カジュアルコーナーに行った。キラキラしてたからメンズって確認した。

POPにメンズと書いてある。シックな装いはいずこ。

とりあえずジャージ、スエット、チノパン、カーディガンを買ってもらった。

これらはフリフリでもキラキラでもなかったので良しとした。

ずっとジャージでいたら死に戻りの異世界へ転生できるか。

なんて妄想したがはらわた喰いの姉さんが怖いので頭を振った。

声が好きだったんだよな。


最後にタバコと灰皿を買ってもらい帰宅した。


う~ん。生きづらい。

開き直って娯楽はスケベ三昧と思うか。

近親相姦好き母さんが外でハントするのを認めるか。

母なら私でいいんじゃないで終わりそう。

その前に警備の人の前でハントするのか。これもキツいな。

おいおい何か暇つぶしも見つかるだろう。


姉が帰ってきた。リビングに入ったところで俺に気づき後ずさりした。


ごめん。当たってたんだよな。


「姉さん今までごめんなさい」姉は反応しない。

俺はあの部屋に引き籠るしかないのか。

俺もいきなり家族になった人たちとの過去を清算できないよ。


「ほら、幸子。たかちゃんは変わったから安心しなさい」母が声をかける。

当たられてた方はそんな言葉で納得しないだろう。


「姉さんが同じ空間に居たくないなら、お詫びにそうするよ。

でも記憶が曖昧で家族しか頼れないんだ。

だから少しづつでいいから仲良くできるものなら仲良くしてほしい」


「わかった。着替えてくる」時間かかりそう。なるようにしかならん。

元世の兄とは容姿も雰囲気も違ったのは良かった。

それにしても幸子か。バンバンの曲が脳内に流れる。

ラスボスでなくて良かった。ゴージャス衣装の姉と過ごすのは疲れる。


姉が降りてきた。


「今日はいろんなお祝いでお寿司をとるわよ。あら、拍手とかないのかしら」出前で拍手する家庭だったのか。


「たかちゃんはサビ抜きだよね」


「いや、普通のワサビありで」


「まあ、本当に大人。子供の成長は早いものね。お酒飲みながら語り合いたいわ」


「ビールかハイボールなら少しだけつきあうけど」


「あら、いつの間に覚えたのかしら。イケナイ子ね」


ヤバい、つい普通に元世感覚で話してしまった。


追求されなかったので、笑ってごまかした。


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