第23話 幸せな新婚生活 兄の野望に不安になる

幸せな新婚生活 兄の野望に不安になる


グユウと結婚して6週間。


シリは別人のようになった。


冷ややかな打ち解けない態度、不機嫌だった瞳は微塵もなくなった。


毎夜、グユウに愛され、

シリは光輝と美しい香りを放つ花のように開いた。


城の中でシリほどよく笑い、機知に富む者はいなかった。


今日も赤ん坊のシンを抱き上げて、有頂天で可愛がる。


「あぁ。可愛い手だわ」

シリは呟き、小さな手をとらえてキスをする。


グユウの瞳を持つシンにシリは夢中だった。


話しかけられ、愛されているシンは以前より表情が豊かになった。


シリの華やかさにグユウをはじめ、周囲の人たちは眩しいものを見るような目を細めた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


6月過ぎに、隣の領主 トナカがレーク城に遊びにきた。



訪問の理由は各領の情報交換という表向きだが本音はグユウの妻 シリにあいたかった。


あのゼンシの妹 ミンスタの魔女と言われているシリ。

(どんな女なのか見てみたい。グユウと上手くやっているだろうか)



グユウは10歳までシズル領で人質として育ち、年が近いトナカとは兄弟のような関係でもある。


結婚直前のグユウに会った時は周辺に黒いオーラが漂っていたけれど、

今は春の陽気のように暖かい雰囲気だ。



近況報告をした後、グユウから切り出した。

「シリに会いたいだろう」



グユウが呼び出すとシリが挨拶に来てくれた。

(来た!ミンスタの魔女!)


扉を開けたシリを見た瞬間、トナカは目を見開いた。


髪には小さな赤い薔薇を指し、青色のドレスを来ている。


輝く金髪に青い瞳のシリがそこにいるだけで周囲がパッと華やかな空間になる。

(女神のようだ・・・)


トナカの口はポカンと開き、完全に思考が停止した。


「シリ、シズル領の領主トナカ・サビだ」

「トナカ、オレの妻シリだ」


親しい間柄でグユウがシリのことを「妻」と口にしたのは初めてだった。


グユウの雰囲気からして、嬉しくて仕方ないらしい。


トナカは慌てて、自分を取り戻す。


親友の妻を見て、我を忘れたなんて恥ずかしい。


シリとトナカは微笑を交わし、

「グユウ。キレイな奥さんだ。

奥さんを見ていると俺が嫁とりをしたような気持ちになった」と話した。


その瞬間、部屋は笑いに包まれた。


トナカは、グユウとシリが領政の話を対等にしていることに舌を巻いた。


シリは世の中の先を考え、自分の意見を述べていた。


トナカには妻が3人いるが、

周囲の女性達は誰も政治について関心がなかった。


それは、女性は政治に口を出すなと教育されていたからだった。


(新しい型の女性だ)

トナカはそう思わずにいられなかった。

 

昼食後は、グユウ、トナカ、シリは3人で乗馬を楽しんだ。


トナカは最初、シリが乗馬をすると知り狼狽えた。

(女性が馬に乗れるはずない)


男装のシリを見て、さらに度肝を抜いた。


隣に立つグユウは表情が崩れない。

きっと見慣れた光景なのだろう。


平坦な道を走ると、シリの馬がスッと2人の前に躍り出た。


チラッとグユウとトナカを振り向いた。

「あの木まで競争しましょうか」

笑顔だったけれど、目は挑戦的だった。


その後、鞭を使ってまっしぐらに疾走した。

トナカは「ヒュー」と口笛を吹く。

(完敗だ。すごい女性だ)



トナカは、ゼンシの妹であるシリを警戒していた。


実際に逢ってみると、常識に当てはまらない生き生きとした魅力溢れる女性だった。

(グユウが夢中になるのも納得だ…)


楽しい時間を過ごすことができ、3人は友人にになった。


ーーーーーーーーーーー


シリが着替えている間にグユウとトナカは立ち話をした。



「グユウ、素晴らしい后だ。美しいだけではなく聡明だ。そして…」


トナカは馬に乗りながら2人を煽ったシリの顔を思い出して笑った。


「とても気が強い。良い后が来て良かったな」


「オレには勿体ない妻だ」


「俺には器がないからシリのような后が来たら対応できない。シリもすごいが…グユウ、お前もすごい」

トナカは真顔で伝えた。



2人は黙って窓の外から見えるロク湖を見つめた。


「グユウ、ゼンシがミヤビに行って国王に挨拶をする噂を聞いた。本当か?」


「本当だ。この前ワスト領への通行許可を申請してきた」


「ついに国王を騙して領土統一をする気だな」

トナカは拳を握りしめる。


「周辺の領主達も警戒するだろうな」


「俺は絶対にゼンシの臣下にならない。ゼンシを信用するな。グユウ」


「…わかっている」

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