第17話 初夜 オレといても楽しくないだろ
初夜 オレといても楽しくないだろ
その日の夜、シリは落ち着かなかった。
鏡の前で何度もエマに質問する。
「このパジャマは変?大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
エマは何度も辛抱強く答えた。
「珍しいですね。普段は滅多に鏡を見ないのに」
シリの長い髪をエマは丁寧にブラシで流してくれる。
「シリ様、何か良いことでもありました?」
エマがニヤニヤ顔で質問をする。
「何もないわ」
シリは真っ赤な顔で返答する。
結婚して4日目。
月が少しずつ満ちてきている。
銀色に輝く月は周りの雲を真珠色にして、下ではロク湖がにぶい光が放っていた。
シリは窓際に立っていた。
なんとなく恥ずかしくてベットのそばに近寄れない。
グユウが寝室に入ってきた。相変わらず無表情だった。
(こんなに私が緊張しているのに、この人は何にも感じてない)
それが少し悔しい。
「グユウさん、一緒に月を見ませんか」
グユウはこくりとうなずき、シリの隣に立った。
「今日は楽しかったです」
「そうか」
グユウは真っ直ぐに前をむいていた。
しばらく、間が空いた後に突然グユウが言い出した。
「オレといても楽しくないだろ」
「どういうことです?」
「オレは話すのが得意ではない」
「知っています」
「・・・オレといても楽しくないだろう」
「楽しいかどうかは私が決めることです」
グユウは遠慮がちにシリを見下ろす。
シリは真っ直ぐな目でグユウを見つめた。
グユウの瞳の色は真っ黒で、月明かりの中で見つめていると吸い込まれそうになる。
「どうした?」
グユウが声をかける。
「グユウさんの目って黒くてキレイですね」
(もう少し近くで見てみたい)
シリの白く細い指がグユウの袖を控えめに摘み自分の方に引く。
「おい」
薄い唇が慌てたように声を出した。
爪先立ちになったシリと袖を引っ張られ前のめりになったグユウ。
2人の唇は触れ合った。
その後はどうしたか。シリはハッキリと覚えていない。
気がついたらベットの上にいた。
グユウは無表情を崩さなかったが、
瞳は熱心でそれでいて内気な訴えるような何かがあった。
シリはその瞳から目を離せなかった。
「・・・怖いか?」
「怖くないです」
恐怖を打ち消すようにシリはすぐに答えた。
「無理しなくていい」
「大丈夫です」
遠慮がちなグユウの手が首筋から下へ這っていく。
思わず身体が硬くなる。
「イヤなら拒絶をしてもいい」
「それは相手にもよります」
「オレでは・・・」
少し自信がなさそうに言い淀む。
「グユウさんなら良いですよ」
シリがにっこり笑う。
不器用でぶつけるような口づけ。
鍛錬でカサついた手で、壊れ物を扱うように優しくしてくれた。
シリの心と身体は少しずつ溶かされていく。
シリが動揺しているに、グユウは相変わらず涼しい顔をしていた。
(私はこんなに乱れているのに)
それが悔しかった。
不満を口にしたくても、シリの腰を撫でるグユウの手つきが優しくて、胸がギュッとしてしまう。
「シリ、大丈夫だ」
グユウは何度も繰り返す。
(何が大丈夫なの?)
疑問に思って、まぶたを持ち上げてみると視線が交わった。
わずかながら、グユウが楽しそうな顔をしているような気がした。
そのわずかな変化に、口に出かかった疑問は引っ込んでしまった。
「シリ、力を抜いてくれ」
グユウが優しく静かに話した。
怖い思い出ばかりだった行為がグユウの手で優しく上書きされたようだった。
見張り役のジムとエマも喜んでいるだろう。
ーーーーーーーー
翌朝、目を覚ますとグユウの腕に抱かれていた。
(私・・・昨夜)
シリは思い出すと恥ずかしくなった。
そっと上を見上げるととグユウの顔が見える。
相変わらず無表情だ。
「おはようございます」
声をかけ赤面をした。
「今日は鍛錬をしないのですか?」
「そろそろ行く」
「普段はもっと早い時間に鍛錬をしていましたよね」
「鬱憤を晴らすために鍛錬していた」
「鬱憤ですか…?」
「オレも男だ」
シリを優しく手放した後にベットから離れていった。
しばらくしてから、エマが入ってきた。
「シリ様、おはようございます。身体の調子はいかがですか」
シリは急に恥ずかしくなった。
「おはよう」
そう呟きベットに潜り込んだ。
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