第12話 政略結婚 ほぼ初対面の人と初夜
政略結婚 ほぼ初対面の人と初夜
空には半月が輝き、ロク湖は月光を浴びて微かに輝いていた。
今夜は初夜。夫婦になって初めて過ごす夜だ。
初夜のために真っ白なパジャマを着る。シリの金髪に青い瞳は白いパジャマに映える。
うす暗闇の中でも、そこだけぼぅと明るく見える。
脱がせやすいように留め具も必要最小限になっている。
事前にエマから初夜のアドバイスを受けた。
「黙ってグユウ様に身を任せれば良いのです。そうすれば上手くいきます」
シリは納得しない表情を浮かべた。
「グユウ様は一度結婚をされた方。流れはわかっているはずです。シリ様は大人しくしてれば良いのです。
くれぐれも口には気をつけてくださいね」
思ったことを心に留めず、口にする癖があるシリに厳重に注意をした。
「励んでください」
不満げな顔をするシリの背中を押し寝室へ足を運ばせた。
ーーーーーーーーー
寝室には誰もいなかった。
ベットの両隣にはチェストがある。
一見、普通のチェストのように見えるけれど隠し小部屋になっている。
右隣の隠し小部屋にはエマが。左隣の隠し小部屋にはジムが待機している。
初夜は見張り役が隣室に待機していて、無事に初夜が終えたのか確認するためだ。
1週間前に兄に乱暴された。
(あのような怖さや痛みをもう一度経験するのだろうか。しかも、監視付きだ)
用意されたベットに腰をかけ、シリは深いため息をつく。
扉が開いた。
グユウが静かに入ってきた。
スタイルが良いので白いパジャマ姿も似合う。
相変わらず無表情で態度が硬い。シリとは目も合わせない。
部屋に入っても、2人の距離はベットの端と端だ。
これから行為をするにしても距離が遠い。
先に沈黙を破ったのはグユウだった。
「式の時は助かった」
投げつけるように言葉を発した後、シリの顔をじっと見つめる。
式?何の話だろうか。
ポカンとしているシリに単語を発した。
「指輪」
挙式の時の指輪交換を思い出した。グユウが中指に指輪をつけようとしたので、
シリが薬指にするように合図をした。そのお礼らしい。
「いえ。別に気にしないでください」
グユウの返事はたった3文字だった。
「そうか」
(これで会話が終了だ。グユウ様は人と話を続けようとする気がないのだろうか)
グユウはシリに背をむけたままベットに座っている。
エマのアドバイスを信じて、グユウに身を任せれば良いのだろうか。
(このままだと何も始まらないような気がする)
再び重い沈黙が部屋を包んだ。
その雰囲気に我慢できず、シリはグユウの隣に腰をかけた。
「あの・・・なんて名前をお呼びすれば良いのでしょうか。
いろいろ考えてみました。お館様、ご主人様、グユウ様・・・どう呼べば良いのでしょうか」
シリはグユウをじっと見つめる。
グユウは相変わらず目もあわせようとしない。
しばらく沈黙が流れた。
「グユウで良い」
真っ直ぐ前を見つめたまま短い返事があった。
「それだと落ち着かないです。流石に呼び捨ては家臣に面目が立ちません。
そうですね。グユウさんにしましょうか」
何も返事はない。
「よろしいでしょうか。グユウさん」
もう一度確認をする。
グユウはゆっくりとシリに顔をむけた。
相変わらず無表情だけど、凪いだ瞳の奥が少し揺れている。
顔も少し赤い・・・
シリは間違い探しを見つけるような目で、グユウの顔を見つめた。
顔が近づいてきた。目と鼻の先に端正な顔がある。
シリは慌ててギュッと目をつぶる。
2人の唇がほんの一瞬だけ重なり合う。
互いに不慣れで、ぎこちない触れ合いではあったけれど、
グユウの唇は硬くて乾いていることがわかった。
そのまま、ゆっくりと優しくベットに寝かされた。
シリの金髪がベットに散らばる。
シリの上にグユウが乗り、唇が首筋に落ちた。シリは身を固くする。
グユウの熱っぽい吐息が首に感じる。
(7日前の夜に兄上も同じことをした)
あの痛くて、辛くて、苦しい時間。泣いても声を出してもゼンシは止めてくれなかった。
思い出すと辛い。
これから、あの夜と同じ事を昨夜出会ったばかりのグユウとする。
(怖い・・・。やめてほしい)
次の瞬間、シリの身体は硬くなった。呼吸が荒くなる。
震えが止まらない。涙が出る。
(ダメだ。嫌だと言ったらダメだ。ワスト領の妃なのだから。このまま、この人に抱かれないと)
硬く目を閉じる。
突然、グユウがシリの身体から離れた。
「え?」
目を開けたシリは慌てて自分の隣に移動したグユウの顔を見た。
グユウの顔は無表情だ。凪いだ瞳でシリを見つめている。
「あの・・・続きをしないのですか」
シリが問いかける。
問いかけた瞬間、急に恥ずかしくなった。
まるで自分が物欲しいような言い方だ。
(口には気をつけろとエマから言われたのに!)
「今日はやめておこう」
グユウが言った。
「なんでですか?」(また質問をしてしまった!)
しばらく沈黙が続いた。
「疲れているだろう」
「疲れていません。私は大丈夫です」
シリは、がばっと身体を起こした。
寝転んだままのグユウは、シリの顔をじっと見上げる。
「怖がる女は抱けない」
「私は怖がっていません。平気です。大丈夫です」
深い海のように青い瞳から涙をポロポロ流しながシリは訴えた。
泣いているシリにグユウは目を見開いていた。
「泣くほど怖がる女は抱けない」
もう一度話した。
「泣いていません!!」
すごい剣幕でシリは答えた。
隣室で待機しているエマは頭を抱えているだろう。
シリの返答は説得力がなかった。
誰が見てもシリは泣いている。
シリ自身も、初夜が怖くて泣いているのか、
ゼンシとの事を思い出して泣いているのか、
途中で拒否されたことが悔しかったのか、
挙式の間に気を張り詰めていた反動で泣いているのか。
さっぱりわからなかった。
グユウはフーと長い息を吐く。
「わかった。お前は泣いてない。俺は疲れた。一緒に寝よう」
シリの腕を取り優しくベットに寝かせる。
絹のような髪に顔を埋め、身体を抱き寄せる。
「何もしない。寝よう」
「私、眠くないです」
拗ねたような強い口調でシリが答える。
「そうか」
返事が聞こえる。
グユウから漂う香り、清涼な木のような香りがする。
(…嫌いではない。むしろ、好きな匂い)
グユウの暖かい胸を背中に感じながら、
眠くない。疲れてない。平気だ。
そう呟いた後、シリはあっという間に眠ってしまった。
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