第15話
十文字と綾瀬はシネコンを無事脱出することができた。早めの昼食をとろうと十文字が提案したが、まだ早いと却下されてしまった。
「じゃあ、どこいこうか。綾瀬さんはどこに行きたい」
「私は特に・・・。十文字君の行きたいところでいいよ」
綾瀬は学校での用事が忙しいのと、少しばかり孤高な性格なので、同級生と外で遊ぶことはまずなかった。だから、遊び方を知らないのだ。
「そうだ、ゲーセンに行こうか」
「ゲーセンって、どこのこと」
「ゲームセンターだよ。もうちょっと行くと、大きいのがあるんだ」
十文字は妹の來未によく誘われていた。だから、ゲームセンターには詳しかった。
「ダメよ。そこって不良の人たちがいっぱいいるんじゃないの」
はははは、と十文字は笑った。
「それはかなり前のことだよ。いまは爺さん婆さんや、子供も多いよ」
二人がゲームセンターに入った。綾瀬は不良の溜まり場だと思い込んでいるので、怯えるように周囲をキョロキョロと見ている。派手な服装の若者もいるが、年寄りや家族連れが多いので、すぐに緊張がとけた。
「プリクラを撮ろうか」と十文字。
綾瀬はプリクラを撮ったことのない化石女子高生の一人だ。
「うん」
初めての体験だが、彼氏にそのことを知られたくないので、自分は知っているフリをしつつも、操作は全部十文字にまかせた。彼は妹と一緒に何度も撮っているので、慣れたものだった。
「うん、綾瀬さんもなかなかよく写ってるよ」
出来上がりを二人で確認する。十文字はそのままむさっ苦しく、綾瀬は若干こわばった感じだった。
「そうだ、クレーンゲームをやろうよ。俺けっこう得意だから、綾瀬さんのほしいもの、とってやるよ」
クレーンゲームが並ぶエリアへとやってきた。大きなぬいぐるみに挑戦しようとする十文字を、私はこっちの方がいいと綾瀬が言う。
「お菓子のタワーかあ。うまくやると、この積んであるチョコが一気に落ちてくるんだ」
十文字がお金を入れると、まず自分が手本を見せることにした。綾瀬にやり方を教えながらボタンを操作する。残念ながら、落とすことはできなかった。
「つぎは綾瀬さん、どうぞ」
「いや、私、こういうのわからないから」
「大丈夫大丈夫、やってみなよ」
十文字は綾瀬の手をとって、ボタンへといざなった。彼女が嫌がらないように、極めて遠慮気味に触れていた。
「このぐらいでいいのかな」
「うん、バッチリだよ」
賭け事にしろゲームにしろ、えてして初心者というものは幸運に恵まれるものである。綾瀬は絶妙な加減でレバーを操作した。すると、積まれた板チョコが一気に落ちてきた。
「おお、すごい、すごいよ、綾瀬さん」
大量の景品がとれたことに、彼女は気づいていなかった。
「え、少しとれたの」
「少しどころじゃないよ。大量だよ、あはは」
十文字が取り出し口に手を突っ込み、板チョコを次から次へと取り出して、それらをキョトンとつっ立っている綾瀬に持たせた。彼女の両手はすぐに景品だらけとなって、おなかで押さえなければならいないほどだった。
「おねえちゃん、一枚くれないか。オレ、なんもとれなかったんだよ」
すぐ傍で一部始終を見ていた少年が、チョコレートをくれとねだった。どうしようと困惑する綾瀬に、十文字はウンとは頷いた。
「たくさんあるからね。一枚くらいいいだろう」
綾瀬がいいよと言う前に、その少年はひったくるようにとった。
「おい、みんな、このねんちゃんがチョコくれるってさ」
わあーっと、小学生の一団が寄ってきた。目を白黒させる綾瀬に遠慮することなく、抱えている板チョコをみんなで奪いとってしまった
「ああ~ん、もう、誰か胸さわった」
一人の少年が、綾瀬の胸に手をかけた。彼女は触られたと表現したが、実際は鷲づかみにされたのだった。おっぱいやわらけえ~、っと、当該小学生が感嘆の声をもらした。
