第24話 政略結婚 愛と疑惑の狭間で揺れる
政略結婚 愛と疑惑の狭間で揺れる
シリがワスト領に嫁いで2ヶ月。
グユウはゼンシと領境で打ち合わせをするので、数日間レーク城を離れることになった。
「いつ頃、お帰りになるのですか」
「7日ほど」
「そうですか…」
「話し合いだけだ」
シリの瞳を見て、グユウは優しく伝える。
(これって争いではないから心配するなということなのよね)
シリはグユウが言いたい事を察し、自動変換をするようになってきた。
「行ってくる」
凪いだ瞳でシリに別れをつげた。
10名ほどの家臣を引き連れグユウは出発した。
小さくなるグユウの背中をシリは見つめていた。
シリはグユウとは違う心配をしていた。
兄ゼンシとの打ち合わせ、それは女の人がついてまわる。
ゼンシの事だから接待のつもりでグユウに女性をあてがうだろう。
グユウは見た目は良い。
背が高くて、涼し気な黒い瞳にすっと通った鼻筋、薄い唇、女性がうっとりする材料が揃っている。
その事にグユウは気づいてないはず。
一夜だけの時もあるし、グユウが気に入ったら女性を城に連れて帰るかもしれない。
それは普通の事であり騒ぐような事ではない。
領主であれば、第二婦人、第三婦人はいて当たり前。たくさんの子供を産まなくてはいけない。
ゼンシもトナカも複数の妻がいる。
妻が第二婦人に対して嫉妬するのは下品で恥ずかしいこと。
エマからそう教育されている。
そうは言っても、グユウの優しく揺れる美しい瞳、優しい手つき、普段、無表情なのにひどく歪める時の顔を自分以外の女性が知るのは嫌だった。
(こんな事、考えるなんて疲れているのかしら)
余計な取り越し苦労をしてせいか昼間なのにグッタリしてしまった。
いつの間にか机の上でうたた寝してしてしまったようで、背中にはエマがかけたと思われる毛布がかかっていた。
ミンスタ領に比べて、ワスト領は湿度が高い。
グユウがいないレーク城は、がらんとして寂しい。
食欲もない。
そんな日が5日間続いた。
エマは何か言いたげな顔でシリを見つめることが増えてきた。
シリは気づいていたけれど、長い付き合いなので気づかないふりをしていた。
(お説教を言いたいのだわ!)
出発して6日目にグユウが帰ってきた。
予想より1日早い。
しかも!女の人は連れてきていない!
窓からグユウの帰宅を発見したシリは踊るような足取りでグユウの元へ駆けた。
後ろでエマが追いかけたけれど、シリの足の速さには敵わない。
途中、ドレスの裾を踏みそうになったのでドレスを持ち上げて門までグユウを迎えた。
ものすごい早さで駆けてくるシリの姿を見て、グユウは驚いて口を開けた。
「おかえりなさい」息を弾ませながら伝えた。
「あぁ」
グユウは優しい目でシリを見つめてくれた。
夕方になると、2人はいつものように散歩をした。
グユウからは打ち合わせの話を聞きながら、シリの頭の中は女の人のことでいっぱいになった。
(聞けない。もし、本当だったら聞くのが怖い)
口から出そうな疑問を引っ込める。
グユウは相変わらず無表情のままシリを見つめた。
無言のまま見つめられると居心地が悪い。
シリは赤くなってうつむいた。
グユウはポケットからピンク色の包みを取り出して無言でシリに渡した。
柔らかなピンク色の布の中に硬いものが入っている。
「これは…私にですか?」
グユウの顔を覗いてみると小さく頷いた。
戸惑いながら布を開いてみると、ピンク色に輝く花の飾り櫛があった。
「キレイ…」思わず顔を綻ばす。
シリは青色、紫色のものを身につけることが多かった。
装飾品は、ゼンシが「似合うから」と青いものを指示していた。
そして、シリ自身、服飾に興味がなかったので言われるがまま身につけていた。
ピンク色の髪飾りは初めてだった。
淡いピンク色の石ははふわりと香りそうなほど甘い感じがする。
「この石は紅水晶?」
「知らない」
グユウはどんな顔でこれを選んだのだろうか。
想像するだけで面白い。
「その…こういう色も似合うと思う」とグユウが呟く。
「グユウさん ありがとうございます」
シリが微笑むと、グユウは切れ長の瞳をさらに細くした。
こんなに素敵な髪飾りをもらったのに。
夕方に心に留めたことは夜になると、抑えきれなくなる。
シリは我慢ができなくなった。
こんな疑問を抱えて過ごしていくのが耐えられない。
いつものようにベッドに入ったグユウに単刀直入で質問してしまった。
「グユウさん、私以外の女性と一緒に夜を過ごしました?」
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