第十一話 きっかけ
◯
犯人の動機——すなわち呪いが生まれた理由さえわかれば、怪異を食い止めることができる。
速水弥生は母親の死の原因が自分にあったと考え、自罰的な念を抱いていた。
そして先月迎えた誕生日に、
その
「弥生さん。もし可能であれば、今からあなたのご自宅へお伺いしてもよろしいでしょうか」
「今からですか? 別に、構いませんけど」
「呪いを断つためには、あなたが呪いを生み出す決め手となったモノを特定しなければなりません。おそらくは家の中にあるモノだと、私は睨んでいます」
西の空は真っ赤に燃えている。
じきに日が暮れるだろう。
今日中にケリを付けなければ、彼女の命が危ない。
「あなたが最初に異変を感じた日、つまり先月のあなたの誕生日。あなたはご友人を自宅に招いてパーティーをしたと仰っていましたね。そしてその夜、あなたは風呂場で不審な影を見た。ということは、決め手となったモノはおそらく、あなたの家の中にあります。あなたの心を追い詰めた何かが」
二人は道後温泉駅から路面電車に乗り、弥生の自宅がある松山市駅の方へと向かった。
市の中心部に聳える天守・松山城をぐるりと周り込む形で列車は走る。
途中、十二年前の事故現場となった南堀端に差し掛かる。
窓越しに、弥生は沈痛な面持ちでそれを眺めていた。
目的の駅に到着する頃には、すでに陽の光は鳴りを潜め、ぽつぽつと小さな星たちが姿を見せていた。
「父は出張中で、明日まで帰りません。家におるのは私だけです」
そう説明を加えながら、彼女は自宅の敷地内へと天満を招き入れた。
築数十年は経っていそうな木造の広い二階建てだった。
庭には石で囲まれた池があり、それを眺める縁側も広々としている。
弥生の自室だという部屋に案内され、彼女が最近触った物などを確認していく。
年頃の女の子にしては落ち着いた部屋の中は、全体的に物が少ない。
「この写真は、お母上ですか?」
天満はベッド脇の、棚に飾られた写真立てに目をやって尋ねた。
弥生が頷くのを見て、改めて写真を注視する。
どことなく弥生に似た清楚な女性が、小さな女の子を抱きしめている写真。
この人こそが、十二年前に亡くなった弥生の母親。
笑みを浮かべるその顔は青白く、体調が思わしくないのは一目でわかってしまう。
「この写真は、ずっとここに飾ってあるのですか?」
「はい。私が自分の部屋を与えられた頃からずっと、ベッドの近くに飾ってます」
改めて見れば、額縁は色褪せて年季を感じさせる。
先月から急に飾られたようなものではないようだ。
「他の部屋も見せていただけますか。できれば、あなたの記憶をお借りしたい。先月の誕生日にあなたが触れた全てのモノを、一つずつ確認していきましょう」
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