「コラッ、おまえらいいかげんにしろよ。シバくぞ」
十文字が怒鳴った。
「ヤバい。ホームレスがマジギレしたぞ」
わあーと騒ぎながら、彼らは蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
「綾瀬さん、無事か」
十文字が綾瀬に近寄って、被害にあった個所に思わず手を伸ばした。瞬時に両腕で胸を守った綾瀬は、返す刀でキッっと睨みつけた。
「ははは、そのう、大丈夫そうだね」
出してしまった手を、バツが悪そうに引っ込める十文字だった。
「それにしても綾瀬さんの胸をつかむとは、なんてガキなんだよ、チクショー」
少年の手が綾瀬の胸をつかんだ時、とても柔らかそうな感じだった。十文字は、くやしがるようにゲーム機を叩いた。
「お菓子、ほとんどとられちゃったよ」
綾瀬の手元に残っているのは、小さなチョコレート一つだった。
「それは綾瀬さんが食べなよ。記念にさ」
綾瀬は包装紙を丁寧に剥がすと、その小片を真ん中から割って、片方を十文字に手渡した。
「はい、半分こ」
「はは、そうだね。それじゃあ食べようか」
二人はほぼ同時に食べた。十文字は、綾瀬が食べさせてくれるのではないかと期待していたのだが、さすがにそこまではなかった。
結局、お菓子のゲームはそれ以上とれなかった。
「次はお菓子じゃないやつにしよう。なにか記念に残るものがいいな」
十文字は、違う種類のクレーンゲームを物色し始めた。綾瀬も離れずにいた。彼と遊ぶことが、ことのほか楽しいようだ。
「これなんか、すぐにとれそうだよ」
たくさんの小物が、山のように積まれているクレーンゲームの前にきた。
「綾瀬さん、やってみなよ。才能あるから」
十文字が小銭を入れようとしたが、綾瀬が止めた。
「今度は、私が出すの」
彼女は財布から硬貨を取り出すと、投入口に入れた。彼の指示を待つことなく、自由に操作する。
「なにかとれたー」
クレーンが小物を一つ引っかけた。綾瀬にはめずらしく、キャッキャとはしゃぎ満面の笑顔であった。
「ほらほら十文字君、とったどー」
その女子高生は獲得した景品を高らかに掲げ、すでに世間では使われなくなったフレーズを黄色い声で叫んだ。
「ははは、やったね。それ何さ」
綾瀬はビニールの包みをとって、中身を彼氏に見せた。
「ケイタイのストラップね。縁起物だよ」
細い組み紐の先っぽに、大吉と書かれた木片がついていた。
「はい、これは十文字君にあげる。私からのプレゼント」
肉親以外の異性からの贈り物を、十文字は生まれて初めてもらった。それがたとえゲームの安景品といえども、うれしさはいっぱいであった。
「ありがとう。さっそく使ってみるよ」
「でも、十文字君はケイタイやスマホとかを持ってないんじゃなかったの」
「いや、じつはそうなんだ」
ゲームセンターやプリクラが初めてな綾瀬も相当に古風だが、ドラムバカな十文字も、十二分に化石高校生の部類にいた。
「あると、なにかと便利だよ」
「そうだよなあ」
綾瀬と付き合うようになったのだから、通信機器は絶対に必要だと、いまさらながら気づいた。十文字は購入することを決心する。
「ドラムを買った残りがまだ少しあったんだ。買えるかな」
綾瀬がどれくらい残っているかをたずねた。十文字はおおよその金額を言った
「それなら大丈夫。高くないのだったら買えるよ」
「じゃあ、いまから買いに行こう」
綾瀬からプレゼントされたストラップを、一刻も早く取りつけたいと、強迫にも似た衝動が十文字の胸の中を走り回っていた。そうしなければ彼女との絆をたもてないと、思春期にありがちな根拠のない不安を抱いていた。
「ダメよ。高校生は親の承諾がなければ無理なの」
「え、マジか」
通信機器は月々の支払いが発生する。どうしても大人の庇護が必要となる。
「来週、両親が帰ってくるから、母さんにたのんでみるわ」
