第14話 今夜も触れられず…
第2章 6 今夜も触れられず…
扉を開けると、乳母ヨシノは突然の来客に驚いた顔をした。
昨日、結婚したばかりの妃シリが部屋に入ってきたからだ。
シリの兄 ゼンシは残酷で気性が激しいと聞いている。
(シン様が殺されるかも)
思わずヨシノはシンを抱いた腕に力を込める。
「グユウさんのお子さんはこの子なの?」
涼やかな声でシリは尋ねた。
「はい」
ヨシノは慎重に頷いた。
シリはおっかなびっくりヨシノに抱かれている赤ん坊を爪先立ちで近寄った。
こわごわシンの顔をのぞいてみた。
シンに触ってみるつもりは一つもなかった。
末っ子だったシリは子供を扱う心得がなかったからである。
シリの目に入ったのは頭全体を湿った絹のような巻毛がある、小さな可愛い手をした丸々超えた赤ん坊だった。
目は濃い黒色で泣いた後なので潤んだ瞳をしていた。
(なんて可愛いのだろう!)
(グユウさんにそっくりな瞳・・・)
シリは一目で恋に落ちたような気分になった。
ふくふくした指を触るとシンはシリの指をキュッと掴んだ。
シリは無言のままシンを見つめていた。
(私が結婚することで、この子の母親はセン家から出て行くことになった。しかも、この子を置いて!)
(グユウさんが私を遠ざける気持ちもわかるわ。妻と母親を奪った女なのだから)
「あの・・・シン様を抱いてみますか?」
乳母のヨシノは恐る恐る聞いてみた。
「抱いてみたいけれど・・・私が抱いたらこの子は壊れるんじゃないかしら?」
シリの回答にヨシノ、エマ、近くにいた侍女はどっと笑った。
レーク城にこのような笑いが響いたのは久しぶりだ。
腫れ物に触るようにシンを抱いてみる。
抱いて目が合うとシンがニコッと笑ってくれた!
シンの良い匂いがする小さな頭や、よく肥えた小さな頬、
小さな冷たい両手を見ると、心ときめく、焦がれるようなものがシリを捉えた。
ゼンシのためにワスト領、レーク城の事を手紙で報告しなくてはいけない。
そうは思っても、シンが可愛すぎて離れたくない。
その日の午後は可愛いシンのそばにいた。
夜になると再びグユウと寝室を共にする。
(昨夜、あんな振る舞いをしたのに再び寝室に来てくれた)
少しホッとした。
もう一緒に寝ないと拒否されるかもしれないと思っていた。
緊張で態度が固くなる。
会話を切り出したのはグユウの方だった。
「シンにあったのか」
「お逢いしました。可愛いお子さんです。目はグユウさんにそっくりですね」
「そうか・・・」
シリはベットの上で正座をしてグユウを見つめる。
「私が嫁ぐことで前の奥様やシン様に可哀想な事をしました」
「結婚はオレが決めたこと」
「そうだとしても、グユウさんは私との結婚を望んでなかったはず。
仕方ないとはいえ、申し訳ない気持ちです」
「シリもオレとの結婚は望んでなかったはずだ」
その瞬間、シリは身を乗り出してグユウに近づいた。
(はじめて、名前を言ってくれた!!)
「グユウさんは私の名前をご存知ないと思っていたわ。きちんと覚えてくれたのですね」
シリの輝く豊かな金髪、海のように深い青色の瞳に輝く笑顔を見て、
グユウの瞳は動揺の色を隠せなかった。
一瞬、間を置いて気まずそうに目を伏せた。
「もう遅い。疲れただろう」
そう言いグユウはベットに横になった。
(このまま初夜を迎えると思ったのに・・・)
(近づいたと思ったら遠くなる)
隣で寝るグユウを横目でみると、もう寝ているようだ。
明日は結婚の最後の儀式 披露宴だ。これが終われば日常生活に戻る。
(この人の隣で寝るのは嫌じゃないわ)
そう思いながら眠ってしまった。
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