第15話 政略結婚 脈なし相手にデートの申し込み
政略結婚の初夜、脈なし相手にデートの申し込み
結婚3日目 披露宴
レーク城の大広間に家臣、侍女、厨房の女中、料理番、庭師、馬丁
全ての人が集まる。
グユウとシリのお披露目をする。
とても盛り上がり、笑いが絶えない披露宴だった。
城内にいる人間が少ないせいか結束が強く感じる。
生まれ育ったシュドリー城とは雰囲気が違う。
グユウとは少しだけ距離が縮まったような気がする。
会話らしきものが増えた。
けれど、淡い水色のドレスを着たシリを見てもグユウの表情は変わらなかった。
夜になり、一緒のベットで寝てもグユウはシリに触れなかった。
見張り役のジムとエマは相変わらず隠し小部屋にいる。
2人が交わらない限り、任務は続く。
3日目の夜も何事もなく過ぎていった。
結婚4日目の朝、ようやく日常生活に戻りホッとしていた。
(当分、ドレスは着たくない。疲れた)
ワスト領の食事はシリの口にあうので毎食が楽しみだった。
ミンスタ領に比べて、ワスト領は厳しい気候と狭い領土なので収穫量は少ない。
肉料理よりロク湖で取れる魚料理が多かった。
この日の朝食に茶色の小さな砂糖煮が出てきた。
甘酸っぱくて美味しい!独特の歯触りだ。シリはたちまち夢中になった。
「これは何の果物?」
シリの問いにグユウは答えた。
「りんごだ」
「りんご、聞いたことがない名前です」
「・・・小さくて赤い果物だ」
「それはどのように育つのですか」
「木だ。春に花が咲いて秋に実がつく」
「こんな美味しい果物、ミンスタ領では味わえないです」
「そうか」
「どんな所で育っているのですか」
矢継ぎ早に質問するシリにエマが「シリ様!」と鋭く短い注意をした。
(あぁ。また質問をしてしまった)
反省すると同時に口を閉じる。
家臣のジムが口を添えた。
「ちょうど、今頃りんごの花が咲いていますね」
「りんごの花?」
「ええ。白くて綺麗な花です」
ジムが答える。
「見てみたい・・・」
シリが呟くと、
「あそこには女の人はいけません。険しい山道で馬車は通らないです」
「馬なら通れるの?」
「ええ。馬ならいけますが・・・」
「じゃあ。行けます。りんごの花を見てみたい」
「シリ様。先ほど話したように馬に乗れないと行けない場所なのです」
「乗馬は得意です」
シリの発言に食堂は凍りつく。
この時代、女性が馬に乗るのは珍しい時代だった。
どうしても乗る場合は横向きに座って乗馬をする。
女性が馬に跨るのは恥ずかしいこととの認識だった。
シリの後ろに立ったエマは冷汗が止まらなかった。
シリが乗馬好きなのは百も承知だ。
けれど、嫁いだら馬は乗らないものだと思い込んでいた。
(私の認識が甘かった。シリ様が乗馬すると知ったらグユウ様は呆れるかしら)
グユウは驚いた表情をしていた。
「グユウさん。連れて行ってください。鞍も鎧もありますから」
「鞍も鎧もあるのか?」
グユウの声に動揺が隠せない。
「ええ。兄上がプレゼントしてくれたのです」
シリの乗馬の腕前をゼンシは高く評価していた。
一般の戦士でももらえないような鞍をシリのために作ったのだ。
「ゼンシ様が女性に鞍を?」
ジムが驚く。
グユウとジムは目を合わせて頷いた。
「わかった。これから行こう」
グユウが言った。
ジムは馬場に行き、シリの支度が終わるのを待っていた。
家臣のカツイが囁き声で質問をした。
「シリ様が乗馬できるって本当ですか?」
「本当らしい。乗馬ができるらしいが…」
「女性が馬に乗るって聞いたことがないです」
カツイは再び囁く。
「ミンスタ領は馬がたくさんいる。乗馬をする女性もいるだろう」
馬は財力がないと揃えることもできないし気軽に乗ることもできない。
豊かなミンスタ領ならではの話だ。
「カツイ、シリ様に怪我がないように我々も見張ろう」
「承知しました」
シリが馬場に到着した。
その場にいたグユウ、ジム、カツイはシリの服装に口を開けてしまった。
シリは長い金髪はキリリと一つに縛り、男装をしていた。
女性の服装に興味がないジムでもわかる。
上は婦人服だけど下は乗馬用のキュロットを履いている。
隣にいるエマはハラハラした顔でスカートを握りしめている。
シリの瞳は星のように煌めいていた。
「その格好・・・」
グユウは思わず呟く。
「いつもこの服装で乗馬をしていました」
「ミンスタ領では女性も馬に乗るのか」
「いいえ。乗馬をしていたのは私だけです」
「・・・そうか」
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