「買ったら、見せてね」
じつは綾瀬のスマホもあまり活用されてはいない。十文字とやり取りできるのは、彼女にとっても楽しみなのだ。
ゲームセンターで楽しい時間を過ごしているうちに、時刻は昼食時となった。
「そろそろお昼にしようか」
「そうね。今日はどこに連れていってくれるのかしら」
初デートの昼食をどこでとったらいいか、十文字は一晩中考えていたが、ここに至ってまだ結論を見つけられないでいた。
「綾瀬さんの行きたいところでいいよ」
十文字が決めあぐねていることを、彼女は知っていた。ここは私がリードしなければと、ある場所を考えていた。
「じゃあ、ピザ屋さんはどう」
「それ、絶対いいよ。すぐ行こう」
綾瀬の提案であれば、それが火星人料理であっても断ることはないだろう。二人はゲームセンターを出た。
綾瀬が推奨したピザ屋は、ショッピングモール内のフードコートにあった。休日のフードコートは人で混み合う。十文字はこじんまりとした静かな店の方がよかったが、だからといって異を唱えることはなく黙って従った。
遊びなれていない綾瀬は、デートに適した店を知らない。そのフードコートは買い物のついでに何度も立ち寄った経験がある。そこにある店舗の中からの選択肢しか考えられなかったのだ。
「俺、はらへっちゃったから、いっぱい食うよ」
「ここね、シーフードがおいしいの」
フードコートに到着した二人は、空いている席を探していた。
「ちょっとまって」
「え、なに」
「やっぱ、違う店にしよう」
自分の提案を拒否されて綾瀬は一瞬戸惑ったが、すぐに十文字の真意を理解できた。
「田原がいるよ」
田原がいた。真ん中付近の席に、スマホを操作しながらだらしなく座っている。
「あれ、上谷君じゃない」
修二が、トレイにハンバーガーとジュースをもって現れた。田原の対面に座って、さっそく二人でかぶりついていた。
「見つかる前にでましょか」
「そうしよう」
十文字と綾瀬はくるりと振り返った。そのまま小走りで出ようとしたが、すぐに足が止まった。
「マズい、前から島田が来るよ」
「え、ほんとに」
二人は、近くの柱にとっさに身を隠した。友香子は、同じクラスの女子と二人でフードコートの中に入ってきた。
「もっとまずい人もきたみたい」
その後ろからやってきたのは、ナオミ・K・ブルベイカーと新妻千早だ。二人の後をつけていたわけではない。映画館を出て街をぶらつき、ここのタコ焼きが美味いことを思いだして来たのだ。まったくの偶然だった。
「どうしよう。でられないよ」
入口付近の席に、ナオミと千早が座った。出口付近には、友香子たちがいてクレープを注文している。真ん中には田原と修二がハンバーガーを食っていた。十文字と綾瀬が付き合っていることは、他のクラスメートには内緒にするとのコンセンサスが、二人の間では当たり前のように共有されていた。だから、このデートの現場を目撃される訳にはいかない。ナオミと千早には認知されているが、ここで彼女たちに会うと、一日中付きまとわられてしまうだろう。
「このままじゃあ見つかっちゃう」
綾瀬は、できるだけ身体を小さくしていた。
「もう、仕方がない。一時的に別々に行動しよう。綾瀬さんはビザ屋の前でピザを食べてよ。俺は牛丼屋の前で牛めしを食うから。それで、食い終わったら素知らぬ顔をして出るんだ。誰かに見つかっても、一人で昼食を食べていたと言えば誤魔化せるからね。待ち合わせ場所は、そうだなあ、さっき通り過ぎた楽器屋の前にしよう。わかるよね」
ここに来る前に、十文字と綾瀬はある楽器屋の前を通り過ぎた。その時、彼がドラムの話を自慢げにしたので、彼女はその場所をしっかりと記憶していた。
「うん、わかった。でも残念だなあ。せっかくおいしいピザなのに。十文字君に食べさせてあげたかった」
