第16話 結婚4日目 夫はイケメンなのに無愛想…乗馬で恋の予感
「ミンスタ領では女性も馬に乗るのか」
「いいえ。乗馬をしていたのは私だけです」
「・・・そうか」
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ゼンシから貰ったと言われた鞍は黒塗りで金色の花の模様が散っている。
ジムは思わず唸った。
(かなり高価な鞍だ。ゼンシ様は合理的な方と聞く。乗馬が下手な者には鞍を与えないだろう)
ジムの推測は正しかった。
シリは慣れた様子でヒラリと馬に乗った。
早い。風のように馬を走らせる。
平坦な道になるとシリは鞭を打ちスピードを早めた。
乗馬経験が豊富なグユウとジムは何とかついて行くことができる。
けれど、カツイはとてもじゃないけれど追いつかない。
(さすがゼンシ様の妹。うまい)
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シリは久しぶりの乗馬を楽しんでいた。
頬に風を感じる。春の日差しを受け、一つに縛った髪が後ろになびく。
新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
馬に乗るのは2ヶ月ぶりだ。
挙式前に怪我をしたら大変だと周囲から反対されていた。
もちろん、今日だってエマは乗馬に反対した。
乗馬をしたらグユウ様に嫌われると説明していた。
(そもそもグユウさんには好かれていない・・・)
道が狭くなったのでスピードを落とす。
シリの後ろにはグユウがいる。
「グユウ様、乗馬がお上手ですね」
「それほどでもない」
グユウは指を指した。
「あの道の曲がり角にりんごの木がある」
道の曲がり角に着くと、りんごの木がぎっしりと枝をさしかわして立ち並んでいた。
香り高い雪のような花が連なる。
「きれい!!」
シリは目を輝かす。
慌てて馬を停め、りんごの木の下を眺める。
「ミンスタ領にはこんな花はないわ!」
上をむいて絶賛した。
シリはりんごの木の下に座った。
(エマがいたら「地面に座るなんて!」と絶叫するだろうな)
ここにはエマはいない。
ジムとカツイは少し遠く離れた所で馬の世話をしていた。
「グユウさん。座りませんか?」
シリは隣の草地をポンポンと叩いた。
無表情のままグユウは頷いて、シリの隣に座る。
見上げると、りんごの花と花の間に薄い青色の空が見える。
「馬の扱いが上手だな」
グユウがポツリと呟く。
「ありがとうございます。ワスト国の馬が良いのですよ」
「いや。乗り手が良いのだ」
これで会話が終了だ。
(これって褒めているのよね?)
「私は男に産まれた方が良かったと思うんです。兄からもそう言われました」
シリはりんごの花を見上げながら話を続ける。
「縫い物やお化粧よりも馬や戦術の方が面白いんです。
エマからそれでは殿方に愛されないって注意されるんです。仕方ないんですけどね」
最後は自傷気味に笑う。
「いや・・・」
隣のグユウは呟き口を閉ざした。
「いや・・・の次は何ですか?」
シリはグユウの目を見て問いかけた。
グユウは露骨にシリから顔をそらす。
避けられる理由が分からず、シリは苛立ちを覚えた。
「そんな風に顔をそむけるなんて。私の格好が変だからですか」
「いや。その・・・すまない。意味は特に・・・」
「何か思うことがあるなら教えてください。理由もわからないまま謝られても困ります」
「いや・・・本当に。・・・わかった」
グユウは言葉に詰まりながら再びシリにむきあった。
「そんなことはない」
「何がですか?」
「馬に乗っている姿も美しい」
「え・・・?」
予想外の返答をグユウから告げられ気の抜けた声がもれた。
(美しい。馬に乗っている姿が美しい?)
シリにとって美しいという言葉は聞き慣れたセリフだった。
社交辞令で挨拶のようなものだった。
ところが、端正な顔をしたグユウが不器用に「美しい」と話すと胸に響くものがあった。
着飾ったドレス姿ではなく男装のシリを褒めてくれた。
シリの顔がみるみる赤くなるのがわかる。
苛立ちが嘘のように消え、じっと見つめるグユウの視線に耐えられないものを感じて
目を伏せてしまった。
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