第13話 失敗に終わった初夜、相手の反応が気になる
第2章 失敗に終わった初夜、相手の反応が気になる
鳥のさえずりが聞こえる。
久しぶりに朝まで目が覚めず眠れた。
シリは瞼を上げた。
見覚えがない部屋の天井が見える。
寝室にはシリ以外誰もいない。
グユウは起きて、どこかへ行ってしまったようだ。
(あ・・・そういえば昨夜)
シリは昨夜の事を思い出した。
(昨夜、騒いだ気がする)
思い出すと頬に血がのぼる。
怖くて、草臥れて、散々泣いた。
みっともない姿をグユウに見せた。
大人気なかったと自分を呪う。
約束通り、グユウはシリに何もしなかったらしい。
着衣の乱れも身体の違和感もない。
ベットから降りて窓の外を覗いてみた。
陽が登り、外は淡い光で満ちていた。
昨夜は暗くて見えなかった窓の外がはっきりと見える。
レーク城は低く険しい山の上に建っている城で、
西側の窓の彼方には朝日で煌めくロク湖が見え、小さな島がぽっかりと浮かぶ。
ロク湖の手前に小高い丘があり、その周辺に小さな小麦畑が点々と見える。
勾配があるので、小さな小麦畑しか作れない土地のようだ。
窓のすぐ下は騎士たちの稽古場になっている。
早朝に一生懸命、鍛錬に励んでいる青年が見える。
その青年はグユウだった。
挙式の翌日に鍛錬に励む領主。恵まれた体格を生かし見事な剣さばきだった。
家臣たちがグユウの周りに集まる。
遠目から見ても家臣たちはグユウを信じ慕っている様子が伝わる。
(兄上とはまるで違うタイプの領主なのね)
兄、ゼンシは力でねじ伏せ、好き嫌いが激しい領主だった。
圧倒的な戦力、財力、冴えた閃き、強烈すぎる個性、そして途方もない狂気で家臣達を動かしていた。
グユウは、どのように家臣たちの結束を深めているのだろう。
(グユウ様と家臣のこと、兄上に報告をしないと)
鍛錬が終わった後に、汗をかいたグユウは上着を脱いだ。
シリの胸の動悸が一つとんだ。
細身だと思っていたけれど筋肉質で鍛えた身体をしている。
(素敵・・・)
「おはようございます」
後ろから声をかけられ飛び上がるほど驚いた。
振り返るとエマがいた。
「エマ・・・おはよう」
「シリ様。昨夜はよく眠れたようですが・・・最後までされてないですよね」
エマは一言何かを言いたくて仕方がない表情をしていた。
無理もない。口を慎めと言われたのにグユウを前に暴言や泣き言を爆発させていた。
シリは赤面のまま黙ってうなづいた。
エマが確認したのは意地悪な気持ちではない。
政略結婚をするのなら、子供を産む行為は大事なこと。
後ほど、見張り役のジムと初夜のことについてお互い報告をしないといけないからだ。
ミンスタ領の姫として育ったシリもその辺は承知をしている。
「今夜こそ・・・」
明日は城をあげて結婚のお祝いする披露宴。
そのため、レーク城は披露宴の準備に向けて慌ただしい。
朝食の時間になり食堂に行くことになった。
ワスト領では夫婦そろって食堂で朝食を食べるらしい。
ミンスタ領では自室で1人朝ごはんを食べていたシリにとって、
行事でもない限り、誰かと食事をするのは新鮮な事だった。
食堂にグユウが入ってきた。
平服のグユウは白い麻のシャツに黒いズボンだった。
シンプルな服装だけど素敵だ。
一方、シリも飾り気がない白いドレスに真紅の帯を締めていた。
行事がない日は領主といえども平服になる。
食堂のテーブル越しに視線がぶつかる。
「おはようございます」
シリは昨夜のことがあり、恥ずかしくて俯きがちになったが声をかけてみた。
「あぁ」
グユウはいつも通り無表情だけど返事をしてくれた。
初夜の無礼を謝りたいけれど、侍女がいる中で会話も憚れる。
淡々と食事をするグユウの表情を見て、
(何事もなかったような顔をしている)
(そもそも、本当に何事もなかった)
(あんなに感情を爆発させて恥ずかしい)
(嫌われたのではないか)
(綺麗な食べ方をしている)
様々な感情が渦巻き、落ち着いて食事ができなかった。
食後は侍女に城内を案内してもらう。
シリが育ったシュドリー城は広く、家臣をはじめ家族に逢う機会が少なかった。
領主のゼンシに会うためにはアポイントをとらないといけない。
約束を取らなければ広い城内でゼンシに会う機会がほとんどない。
レーク城は山の上に建てられているので城自体が狭い。
否が応でも家臣、侍女、グユウ、グユウの両親に城内で出会う。
廊下を歩いていると、どこからともなく赤ん坊の泣き声が聞こえた。
「この泣き声・・・」
「グユウ様のご長男 シン様です」
言いにくそうに侍女が伝えた。
グユウの息子だ。会ってみたい。
「シン様に会いたい」
シリは伝えた。
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