「しょうがないよ。それはこの次の楽しみにとっておくよ」
二人は忍者のように、それぞれの店へと向かった。料理を注文し、店の前の席で待っていた。休日のフードコート内は込み合っている。一般客と相席となって食べることになった。
「あれえ、十文字じゃないか。なにしてるんだよ」
田原だった。目ざとく十文字を見つけジュースを持ちながらやってきた。ちょうど一般客が帰ったので、その空席に座った。
「いや、牛めしを食おうと思って。ここ、美味いって評判だから」
十文字は 牛めしをかき込むようにして食べていた。
「そうかあ。ここのはそんなに美味くはないけどなあ」
修二もやってきた。三人の男子高校生は一つのテーブルを占領していた。
「おまえでも、こんなところでメシ食うんだな。それよか結婚式でもあったのか。気合が入った服着てるよな」
ははは、と十文字は苦笑いしながらも食べ続けていた。服装のことに関しては、兄からのおさがりだと誤魔化した。ちなみに、彼に兄弟はいない。
「あれえ、綾瀬じゃないの」
一人でシーフードピザを食べている綾瀬のもとへ、友香子がやってきた。クレープだけではもの足らず、ピザも食べようとしていた。
「あら、島田さん、偶然ねえ」
「一人なの」
「うん。一人一人。ずっと一人」頼まれてもいないのに、綾瀬は一人であることを強調する。
「いま裕子とクレープ食べてたんだ。そうだ、いっしょに食べようよ」
綾瀬の返答を聞く前に、友香子はクラスメートを呼び寄せた。三人の女子は、一つのテーブルを占領し、他愛のないおしゃべりを始めた。
「あれえ、友香子じゃないか」
離れた席にいた修二が友香子に気がつき、大きな声をあげて手を振った。彼女もすぐに気づいて手を振り返した。
「なんだ、綾瀬さんと森口さんも一緒か。女子は仲がいいね」
「そういう修二はデートかい」
「まさか。田原とゲームを買った帰りだよ」
「またゾンビゲームでしょう」
「そのとおり」
友香子と修二が楽しそうに話している。もう一人の女子も、二人の顔を交互に見上げて、その会話に入ろうとする意志を見せている。綾瀬は目立たぬように下を向いて、ピサを食べていた。
「おや、田原と一緒にいるのは十文字じゃないか。なんだかヘンな格好してないか。あれじゃあ、ホームレスホストだよ」
十文字はキョロキョロと落ち着かなかった。服装と髪型が合っていないので、いかにも挙動不審だった。
「修二たちも来なよ。今日は一緒に遊ぼうよ」
森口裕子には異存がなかった。友香子の友達だけあって、人見知りする体質ではないし、男子三人は顔見知りなので歓迎していた。ただ綾瀬の混乱は、さらに高まることになった。
修二が席に戻って二人を連れてきた。横の席をくっ付けて大テーブルにすると、六人が座れるスペースを確保できた。
「今日の十文字君は雰囲気が違うね」
ジャケットの袖をつまんで、裕子が値踏みするように言った。綾瀬は無言のままだ。
「なんでそんなにめかしこんでるのさ。ひょっとして、彼女でもできたのかい」
「う、・・・」
鋭すぎる友香子の指摘に、十文字は愛想笑いもできなかった。
「まあ、十文字にかぎってそれはないわな」
田原の発言に、綾瀬を除く全員がウンウンと頷いた。
「そういえば、綾瀬さんって彼氏いないの。そういう話きいたことないけど」
裕子が綾瀬の男事情に探りを入れてきた。
「え、私。私は一人、一人でピザを食べにきたの」
綾瀬は、あくまでも一人で来たことを強調する。
「まあ、いないってことか。ちょっと安心したよ」と修二。
「お、修二。ひょっとして綾瀬を狙っているのか。あたしという女がありながら」
「そうだった。俺の愛妻は友香子だけなんだ~」
もちろん、友香子と修二は付き合っているわけではない。いつものように、悪ふざけしながらのじゃれ合いだ。
高校生の男女が集まったので、話の話題は自然と異性関係となる。このメンバー内では、彼氏彼女がいるのは十文字と綾瀬だけだ。
「綾瀬さんのタイプって、どんなの。やっぱり頭がよくて清潔で、カッコいいひとでしょう。
裕子が、なおもしつこく突ついてくる。実際には、その真逆な見た目の男と付き合っている綾瀬であったが、とりあえず、それらしく相槌を打っていた。
「そ、そう。清潔なひとね」
「あらあ、そうだったっけ。綾瀬は、もっとこう、ワイルドな男が好きなんじゃないかしら。例えばね、ジャングルで生き抜いているようなボッサボサ頭の男とか」
「ぶ、ブルベイカーさん」
突然の、ナオミの乱入だった。彼女は後輩たちのテーブルの前で腕を組んで仁王立ちし、彼らを舐め回すように見おろしていた。
「ブル姉さん。なんで」
二年生たちは驚いていた。ナオミがこのフードコートに来ていることは知らなかった。十文字と綾瀬は、借りてきた猫のように、小さくうずくまっていた。
ナオミはさっそく、この集団の中にいる弱った獲物を狩ろうとしていた。
「あら隼人じゃないのさ。ユー、今日はどうしたの、そんな気合の入った服を着て。ねえ、わたしのあげたチケットで映画見てきたんでしょう。二枚あげたよねえ」
意地悪そうな目玉が、キレ長になってギラリと光っている。本来の美貌と相まって、なんとも形容できぬ妖しさだった。そのどこまでも深く沈んだブルーに、修二などは見とれてしまった。
「え、あ、はい。そのう、楽しかったです。ありがとうごさいます」
十文字は蚊の鳴くような声で言った。彼女の顔をまともに見ることができない。
「そう、楽しかったようで、よかったわ。ところで彼女もよろこんで」と言いかけたところで、十文字はすくっと立ち上がって、あらぬ方向を指さして喚きだした。
「あーっ。あそこあそこ。あそこの二丁目の角で、ダーダ星人がイカ地底人に襲われてるよー。これは大変だー」
十文字は意味不明な言動を繰り返し、フードコートを小走りしながら出ていってしまった。
「なんだ、十文字のやつ」
「あの服装といい、ちょっとおかしくなったんじゃないか」
修二たちは小首をかしげながら、小さくなっていく十文字を見ていた。
「チッ、逃がしたか」と、ナオミが小声で漏らした。そして、すぐに次なる獲物にガンをつけた。被食者は、その剣呑な気配をすぐに察知した。
「あ、もうこんな時間。私、帰らないと」
綾瀬は、さも忙しそうに腕時計を見た。
「なんだよ、今日は一緒に遊ぼうって言ったじゃないか」
立ち上がろうとする綾瀬を、友香子の手が止めようとした。
「ごめんなさい。でも、早く帰ってハム吉にエサをあげなければならないの」
もちろん、ウソである。
「綾瀬さんのとこ、ハムスター飼ってるの。前に嫌いだって言ってたよね」裕子からツッコミが入った。
綾瀬はネズミの類が大嫌いだ。ハムスターもモルモットも苦手であり、そのことを女子の前で公言した過去がある。
「もちろん、ハムスターは嫌いだからいないよ。プードルにエサをあげるのよ」
「えっ、ハム吉って犬なの」
「そうそう、犬、犬」
一度ウソをつくと、そのウソに正当性を与えるために、さらなるウソを重ねなければならない。だが、そうしているうちにバレてしまうので、彼女は早々に立ち去らなければならなかった。
「じゃあ、私行くね」
「まあ、仕方ないか。また今度、綾瀬」
「綾瀬さん。またね」
「明日、学校で」
クラスメートに見送られて、綾瀬はフードコートを出ていった。席を離れるとき、ナオミと目が合った。三年生は何かを言ったが、ほとんど声に出していなかった。
出入口で千早が待ち構えていて、ナオミにはこれ以上邪魔させないから大丈夫だと言った。綾瀬は軽く頭を下げて、小走りに先を急いだ。
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